第149話 救出へ

「ティトーさん、マリベルさんたちのパーティーは何人ぐらいなんですか?」


 救助対象のことを知っておこうと思ってそう問いかけると、ティトーさんからは思わぬ答えが返ってきた。


「マリベルたちは一つのパーティーではなく、いくつものパーティーが集まってダンジョン攻略を目指すクランなんです。攻略クランと呼ばれています」


 クラン……そんな仕組みもあったのか。難易度が高い五大ダンジョンならではだな。


「人数は全部で三十人はいるはずなので、マリベルの話で数人は五層に戻ったことを考えると、六層にいるのは二十人強ってところでしょう」

「それだけいれば、六層の魔物にやられてしまうような可能性は低いですね」

「はい、その心配はあまりしていません。ただ戻れないとなると精神状態が心配でして……無謀なことをしてなければ良いのですが」


 確かにそうだな。六層に閉じ込められてそのうち力尽きるのなら、一か八かでゴーレムに挑んだほうが良いと考えるかもしれない。

 そうなった場合、全員が生き残るのは難しいだろう。最悪は全滅もあり得る。


「……できる限り急ぎましょう」

「はい」


 それからは人命が掛かっているということで能力を出し惜しみせず、ひたすらダンジョンを下ることだけを考えた。

 マップの存在は教えていないけど、完璧に正しい道を選び取っていく俺たちのことを、ティトーさんは不思議に思っているようだ。


「光の桜華の皆さんは、本当に規格外ですね」

「ありがとうございます。一般的な冒険者よりは、能力的に秀でていることは認識しています」


 下手に謙遜するより認めた方が良いだろうと思いそう伝えると、ティトーさんは大きく頷いた。


「だからこそ、アグート子爵様に口添えをいただけたんです」


 ミレイアが付け足した言葉に、ティトーさんは納得の表情だ。


「今回一緒に行動させていただき、皆様が特別に目を掛けられている理由を理解いたしました。ただ強いだけではなく、何かしらの特殊能力をお持ちのようですし……」

「はい。ただそれは秘密にしていただけると助かります」

「もちろんでございます。冒険者の方々の情報を、ご本人の許可なく公開するようなことはいたしません」

「ありがとうございます」


 それからも最短距離を、できる限り魔物を避けつつ進むことしばらく。俺たちはダンジョンに入って二日目の早い時間に、五層の広場へと到着することができた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 かなり急いだので息が上がっている。これだけの速度で歩き続けても疲れを見せないウィリーって、やっぱり体力あるな。

 そしてウィリーと同じくティトーさんも、汗をかかず余裕の表情だ。やっぱりこの人、相当鍛えてるんだな。


「あっ、あそこにいるのがマリベルさんの仲間じゃない?」


 ミレイアが指差した方向を見てみると、広場の入り口から少し離れたところに三人の冒険者が座っているのが見えた。暗く疲れ切った雰囲気から、ほぼ確実に目的のクランメンバーだろう。


「お前たち! 大丈夫か?」


 まず声をかけたのはティトーさんだ。片手を上げながら三人の下へ向かうと、三人はティトーさんを視界に収めた瞬間に、ガバッと立ち上がってこちらに駆けてきた。


「ギルドマスター!」

「な、仲間が……六層に!」

「落ち着け。ゴーレムを討伐したパーティーを連れてきたから、もう心配はいらない。それよりも詳細はマリベルから聞いてるから、マリベルがここを離れてからのことを教えてくれ」

「……え、この人たちが、ゴーレムを?」

「そうだ」


 三人の冒険者はその言葉に心底驚いたようで、瞳を見開いてこちらを凝視してくる。しかしすぐに現状を思い出したのか、切り替えるように頭を下げた。


「仲間を助けてください……よろしくお願いします!」

「「お願いします!」」

「もちろん助けるよ。心配しないで」

「ゴーレムはすぐに倒せるぞ!」


 それから三人に少し話を聞いて、六層に閉じ込められた仲間たちは誰も戻ってきていないこと、一度だけ階段の向こうに姿が見えたけどゴーレムがいて六層に戻っていったこと、ゴーレムは広場に入らなければいつも通り階段の前から動かないことが分かった。


 話を聞き終えたらもう出来ることはないので、さっそくゴーレム討伐だ。


「では行ってきます」

「私たちの手助けは必要ありませんか?」

「はい。俺たちだけで倒せますので、少し待っていてください」


 ティトーさんは心配そうな表情で討伐を手伝おうとしてくれるけど、正直他の人がいると連携も大変だし面倒なのだ。


「……分かりました。ご武運をお祈りしております」


 その言葉に見送られ、俺たちは気負いなく広場へと足を踏み入れた。





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