第135話 地獄の門の情報

 ギルドの中は外観から想像できる広さに全く見劣りしない、とにかく開放感のある作りをしていた。天井が高いので冒険者が密集する時間帯でも、あまり圧迫感は感じずに過ごせそうだ。


 そんなギルド内はこの時間だとほとんど冒険者がいないようで、閑散としていた。受付にも職員はほとんどいなく、俺たちは唯一待機していた女性のところに向かう。


「こんにちは。どのようなご用件でしょうか」

「今日は移動報告に来ました。今まではアーネストのダンジョンで活動していたのですが、今日からはここでお世話になります」

「かしこまりました。ではギルドカードとパーティーカードをご提示いただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 アーネストでもやったのとほぼ変わらない手続きを済ませると、移動報告はすぐに終わりとなった。


「ダンジョンの情報はどこで聞けば良いでしょうか」

「それでしたらあちらに置かれている冊子を読んでいただくと、ダンジョンの基本情報は全て網羅できると思います。それで足りない部分がありましたら、ギルド職員に聞いてくださっても構いませんし、街の本屋などでダンジョンに関する書籍は多数取り扱っております」

「そうなのですね。教えてくださってありがとうございます」


 情報が冊子にまとめられてるなんて、よほど新しくこの街に来る冒険者が多いんだな。やっぱりクリアはできないとしても、五大ダンジョンに憧れる人たちは多くいるのだろう。


「皆、まずは読んでみようか」

「そうだね。ウィリーもちゃんと読むんだよ?」

「もちろんだぜ!」

『ミルには俺が内容を伝えるよ』

『ありがとうございます!』


 それからしばらく冊子を読み込むと、このダンジョンの概要はなんとなく掴めてきた。まずこのダンジョン、地獄の門は広く知られている通り地中型ダンジョンで、今のところ五層しか攻略できていないらしい。


 なんでも六層に続く階段を守る守護者と呼ばれる魔物がいて、その魔物を倒せたことがないのだそうだ。

 守護者はゴーレムで、とにかく防御力が高く大きいのに素早い動きを見せ、魔法も使ってくるのだとか。


「一層降りるごとに魔物が強くなるんだね」

「守護者か……それを倒せたら一気に有名人だな。なんか今から楽しくなってきたぜ」

『ゴーレムって強いのですか?』

『うーん、どうだろう。ダンジョンコアが強さを上方修正してる可能性は高いだろうし、今まで戦ってきた魔物よりも確実に強いとは思っておいた方が良いかな』


 ゴーレムって確かハンマーが有効だった気がする。ウィリーにハンマーを使ってもらったらすぐに倒せるなんてこと……もしかしたら、あるかもしれない。


「知らない魔物ばかりなのも気になるね。五層以降は初見で情報なしの魔物と戦うことも多くなるかな」

「確かにそうなるかも。アーネストではダンジョンの魔物図鑑があったけど、それがないとなると全ての魔物を網羅した魔物図鑑で調べるしかないから……さすがに魔物と相対してから調べるのは難しい気がする」

「じゃあ、慎重に相手の能力を探りつつ戦うしかないな」


 この冊子は手元に置いておきたいな。そう思いつつ周囲を見回すと、購入したい方は受付にお声がけくださいという文言とともに、値段が提示されているのが目に入った。


「皆、ちょっと高いけどこれ買うので良い?」

「もちろん良いよ。かなり有益なことが書いてあるもんね」

「買った方が良いよな」

『僕も賛成です!』


 皆の同意を得て受付に戻り、冊子を一冊購入した。そして依頼を吟味して、低層階での魔物討伐依頼など簡単そうなものをいくつか受注したところで、ギルドを後にして本屋に向かう。


「本屋の後はもう宿に戻るのか?」

「うーん、まだ少し時間があるし食べ物を補充しておきたいかな。それから魔力回復薬も」

「食べ物! それは絶対に切らしちゃいけないな。たくさん買い込むぞ!」

「ウィリーは本当に食べ物の時だけ反応が違うよね。でも今日の食べ歩きは少しだけだよ。夕食まであんまり時間がないんだから」


 ミレイアのその言葉に時計を見ると、確かにあと二時間ほどで夕食だ。あの高級宿で食べられるコース料理は、空腹じゃないともったいないな。


「そうだな。気をつけるぜ」

『僕も少しだけにしておきます! コース料理、楽しみですね……!』

『どんな料理が出てくるのか気になるよね』


 それから本屋でダンジョンに関する本をいくつか購入し、近くにあった市場でたくさんの食料と魔力回復薬を買い込んだ俺たちは、夕食を楽しみに宿へと戻った。

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