第136話 コース料理
宿に戻ると従業員に恭しく迎えられ、一度部屋に戻ってから宿に併設されているおしゃれな食堂に向かった。
その食堂はとにかく高級感が漂いゆったりとした空間が広がっていて、食堂というよりも高級レストランと言った方がしっくりくる雰囲気だった。
しかしそれぞれの席ごとに簡易の仕切りがあり、周囲の目が気になるということもないので意外にも落ち着ける場所だ。
「皆様はこちらのお席をお使いください。夕食のコース料理はメイン料理とお飲み物をご自由にお選びいただけますが、いかがいたしますか? お飲み物はそちらのメニューにあるものから、メインはこちらの三品からお選びいただけます」
メインと飲み物は選べるのか。しばらくここに滞在するんだから、飲み物を端から制覇していくのも楽しいかもしれない。でもとりあえずは飲み慣れた……
「紅茶でお願いします」
まずは冒険せずに無難なところからだ。
「私も紅茶で」
「俺はフルーツジュースにする」
『僕もジュースがいいです!』
「ミルの分もジュースでお願いします」
「かしこまりました。では次にメイン料理をお選びください」
メイン料理はオーク肉のステーキ、効いたことがない名前の白身魚のフライ、カウの煮込みの三つだった。
「……オーク肉でお願いします」
かなり悩みながら選んだ。他の二つも美味しそうだけど、オーク肉は今まで食べたことがないので気になったのだ。
「私は白身魚のフライにします」
「俺は五人前って話だけど、違うのにしてもいいのか?」
「もちろんでございます」
「じゃあステーキと煮込みを二人前ずつで、白身魚のフライを一人前で」
「かしこまりました。ミル様はどういたしますか?」
店員さんがミルに微笑みを向けてから俺に視線を動かすと、ミルから予想通りの念話が来た。
『全種類でお願いします!』
『ははっ、了解』
「ミルは全種類でお願いします」
「かしこまりました。ではお飲み物からお持ちいたしますので、少々お待ちください」
それから少し待っていると頼んだ飲み物が運ばれてきて、そのすぐ後におしゃれに盛り付けられた前菜が給仕された。
「うわぁ、美味しそうだね」
「凄いな……」
「なんだこれ、こんなの食べたことないぞ」
『フレンチみたいですね!』
運ばれてきたのは見た目ではなんなのか全く分からない、カラフルな丸い何か。店員さんの説明では魚といくつかの野菜を刻んで混ぜたサラダみたいなやつらしい。
「神に祝福を、糧に感謝を」
食前の祈りをしてから口に運ぶと、さっぱりとした美味しさに思わず頬が緩んだ。
「これ、美味しい」
「めっちゃ美味いな。よく分からない味だけど美味い!」
『さっぱりしていて食べやすいですね!』
量もちょうど良くすぐに食べきると、見計らったようにお皿が下げられて次の料理がやってきた。次はスープみたいだ。
そしてスープを食べきると、ついにメイン料理が運ばれてきた。大きなお皿の中央にステーキが盛り付けられていて、なんだかよく分からない白いソースに野菜がいくつか盛り付けられている。
ウィリーとミルはいろんな種類のメインを一皿に盛り付けてくれているみたいだ。おしゃれさも追求しつつ食べやすさも考えてくれているらしい。ありがたいな。
「うわっ、めっちゃ美味い」
ステーキを口にしたウィリーはそう呟くと、まるで飲み物のようにメイン料理を飲み込んでいく。そんなウィリーを見ながら俺もステーキを口に運ぶと、あまりの美味しさに瞳を見開いてしまった。
さっきから美味いしか言ってない気がするけど、語彙力がなくなる美味しさだ。
オーク肉は少しだけ甘みがある柔らかい肉で、焼き加減が抜群なのか噛むほどに旨味が溢れ出す。そしてその肉にこの白いソースが最高に合っている。
「ここの料理は凄いね。何だろう、今まで食べてきた料理とは種類が違う美味しさな気がする」
「分かる。串焼きとは比べられない美味しさだ」
それからウィリーがお代わりしつつメイン料理を食べきると、口をさっぱりさせるためなのかサラダとチーズが出てきて、最後にデザートが運ばれてきた。
デザートは果物をたっぷりと使ったタルトで、それを食べ終わった時にはかなり満腹だ。
「はぁ……大満足だよ」
思わずそう呟くと、ミレイアとウィリーは同意するように頷き、ミルも尻尾をパタパタと振ってくれた。
「これが毎日食べられるとか幸せだな」
「朝ご飯も楽しみだね」
「明日はさっそくダンジョンにも行くんだよな? 楽しみなことがいっぱいだぜ!」
「明日からダンジョン攻略、頑張ろうか」
俺のその言葉に皆がやる気十分な様子で頷いてくれて、俺たちは夕食を終えて各自部屋に戻った。
五大ダンジョンの探索、楽しみだな。
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