第134話 高級宿とギルドへ

「皆様、こちらにご着席ください」


 中に入ると受付に案内されるのではなく、広いエントランスにあるソファーを勧められた。そこに従業員がやってきて手続きをしてくれるらしい。


「ありがとうございます」


 お茶とお菓子を出してもらえて一息ついていたら、さっそくさっきの男性が戻ってきて手続きを始めてくれる。


「皆様のお部屋は二階に並びでご用意させていただきました。鍵はこちらになります。当宿の食事ですが、朝食は各部屋にお運びさせていただいておりまして、夕食は食堂でコース料理を食べていただくことができます。お風呂は各部屋にございますので、お好きにご利用ください。また、お洋服の洗濯ですが……」


 それから続いた説明を聞いた限り、とにかく至れり尽くせりの高級旅館だということが分かった。ただの冒険者である俺たちには、あまりにも場違いな宿だ。


 なんでこんな宿を紹介してくれたんだろう。もしかして貴族的にこの宿はそこまで高級じゃなかったりする?

 それかエレハルデ男爵の紹介状が、俺たちが思ってるよりも強い効力なのか。


 ……なんだかそれ、ありそうな気がする。


「何かご不明な点がございましたら、いつでもお気軽に従業員へお声がけください」

「分かりました。ありがとうございます。あっ、一つ聞いても良いでしょうか。……ミルの分の食事は用意してもらえますか?」

「もちろんでございます。説明が漏れてしまい申し訳ございません。ウィリー様の分は毎食五人前を、ミル様の分は毎食三人前を用意させていただく予定です」


 男性のその言葉を聞いて、ウィリーとミルの瞳が分かりやすく輝いた。


「それ本当か!?」

「もちろんでございます」

「おかわりは……」

「十分にご用意させていただきます」

「うぉぉ、ありがとうございますっ!」


 ウィリーは最後だけ敬語を思い出したようで、お礼を伝えてニカっと輝く笑みを浮かべた。


 やっぱりウィリーはまだまだ敬語が身についてないな。この宿では客の立場だから使わなくても問題はないだろうけど、こういう場面で自然と敬語が出てくるぐらいにならないと貴族との会話は難しいはずだ。


「……勉強の時間を増やそうかな」


 隣に座っていたミレイアがボソッと呟いたのが耳に入り、俺は苦笑を浮かべつつミレイアに加勢しようと決めた。


 それから部屋に案内してもらった俺たちは、各自部屋の様子を確認してから宿の一階にまた集まった。

 ちなみに部屋は、とにかく広くて豪華だった。一人部屋なのにベッドは三人が寝れそうなほどに広く、テーブルセットの他にソファーセットも備え付けられていた。


「じゃあ、冒険者ギルドに行くか」

「そうだね。今日はギルドで移動報告をして、ダンジョンの情報収集をしたら終わりかな」

「もう午後だし、それでちょうど良いと思う。できれば明日からさっそくダンジョンに潜れるように依頼も見ておこうか」


 アーネストの街に初めて行った時は慎重に準備をしたけど、俺のアイテムボックスの中に必要なものは全て入ってるし、今回は情報を得るぐらいで十分だろう。


 皆で宿を出てギルドがある方向に向かって歩き出すと、ミルが楽しそうに尻尾を振って俺を見上げた。


『ダンジョン、楽しみですね!』

『分かる。初めての五大ダンジョンだから不安もあるけど、楽しみの方が大きいかな』

『僕もです!』

「ミルがダンジョン楽しみだって」


 二人にもミルの言葉を伝えると、二人は同意するように頷いてからミルの頭を撫でた。


「今回のダンジョンは誰も踏破してないからな! 未知に挑むのはワクワクするぜ」

「ダンジョンがどこまで深いのか分からないんだもんね。トーゴ、まだダンジョンの全容はマップで見てない?」

「見てないけど……」

「じゃあ見る前に予想してみようよ。私は……五十層だと思う!」


 ミレイアが楽しそうな笑みを浮かべたので、それに乗ることにして真剣にダンジョンの深さを考えてみた。


 アーネストのダンジョンが三十層だったことを考えると、ここ地獄の門は五大ダンジョンだから百層を超えても不思議じゃない。


 でもそんな単純じゃない可能性もある。例えば一層が広い代わりに層は多くないとか、魔物の強さが尋常じゃない代わりにダンジョン自体は狭いとか。


「俺は十層にかける」

「おおっ、攻めるな。俺は百層だ!」

『僕は七十にします!』

「ミルは七十だって。じゃあ見てみるよ」


 皆の予想が出揃ったところでマップを確認すると、地獄の門の深さは……全部で二十層だった。


「正解は二十。俺が一番近いかな」

「マジかよ! そんなに浅いのか!?」

「そうみたい。でもとにかく広いよ。一層で端から端まで歩くと数十キロはある」


 階段から階段への距離がかなり離れてるところもあるし、アーネストのダンジョンよりも攻略には時間が掛かるだろう。


「数十キロ……それは歩いたらかなり時間が掛かるね」

「そう考えると浅くてもさすが五大ダンジョンだな。地形はどうなんだ?」

「ここも五層ごとに変わるみたいで、最初は洞窟、次は草原と森、次は砂漠、最後は……荒野に木が生えてるみたいな感じかな」


 最後の五層が、今までにあまり見たことがないマップになっている。もしかしたらここって、何かしら悪天候がある層なのかもしれない。マップには天候まで映らないので嵐でも大雪でも分からないから。


「またいろんな地形があるんだな」

「環境ごとにちゃんと準備しようね」


 そんな話をしているとギルドが見えてきた。今までの街にあったギルドより何倍も大きい建物に圧倒されるけど、皆で顔を見合わせてドアに手を掛ける。


「じゃあ行くよ」

「おうっ!」




〜あとがき〜

いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

昨日から「神に転生した少年がもふもふと異世界を旅します」のコミカライズが配信開始されましたので、告知させていただきます!


がうがうモンスターのマンガがうがうというアプリで配信されていますので、ぜひ読みにいってみてください。


よろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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