第64話 報告

 ナルシーナの街に戻ると、門のところでベルニさんとは別れることになった。ベルニさんはこの後宿を取って一泊し、明日は村に必要なものをいくつか購入して帰るのだそうだ。

 帰りは冒険者に護衛を依頼するらしく、その冒険者は村からの帰り道は歩きらしい。そういう依頼は大変だよな。でも報酬が悪くないから受ける人は多いのだそうだ。魔物が出なかったら戦わずにお金がもらえるのも魅力の一つらしい。


「じゃあウィリー、トーゴさんに迷惑かけるなよ」

「分かってるよ! 兄ちゃんは早く結婚しろよ」

「なっ……それは言わない約束だろ!?」

「そんなの知らないし」


 二人は男兄弟らしく、歳が離れていても喧嘩するみたいだ。喧嘩するほど仲が良いってやつだな。


「はぁ……まあ良い、嫌になったら帰ってこいよ」


 ベルニさんはウィリーの頭をぽんぽんと軽く叩いて、優しい声音でそう言った。


「……ありがと」

「では皆さん、この度は本当にありがとうございました。またよろしくお願いいたします」

「ああ、また機会があればその時はよろしく頼む」

「ありがとうございます。トーゴさん、ウィリーのことをよろしくお願いいたします」

「はい。これからは仲間として助け合っていきます」


 ベルニさんは俺のその言葉に安心したように微笑み、そのまま獣車を引いて街中に行ってしまった。


「よしっ、まずは冒険者ギルドだな。依頼達成の報告とミルテユの報告をしよう。ウィリーも一緒に来るか?」

「ウィリーも行くよ。ついでに冒険者ギルドに登録しちゃおうかと思って」

「確かにそれが良いな」

「ウィリーはそれで良い?」

「おう、俺は何でも良いぞ!」


 ウィリーはさっきまで泣きそうな顔をしてたけど吹っ切ったのか、もう笑顔を浮かべていた。まだしばらくこの街にいる予定だし、ウィリーが帰りたくなったら村に返してあげよう。

 でもウィリーがこれから先もずっと俺と一緒に来てくれる様子だったら、その時はこの街を離れる時に村を訪れて挨拶するのも良いかもしれない。


「じゃあ行くか」

「ウィリーは村から出たのも初めて?」

「ああ、兄ちゃんから話は聞いてたけど来たのは初めてだ。人がこんなに多いなんてびっくりだし、建物が大きいな。それに密集してる」


 ウィリーはいかにも田舎から出て来ましたっていう雰囲気丸出しで、周りをキョロキョロと眺めている。


「時間が作れたら街の案内もするよ。と言っても俺もそこまで詳しくないんだけど」

「そうなのか?」

「うん。俺も少し前に村からこの街に出て来たんだ」

「じゃあ俺と同じだな」

「そうなんだよ。もう一人の仲間のミレイアはこの街出身だから、ミレイアに案内してもらおうか」

『トーゴ様、ミレイアさんはほとんど家から出たことがないので、街には全く詳しくないですよ』


 俺がミレイアにって言った途端ミルに突っ込まれた。確かにそうだったよな……完全に忘れていた。


『ミルありがとう。ミレイアがこの街出身ってことしか頭になかった』

「やっぱりミレイアは街に詳しくないんだった。皆で街を探検でもしようか」

「それ楽しそうだな!」

「じゃあ今度時間がある時に」


 そんな話をしつつ歩いていると、冒険者ギルドに到着した。今日はいつもより早い時間なのでまだ人はまばらみたいだ。


「ここが冒険者ギルドなのか?」

「うん。今は時間的にかなり空いてる方かな。夕方はヤバいよ、マッチョの巣窟になるから」

「何だよそれ」

「本当なんだって、筋肉に潰されそうになるから」

「ははっ、トーゴももっと筋肉つけなきゃダメってことだな」


 俺だって頑張ってるんだけどなぁ。もう体質的にマッチョになるのは無理そうな気がする。


「リタさん、依頼達成したんだが他にギルドに報告があるんだ。大勢の人に聞かれない方が良いから別室を準備してくれないか?」


 マテオは受付に向かうとすぐにそう告げた。するとリタさんは良くあることなのか少々お待ちくださいと言って裏に向かって行く。


「別室なんて用意してもらえるんだ」

「ああ、他のやつに聞かれたくないこととか、指名依頼の内容を公に明かしたくない時とか、結構使われるぞ」

「そうなんだ」

『ミル、冒険者ギルドの別室だってよ。ちょっとワクワクしない?』

『ですね! 強面のギルドマスター登場でしょうか!?』

『それか美魔女の色気たっぷりギルドマスターかもよ!』


 ミルと馬鹿な念話をして盛り上がっていたら、リタさんが戻って来て奥に案内してくれた。そして案内された部屋にいたのは……くたびれた感じのおじさんだった。


『ちょっと残念だな』

『イメージと違いましたね……』


 マテオが中心で話をするようで、おじさんとマテオが挨拶をしてソファーに座り話を始めた。その話を聞いていると、この人がナルシーナの冒険者ギルド副ギルドマスターらしい。


「今日はなんの報告でしょうか?」

「実は今回依頼を受けた村で、魔物を引き寄せる香りを放つ植物を見つけてしまいまして……」


 マテオが声を小さくしてそう告げると、副ギルドマスターは驚愕の表情を浮かべて額に浮かんだ汗を袖口で拭った。


「それは、間違いでは無いのですか?」

「はい。しっかりと検証しましたので」

「なんと……これからどれだけ大変になることやら。私の休日がまた遠くへ、地平線の彼方へ行ってしまった……」


 副ギルドマスターはどこか遠い目をして呆然とそう呟いた。この人って日本でよく話題になってた社畜な感じがめっちゃ伝わってくるな。仕事に追われて大変なのだろう。……段々と可哀想になってきた。


「……はっ、今一瞬意識が飛んでいたような。申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です。それよりも副ギルドマスターは大丈夫ですか?」

「はい、はい……多分大丈夫です。それでその植物はどのような形をしているのでしょうか? どこに生えているのか、どれほどの威力があるのかなどは分かりますか?」


 副ギルドマスターは復活したようで、紙とペンを取り出してマテオにそう聞いた。


「実物を持参しましたのでそちらをご覧いただければと。生えているものも全て根から抜き取り持ち帰ってあります。威力はそこまで正確なことは分かりませんが、多分半径五百メートルほどの範囲までは届くかと。それから効果は三、四時間持続します」

「持ち帰ったとは……小さなものなのですか?」

「いえ、人の背丈はある木なのですが、ちょうど臨時パーティーを組んでいたトーゴがアイテムボックスを使えまして、全て持ち帰ることができました。木は数本だけでしたので」


 マテオのその言葉に副ギルドマスターは少しだけ顔色を良くする。予想よりも俺達がしっかりと対処をしたことで少しは仕事が減るのだろう。副ギルドマスター良かったね。


「そこまでしていただきありがとうございます。では倉庫に移動して、そちらに全て出していただけますか?」

「かしこまりました」


 そうして俺達は冒険者ギルドの隣にある建物に移動した。中にはさまざまな素材が一時保管されているようだ。

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