第120話 尾行と計画
それからはロドリゴさんを尾行する毎日を過ごしていた。しかし何も動きがなくて作戦失敗か……そう思い始めた四日目の夜、ロドリゴさんがいつもの定宿じゃなくて別の方向に向かって歩き始めた。
これは……あのアジトがある方向だ! もしかしたらあの男達とまた会って、何か行動を起こすのかもしれない。
「ミレイア、ウィリー、ミル」
皆に近づいてもらってロドリゴさんの行動を伝えると、皆は真剣な表情になった。ここからが正念場だろう。できればまた会話を盗聴したい。俺達を襲う時が分かれば、色々と事前に準備できる。
「大人数であそこに行くのは目立つから俺だけで行ってくる。皆はこの辺で買い物して待ってて」
「……分かった。でも気をつけてね」
「何かあったらミルを通してすぐ呼べよ」
「もちろん」
『トーゴ様、絶対に無事で帰ってきてください』
『分かってるよ』
俺は不安そうなミルをギュッと抱きしめて頭を撫でてから、ちょっと見てきたい店があるからと言って、自然に二人と別れてロドリゴさんを追った。
マップを駆使して誰もいない通りを全力で駆け抜ける。もちろんステルスはすでに自分にかけた状態だ。
これは……ほぼ確実にあのアジトだな。俺はロドリゴさんにかなり近づいたところで走るのを止めて、一定の距離をとって後ろに付いていった。
そうして歩くこと十分ほど、ロドリゴさんはアジトに入っていき、俺は前回と同じようにベランダに登って息を潜めた。
「なんで俺らを呼んだんすか? 半年はここに来るな連絡するなって言ってたのに」
「事情が変わったんだ。光の桜華がいるだろう? あいつらがこの街を拠点にするとか言い出しやがった」
「うわぁ……そりゃあ最悪ですね」
「ああ、だからあいつらを初心者狩りとして襲いたいが、それじゃあ貴重なアイテムを使って身代わりを捕まえさせた意味がない。だから――光の桜華は、ダンジョン内で殺すつもりだ」
え、殺すの!? 他の冒険者と同じように怪我をさせられる程度かと思ってたのに……
「殺しをやるんすか? でも俺らはダンジョンに入れないですよ?」
「そうだな。お前達に冒険者ギルド登録させるのはリスクが高い。だから――俺が自分でやる」
「ロドリゴさんが……大丈夫なんすか? せめて殺さずに足を使えなくするとかにしたほうが……」
「それはダメだ。生きてたら誰かに襲われたと証言するだろ? それじゃあ初心者狩りが他にいるとバレる。あくまでもあいつらは、魔物に殺されて行方不明になるんだ」
確かに……ダンジョン内で殺しをしたって、バレる可能性は少ないよな。魔物にやられてダンジョンから帰ってこない冒険者なんてかなりの数がいるんだろうし……。
うわぁ、ダンジョン怖いな。というよりも人って怖い。
「確かにそうっすね。でもそれならなんで俺達を呼んだんすか? ロドリゴさんがやるなら俺達は関係ないんじゃ」
「いや、お前達には罠の調達を頼みたい。さすがにあいつらを正攻法で俺一人で殺すのは難しい。待ち伏せして罠にかけて、残ったやつは俺が殺る」
「あぁ、そういうことなら了解です! どんな罠がいいとかあるでしょうか。闇ルートで手に入りやすいのは……落とし穴を一瞬で作るアイテムとかですが」
「それも良いが、毒霧を準備しろ」
「うわぁ、それは高いっすよ? ダンジョン産のやつですか?」
「そうだ。どこかにぶつかったら一瞬で広がって、すぐ死ぬ強いやつが良い。毒を防げるマスクも準備しろ」
毒霧とか……そんなのあるのか。ダンジョンの宝箱から出てくるのって、凶悪なのもあるんだな。魔物の群れに使ったらめちゃくちゃ強いはずなのに、なんで人間同士で使うのか。
毒の霧なんてどう防げば良いんだろうな……とりあえず投げつけられたらミレイアのバリアで完全に囲うのが良いか、それとも俺が氷魔法で凍らせるのが良いか。
やっぱり確実なのはバリアかな。ミレイアには投げつけられたものをバリアで囲う練習をしてもらおう。
「どのぐらいで準備できる?」
「そうっすね……一週間はかかります」
「じゃあ一週間後にまたここに集合だ。そこで毒霧を受け取る。金はこれだけあれば足りるだろ? ちゃんと毒霧を手に入れたら、またそれと同額をやる」
「え、こんなにいいんすか! ありがとうございます!」
「じゃあ頼んだぞ」
そこでロドリゴさんと男達は話を終えてこの建物から去っていき、声は聞こえなくなった。俺はマップで黒い点が遠く離れたところで、やっと詰めていた息を吐き出す。
「はぁ……殺しを計画されてるなんて、怖いな」
相手を殺しても良いって考えてる人は、何をするか分からない。事前に計画を知ってるからって油断せず、最大限に警戒すべきだな。
とりあえず、宿に戻って皆と話し合いだ。
『ミル、盗聴できたからこれから戻るよ』
『トーゴ様! ご無事で良かったです!』
『皆はどうしてる?』
『普通に買い物をしています。暁の双子亭に向かう路地の近くに広場があると思いますが、そこの屋台です。ウィリーさんがお腹が空いたと串焼きを食べています』
『ははっ、ウィリーらしいや。じゃあそこに向かうから待ってて』
『かしこまりました!』
それから俺はミルとの念話を頼りに皆と合流し、宿に戻った。
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