第121話 話し合いとギルドへ

 宿に戻った俺達は、俺の部屋に集まって話し合いの体制に入った。最近は初心者狩り騒動で、宿での話し合いばっかりしてる気がするな。


「それで、何の話が聞けたの?」


 俺はミレイアのその言葉を聞いてから皆の顔を見回して、一度だけ深く深呼吸をして口を開いた。


「俺達の、暗殺計画」

「……はぁ? 暗殺って、俺達は殺されんのか!?」

「ロドリゴさんはそう考えてるみたい。初心者狩りはせっかく囮を捕まえさせたから、やるならダンジョン内で魔物に殺されたように偽装するんだって。そのために毒霧っていうアイテムを手に入れるように話をしてたよ」


 俺のその言葉を聞いて、宿の一室には沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはミレイアだ。


「毒は怖いね……しかも霧状なんて、どうやって防げば良いんだろう」

「一応考えてるのは、ミレイアの結界で囲っちゃうことなんだけど……出来る?」

「どうだろう。ちょっと何かを投げてみてくれる?」


 ミレイアのその言葉を受けて、俺はアイテムボックスに入っていた布を縛って丸めて投げてみた。するとミレイアは……上空で布を正確に結界の中に収めた。


「おおっ、すげぇな」

「問題なくできるかも。でも問題は結界を解除するときだよね。解除して毒が散布されちゃったら意味ないし」

「そこは俺が氷で固めれば良いかなと思ってるんだけど、どうかな。結界の中を氷漬けにすれば氷の中に毒の成分も収まるよね? そうすれば俺がずっとアイテムボックスに仕舞っておくのでも、どこかに解毒を頼むのでも、俺が光魔法のキュアで解毒してみるのも色々とできるだろうし」


 俺のその言葉を聞いて納得したのか、皆は毒霧の対処についてはその方向で頷いてくれた。


「それで一番の問題は……どうやって現行犯で逮捕するかだよね。私達だけじゃどっちの言い分が信じてもらえるか定かじゃないし、ロドリゴさんが私達を襲ってるところを誰かに見てもらわないと」


 そうなんだよな……そこが一番の難題だ。これから一週間後にロドリゴさんがまたあの男達と会うだろうから、そこも盗聴して俺達を襲う日程を聞き出すことはできる。後はその日にどうにかして、ダンジョン内に目撃者を作らないと。


「あれじゃねぇか? ビクトルさんに全部打ち明けて協力を頼もうぜ」


 俺とミレイアが頭を悩ませているところに、ウィリーがそんな提案をした。


「確かに、それが一番かもしれませんね……」


 するとミルもその意見に同意みたいだ。確かにそれしかないかなぁ。ビクトルさん本人が目撃するぐらいじゃないと、ロドリゴさんに襲われたなんてことを信じてもらえない気がするし。


「話を、してみようか」

「……そうだね。頑張って信じてもらえるように話をしようか。ビクトルさん、驚くよね」

「驚くというより笑い飛ばされる気がする」

「もし信じてもらえなかったとしても、ロドリゴさんに直接聞いてみるとか、そんな馬鹿なことはさせないように気をつけようぜ」

「最悪はビクトルさんを拘束ですね。それでまた別の人、例えば兵士の方とかに話をしてみるしかない気がします。ただ知り合いもいないですからね……」


 俺達の人望があればもっと楽なんだろうけど、ただの最近来た冒険者だからな。


「とりあえずはビクトルさんに話をしてみようか。今日はもう夜だから明日かな。ロドリゴさんがギルドにいない時に話をしよう」

「そうだな。じゃあ今日はさっさと休むか」

「そうしよっか」

「でもその前に夕食ですね! 早く下に行かないと、食べられる時間が終わっちゃいます」


 俺達はミルのその言葉に顔を見合わせて笑い合い、皆で部屋を出て下の食堂に向かった。



 そして次の日。俺達はロドリゴさんがいないのをしっかりと確認して、ビクトルさんに話があると時間を取ってもらった。ビクトルさんは俺達が初心者狩り逮捕に協力したからか、前よりもかなり好意的だ。


「ビクトルさん、あの男はどうなりましたか?」

「初心者狩りのことか? 兵士詰所でまだ尋問中と聞いている」

「そうですか」


 はぁ、とりあえずまだ殺されてはないようで良かった。ロドリゴさんの方に付きっきりで、初心者狩りにさせられたあの男をあまり監視できなかったのだ。

 兵士詰所にいるって聞いてたから、さすがにそこに忍び込んでっていうのは難しいだろうと思ってたけど、無事で良かった。


 狙われるとしたらどこかへの移動中とかかな。そのことについてもビクトルさんに話をしないと。


「今日はその話が聞きたかったのか?」

「……いえ、他にもとても重要な話があって、時間をとってもらいました」


 俺のその言葉を聞いたビクトルさんは真剣な表情になり、雰囲気をピリッとしたものに変えた。


「悪い話なんだな」

「はい。信じられない話だと思いますが……聞いていただけたら嬉しいです。これから話すことは全て真実です」


 俺はそう前置きをしてじっとビクトルさんの瞳を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「初心者狩りとして捕まえたあの男は、ダミーです。本当の初心者狩りは……ロドリゴさんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る