第122話 大事な話
俺の言葉を聞いて、ビクトルさんはしばらく沈黙を貫いた。俺達にとっては何時間にも思えるほどの、居心地が悪い数分間を耐えていると……
「はぁぁぁ」
ビクトルさんが大きく息を吐き出し、髪の毛をぐしゃっと崩す。そして困惑の表情で俺の顔を見つめた。
「そんな馬鹿なと言いたいが、お前達がそんな嘘をつく意味がないよな……」
「はい。嘘じゃないです」
「何故、お前達はそれを知ったんだ?」
「ロドリゴさんが怪しいと思って尾行しました。そうしたら街の外れにアジトがあって……俺は闇魔法が使えるのでステルスで窓から盗聴しました。するとロドリゴさんが金で雇った男達と会っていて、初心者狩りだと判明したという流れです」
それから俺は盗聴で得た情報を全て、俺達が毒霧で狙われていることまでをロドリゴさんに伝えた。
「マジかよ……」
「それでその狙われた現場に、もし来られるならばビクトルさんが、無理ならば兵士の方達やギルド職員でも良いので同行をお願いしたいです。もちろんロドリゴさんにはバレないように」
俺はそこまで話をすると全てを話し切った達成感で、少し頬が緩んで体の力が抜けた。とりあえず笑い飛ばされてないし、少しは信じてくれているようで良かった。
「トーゴ、お疲れ様」
「ミレイアありがとう」
「ビクトルさん、これはマジだからな」
ミレイアが俺に笑いかけてくれてウィリーは念押ししてくれて、そしてミルが俺の足に顔を擦り寄せてくれる。本当に良い仲間を持ったな。
「ミル〜」
俺は寄ってきてくれたミルの首元にギュッと抱きついて、もふもふの毛並みに癒された。
「……分かった。ロドリゴがそんなことをしてるなんて信じたくないが、ロドリゴの無実を証明するためにも、お前達の話を信じることにする。ロドリゴがお前達を襲うだろう現場には俺が向かう。兵士達も連れて行く」
「本当ですか! ありがとうございます……!」
これでロドリゴさんを現行犯で捕まえられる! 信じてくれなくても、その場に来てくれさえすれば大丈夫だ。後はちゃんとロドリゴさんが襲ってくる時を盗聴で確認して、ロドリゴさんに躊躇わせないためにいつも通りを装わないと。
「一週間後にアジトでロドリゴさんが男達と会うので、その後でまた報告に来ます。それまで絶対にロドリゴさんにバレないよう、秘密裏に兵士と連携をお願いします」
「――分かった。そこは信用してくれ。俺はロドリゴと付き合いは長いがギルドマスターだ。お前達を蔑ろにすることはしない」
俺はビクトルさんのその言葉を信じることにして、よろしくお願いしますと頭を下げて応接室を後にした。
それから俺達は宿に戻り、俺の部屋でささやかなお祝いをすることになった。ビクトルさんにとりあえずでも信じてもらえたことで、皆の表情は明るい。
「信じてもらえて良かったね!」
「今日は祝いだ〜!」
ウィリーはお祝いだと満面の笑みで、アイテムボックスから取り出して机の上に並べた料理をひたすら口に詰め込んでいる。本当にウィリーの食べる勢いは凄いな。
ミルも小さくなって、嬉しそうにサンドウィッチにかぶりついている。
「ミルちゃん、可愛いねぇ」
ミレイアはそんなミルを愛でることに夢中だ。この数日はずっと心が休まらなかったし、これからも大変だしこうして息抜きも大切だよな。
俺はそう考えながら、近くにあった良い匂いがするサンドウィッチを手に取った。そして口に入れると……
「ん! このサンドウィッチめっちゃ美味い」
その美味しさに驚く。これどこの屋台で買ったやつだろう、今まで食べた中でかなり上位の味だ。
「え、どれだ?」
「この緑色のソースのやつ。このソース絶品だよ」
『ミル、日本にあったバジルソースみたいな味がする』
『本当ですか!?』
ミルは俺からの念話を聞いてピンッと尻尾を立てると、瞳を輝かせて俺を見上げた。
「僕も食べたいです!」
「了解。ウィリーも食べる?」
「もちろん食べるぞ!」
「私も食べるー!」
俺は皆の言葉を聞いて、アイテムボックスから俺と同じサンドウィッチを三つ取り出した。
「はいどうぞ。これってどこで買ったやつだっけ?」
「色んなところで買いすぎて、分からなくなっちゃったよね」
「僕が分かると思います!」
ミルはそう言ってサンドウィッチの匂いを嗅ぐと……しばらく悩んでからパァッと顔を明るくして口を開いた。
「外壁の近くにある広場にあった屋台です! あの若い男性がやっていた……確か髪色は赤だった気がします」
「ああ、思い出した。あのピアスがめっちゃ開いてた、ちょっと怖い人?」
ミレイアのその言葉で俺も思い出した。めっちゃ強面の人がやってるから避けようとしたけど、ミルが美味しそうな匂いがするって言ったから買いに行ったんだ。
話しかけてみたらにこやかで明るい人で、拍子抜けしたんだよな。
「思い出した。また買いにいこうか」
「うおっ、マジで美味いな。これは買い占め決定だ」
「本当だね。凄く美味しい」
「絶品です……!」
それからも俺達は皆でわいわいと美味しい食事を堪能して、楽しい時間を過ごした。
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