第123話 作戦実行

 ビクトルさんに打ち明けてからの一週間は、ひたすらいつも通りにダンジョンで依頼をこなしながら過ごした。そして昨日の夜遅くにロドリゴさんがまたアジトに向かったのでそこを尾行し……俺達を暗殺する日程を聞き出すことに成功した。


 その日程とは、今日の午前中だ。ロドリゴさんは男達から毒霧などを受け取るとその足でダンジョン入り口に向かい、そのままダンジョンに入っていった。

 ビクトルさんがギルド職員にさりげなく聞いたところによると、急ぎの依頼があると言っていたそうだ。


「本当に、ロドリゴのやつはダンジョンに入ったな」


 ビクトルさんは悲しいのか怒ってるのか分からない複雑な表情で、ぽつりとそう呟いた。ここはギルドの応接室で、時間はいつも俺達がギルドに来る朝早くだ。

 俺達は今からダンジョンに入ることになっている。後ろには冒険者に扮したビクトルさんや兵士を連れて。


「はい。……俺達はダンジョンに入ったら、不自然に思われないように十層を過ぎるまでは一気に下ります。そしてその辺りでロドリゴさんが俺達を襲いやすいように、人気がない場所に向かいます。なのでそこからは、特に警戒をお願いします」


 ビクトルさんが感慨に耽る時間はないのでこれからの予定を伝えると、ビクトルさんは一度大きく目を瞑ってから頷いた。


「分かった。後ろのことは任せておけ。お前達は自分の身を守ることに専念して欲しい」

「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」


 そうして最後の打ち合わせを終わらせると、俺達は応接室を後にしてダンジョンに向かった。そしていつものように一層から五層までを駆け抜けると……六層に入ったところで、マップに黒い点が映った。


「皆、いつも通りにしながら聞いて。ロドリゴさんがいたよ。近くの森の中」

「……ここでもう襲ってくるのか?」

「うーん、まだ動く様子はないみたい。多分動くとしたら俺たちが人気のない場所に向かったときだと思う。とりあえず、ロドリゴさんがついて来られるようにスピードを落とそう。ビクトルさん達もいるし」

「分かった」


 俺達が六層を階段に向かって進み始めると、ロドリゴさんが動いたのが分かった。


「ロドリゴさんって、なんでもっと奥の階層で待ってなかったんだ?」

「私達がどこまで下りてくるのか、分からないからじゃない?」

「確かにそうか。じゃあ俺達が目指してる層を伝えたら、先にそこまで行くんじゃねぇか。その方が楽じゃねえ?」


 それは一理あるな……十層以降にいる魔物を探してるというのをロドリゴさんに違和感なく伝えられれば、俺達としても緊張感が長続きしなくてありがたい。

 でもそれってかなり難易度が高い気がする。違和感を持たれたら終わりだしな……


「……それはリスクが高いから、地図を見て一直線に階段に向かったらそれを匂わせられない?」

「確かに。六層から十層は魔物の種類が同じだし、六層をすぐに抜けた人は大体は十一層までそのまま行くよね」

『試してみましょうか。もしダメだったら仕方がないので、ずっと警戒しつつ行くしかないですね』


 ミルの念話を二人に伝えると、二人はミルの頭を優しく撫でて頷いた。


「よしっ、じゃあ十一層までどんどん行くぞ!」


 それからの俺達は一応ビクトルさん達のことを気にしつつ、かなりの速度で六層を駆け抜けた。するとロドリゴさんは七層に入った時点で俺達が十一層を目指していることに気づいたらしく、途中で俺達から離れて先に行くのがマップで分かった。


「ロドリゴさんってBランクになってるだけあって、実力はあるんだね」

「この速度に一人でついて来られるんだもんな」


 本当だよな……なんで犯罪に手を染めたんだろう。被害者がたくさんいるから同情心は湧かないけど、勿体ないとは思う。

 ロドリゴさんはソロだし、誰かとパーティーを組めばもっと上を目指せたはずなのに。ソロのままでもソロ冒険者としてはかなり上位で、将来に不安がない程には稼げていたはずなのに。


 ――やっぱり身分とかって、人をおかしくするのかな。


「ロドリゴさんを追いかけようか」

「そうだね」

「トーゴ、またマップに映ったらすぐ教えてくれよ」

「もちろん」


 ビクトルさん達は……近くにバラけているみたいだな。三人一組で五組が俺達についてきてるんだけど、全員が問題なくいるみたいだ。

 俺達はそれを確認してから、今度は八層に向かって歩みを進めた。



 ――そしてそれから三十分。


 十一層に入ったところでさり気なく人気のないところに向かい、森と森の間の草原で休憩を装って岩に腰掛けたところで……ついに、ロドリゴさんが行動を起こした。


「ミレイア、右斜め前」


 俺がそれを察知してミレイアに小さく声を掛けると、ミレイアはそちらにさりげなく視線を向けて……森から凄い速度で放たれた毒霧を結界でキャッチした。


 ロドリゴさんはまさか毒霧が防がれるとは思っていなかったようで、毒霧を投げた瞬間に森から飛び出してきていた足を呆然と止めた。


「どういうことだ……?」


 多分今のロドリゴさんの頭の中では、これからどうするのが最適かを考えているのだろう。ロドリゴさんは俺達をじっと凝視して周囲を見回して、毒霧が発動している様子と自分が手にしている剣を見て――


 ――突然ウィリーに向かって、鋭い視線で剣を振り上げた。

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