第124話 現行犯逮捕

 ロドリゴさんが鋭く振り下ろした剣をウィリーはいつものように斧で受け止めたけど、予想以上に重い一撃だったようで一歩だけ後退った。

 ウィリーが後退るって、やっぱりロドリゴさんは強いんだな。


「お前ら……なんで防げた!?」

「ちょっ、おい、うわっ」


 ウィリーはロドリゴさんを殺してはいけないと手加減しているからか、防戦一方で少し苦戦している。ミレイアのバリアは使えないし……そう状況を判断した俺は、アイスバインドを発動してロドリゴさんを押さえ込もうと考えた。


「アイスバインド」


 魔法は成功してロドリゴさんに氷の蔦が巻き付いた……けど、ロドリゴさんの力が予想以上に強く、かなり魔力を使わないと押さえ込んでいることができない。


「ウィリー、今のうちに縄で縛って!」


 そう叫んで縄をアイテムボックスから出して投げると、ウィリーは「おうっ!」と叫んで受け取ってくれた。


「早めにお願い! 魔力がかなり減ってく……!」

「離せっ! 俺にこんなことをしていいと思ってるのか! 俺はエレハルデ男爵様と仲がいいんだぞ!?」


 ロドリゴさんが叫んでいるけど無視だ。いつものにこやかな表情とは全く違うな……別人みたいだ。ここまで豹変するなんて、人って怖いな。


「お前は初心者狩りとして突き出してやるよ」

「はっ、お前らなんかより俺の方が信頼がある。お前らのことなんか誰が信じるか! 初心者狩りだってな、俺じゃなくてやったのは金で雇った男達だ!」


 ロドリゴさんはかなり動揺しているのか、ぼろぼろと重要な情報を叫んでくれている。これほどに喋ってたらもう証拠は十分だろう。でも最後に念押しで……


「やっぱりお前が初心者狩りだったんだな」

「――どこで気づいたのかしらねぇが、いい気になるなよ! 俺が初心者狩りなんて誰も信じるわけねぇだろ!」


 俺の言葉にロドリゴさんは、目を血走らせてそう叫んだ。これで確定だなぁ……


 俺がそう思った瞬間、周辺の森から兵士やビクトルさんが次々と姿を現した。それを見たロドリゴさんは驚愕に表情を歪め……少ししてから、諦めたように肩を落として大人しくなった。


「――お前がこんなことをしていたなんて、残念だ。お前とは良い友人関係を築けていると思っていたんだがな」


 静かに告げたビクトルさんのその言葉に、ロドリゴさんが反応することはなかった。


「光の桜華、トーゴ、ミレイア、ウィリー、そしてミル。今回は初心者狩りの逮捕に多大な貢献を感謝する。本当に、本当にありがとう……」

「いえ、お役に立てたのであれば良かったです」


 ビクトルさんは俺達に深く頭を下げると、兵士達と話をしてロドリゴさんを立ち上がらせた。そして頑丈に縄で縛り魔法が使えないよう口に布を巻いて、兵士十人でダンジョンの出口に向かって護送していく。


 俺達もビクトルさんとその後に続き、かなり目立ちながらロドリゴさんを連れて地上に戻り……やっと初心者狩りの騒動が終わりとなった。



 冒険者ギルドに戻るとビクトルさんに応接室へ呼ばれ、俺達は神妙な面持ちのビクトルさんと向き合った。


「改めて、本当にありがとう。そしてすまなかった」

「いえ、もう良いですよ。ビクトルさんが悪いわけではないですし。これから……どうなるのでしょうか」

「ロドリゴについてはまず、エレハルデ男爵様にご連絡をしなければならない。よって男爵様に光の桜華についても話をすることになる」


 うわぁ……やっぱりそうなるんだ。俺が心の中で嘆いていたら、隣に座るミレイアとウィリーからも嫌そうな雰囲気が漂ってきた。


「めんどくさいな」

「それって……私達の名前を伏せられませんか?」


 ウィリーがボソッと呟いた後に、ミレイアがビクトルさんにそう問いかける。するとビクトルさんは物珍しいものを見るような目で俺達を見回した。


「お前ら……貴族様との関わりを面倒くさがるとか、普通はあり得ないぞ?」

「だってよ、貴族様との関わりができたら自由に動けなくなるだろ? それに敬語も勉強しないといけないしよ」

「だが、それ以上に名誉や立場が手に入るんだぞ?」

「う〜ん、それって食べられないしなぁ」


 食べられないって……めちゃくちゃウィリーっぽい答えだな。俺は思わず吹き出しそうになってしまい、それを必死に押さえた。


「いや、それは食べられないけどな。そういうことじゃないだろ?」

「俺にとっては重要なポイントだ。それで、俺達の名前は伏せられるのか?」

「いや、それは無理だ。男爵様に隠し事なんてできない。それにさっき少し話を聞いた結界だが、それは王都の冒険者ギルドに報告する案件だからな」


 やっぱりそうなるんだ……毒霧を防ぐには結界が一番だったから仕方がないと思ってたけど、いざこう言われると面倒だ。これからどうなるのか。


 ちなみに毒霧の毒は俺が凍らせてアイテムボックスに仕舞い、ギルドに戻ってからはビクトルさんが引き取ってくれた。あの毒除去の皿の上に載せたので、多分毒成分は無くなってるはずだ。でも一応ちゃんと処理してくれるらしい。


「分かりました。もう仕方がないと諦めます。報告、よろしくお願いします」


 俺が諦めてそう告げると、ビクトルさんは安心したように頷いて「任せてくれ」と頼もしく言ってくれた。


「じゃあこれからのことが決まったらまた連絡する」

「分かりました。よろしくお願いします」


 そうしてビクトルさんとの話を終えた俺達は、冒険者ギルドを後にして宿に戻った。これから大変なことがたくさんありそうだけど、とりあえずここ最近の懸念事項がなくなり、俺達の足取りはとても軽かった。

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