第125話 これからのこと

 ロドリゴさんを捕まえた二日後。俺達はビクトルさんに呼ばれて、すでにお馴染みとなった応接室にやってきた。

 この二日間は休みにしようと決めて、皆で食べ歩きをしたり服を買いに行ったりと楽しんだので、もう疲れは完全に抜けている。


「来てくれてありがとな」

「いえ、大丈夫です。今後のことが決まったのでしょうか?」

「ああ、エレハルデ男爵様からの伝言だが……明日の午前十時に獣車を迎えに行かせるとのことだ」


 あ、明日? 午前十時? 


「それって……迎えに来た獣車に、俺達が乗るんですよね?」

「当たり前だろう?」

「それで、どこに向かうんですか?」

「エレハルデ男爵様の別荘だ。ちょうど男爵様はこの街の別荘に滞在されているようでな、すぐに会ってくださるらしい」


 ……マ、マジかよ! すぐに会えるとか全然嬉しくないんだけど!? 


「それって先延ばしにしたりは……」

「できるわけないな」


 ビクトルさんは考えるまでもなく首を横に振った。やっぱりそうだよなぁ……はぁ、仕方ない。腹を括るか。


「分かりました。明日の午前十時ですね」

「ああ、感謝を伝えて褒美を渡したいとのことだから、気軽に行けば良い。ロドリゴの悪事を暴けなかったと男爵様は悔やんでおられる。悪事を暴いた光の桜華に相当感謝しているらしいぞ」

「そうなんですね……」


 嬉しいことなんだろうけど、完全に貴族社会に俺達の存在が広まりそうで、どうしても憂鬱になってしまう。


「そうだ。冒険者ギルドからも一つ話があるんだが、お前達は全員Cランクにランクアップすることにした。今日この後、ランクアップの手続きをしよう」

「え、本当ですか!?」


 これは素直に嬉しい。ついにCランクだ。ここまで来ると上位の冒険者へ仲間入りをできたような気分になる。


「やったな!」

「嬉しいね」

『Cランク凄いですね!』


 皆も男爵様の話の時は反応が鈍かったけど、ランクアップの話は嬉しそうだ。


「お前達……男爵様に会う時は露骨に嫌がるなよ」

「そこはちゃんとやりますよ。じゃあランクアップ、よろしくお願いします」

「分かった。職員を呼ぶから少し待て」


 それから俺達は全員Cランクの冒険者ギルドカードを受け取り、ビクトルさんと少し雑談をしてギルドを後にした。


「ついに貴族と会うことになっちゃったね」

「本当だなぁ。面倒だよなぁ」

「ウィリー、絶対にタメ口で話さないでよ。そこだけはお願い。やり取りは全部俺達がやるから」


 貴族の中にはタメ口で話しかけられただけで不敬罪だって騒ぐ人とか、絶対にいると思うんだ。そういう危険を避けるためにも貴族と関わりたくないんだよな……


「分かった。明日は声をかけられた時以外、何も話さないことにする」

「それが良いね。後は挨拶とかよく使う受け答えとか、今日の夜に頑張って覚えようか」


 ミレイアが笑顔で言ったその言葉に、ウィリーは顔を引き攣らせつつも頷いた。今日の夜は勉強会だな。



 次の日の朝早く。昨日の夜は勉強会で寝るのが遅かったにも関わらず、全員がいつもより早い時間に目が覚めた。やっぱり緊張するよなぁ。迎えが来るまであと数時間だ。


「俺、あんまり食欲ないかも」


 早めに朝食を食べていたら、ウィリーがそう言ってスプーンを置いた。普通はそのセリフを言われたら大丈夫かって心配するところだけど……ウィリーの前には空になった十人前の朝ご飯のお皿がある。


「それだけ食べてれば大丈夫だよ」


 確かにいつもの半分しか食べてないけど、普通の人の三日分を食べてるから。改めて本当に凄い量だよな……この十人前の空の皿を見て、今日は少ないなとか思ってる俺が怖い。やっぱり慣れって凄いな。


「ウィリー、昨日の夜に教えたこと覚えてる?」

「お……ぼえてるぜ! ま、まあ、喋らなきゃ大丈夫だよな」

「それ、絶対に忘れてるでしょ」

『ウィリーさん、心配ですね』

『本当だよ……』

 

 それからも皆でどこか落ち着かない雰囲気で時間が過ぎるのを待ち、ついに時間は午前十時となった。

 時間ぴったりに宿までエレハルデ男爵家の使用人だという男性が来て、獣車が入れないから少し歩いていただきますと案内してくれる。


 そうして案内された場所にあった獣車は……今まで見たことがないほどに豪華な獣車だった。なんだかよく分からない模様が側面に描かれていて、金や宝石などでキラキラと輝いている。


 エレハルデ男爵って、男爵なのにかなりお金を持ってるみたいだな……この国の貴族はこれが普通なのだろうか。


「うわぁ……すげぇな」

「クッションがふかふかだね」


 皆で獣車に乗り込むと、中もかなり豪華だった。ただ中はさすがにキラキラとはしていなくて、居心地は悪くない作りだ。中までキラキラしてたら目が疲れるもんな。


「乗合獣車との差が凄いな」

「あれとは比べるのも申し訳ないよ」

「もう違う乗り物だよね」

「皆様、獣車が動きますのでお気をつけください」


 使用人の男性のその言葉から数秒後、獣車がゆっくりと動き始めた。ふぅ……やっぱり緊張が抜けないな。とにかく不敬なことをしないように頑張ろう。

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