第119話 知名度急上昇
瞳をぱちぱちと瞬かせながら周囲の状況を確認すると、ダンジョンの入り口にいつもいる二人の男性が俺たちのことを驚愕の表情で見つめているのが分かった。
「お、お前たち……もしかしてダンジョンをクリアしたのか!?」
「おおっ、もちろんそうに決まってるだろ?」
「まだこの街に来て数週間じゃねぇか。凄すぎるだろ!」
「へへっ、まあな」
ウィリーは褒められて得意げな笑みを浮かべている。これからは目立たないといけないんだから、謙遜するんじゃなくてこのぐらいがちょうど良いよな。
ミレイアもそう思ったのか、笑顔で男性たちの称賛に応えた。
「ありがとう。頑張って鍛錬してるからかな」
「それだって才能がなきゃ無理だろ。お前たちは凄い冒険者になるかもしれないな!」
「そうなれたら嬉しいよ」
「お前たちみたいなのがずっといてくれると、この街はもっと安心だなぁ」
一人の男性が発したその言葉に、俺はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。
「実はそのつもりなんだ。本当はクリアしたら別の街に行こうかと思ってたんだけど、この街は良い街だから拠点にしても良いかもって話し合ってて」
「本当か? そりゃあいい話だな」
素直に喜んでくれている二人には申し訳ない気持ちになるけど、これもロドリゴさんを捕まえる為だと自分に言い聞かせる。
「ダンジョンを初めてクリアしたやつが出たらギルドに報告する決まりなんだ。俺が一緒に行ってもいいか?」
「え、そうなんだ。もちろん良いよ」
「じゃあさっそく行こうぜ。皆に驚かれるぞ!」
そう言ってウィリーの肩に腕を回した男性は、楽しそうに俺達を連れてギルドに向かった。
ギルドの中にちょうどロドリゴさんがいたら良いな。そう思いながらギルドのドアを開けると、ダンジョンの入り口にいつもいる男性と一緒に入ってきた俺達に視線が集まる。
まさか……という視線の中で男性が一歩前に出て、
「光の桜華がダンジョンをクリアしたぞ! 数週間でのクリアは快挙だ!」
と叫んだ。するとそれによってギルド内は騒然となる。今までは俺達のことを特に気に留めてなかった人達が、あいつらは誰だってそこかしこで話をしている。
これは予想以上に知名度を上げられそうだ。まずはダンジョンをクリアしようって決めたのは正解だったかも。
「この街にまた最高の冒険者が生まれたな。ロドリゴさんに続いてこの街は安泰だ」
男性が何気なく口にしたその言葉を受けて、ギルドの奥にいたロドリゴさんが俺達の元に近づいてきた。おじさん、ナイス!
「トーゴ達、もうクリアしたのか? 本当に凄いな。俺がお前達に教えることなんて何もなかったな」
「いえ、ロドリゴさんには及びません。でもクリアできて嬉しいです」
俺が笑顔でそう返すと、少しだけ沈黙が流れてからロドリゴさんが口を開く。
「お前達がずっとこの街にいてくれたら嬉しかったんだが残念だな。他の街に行くんだろう?」
来たっ! これでこの街にいようか悩んでるって、本人に直接告げられる。
「いえ、それが悩んでるんです。この街は居心地が良いので拠点にしようかって話し合っていて」
「……そうなのか? それは、嬉しいな。だがお前達ならもっと上のダンジョンクリアを目指せるんじゃないか? まだ若いことだしな」
「それも考えたのですが、ここを拠点にしてたまに他のダンジョンへ遠征という形でも良いかなと思っていて」
俺のその言葉を聞いたロドリゴさんは、目の前にいる俺にしか分からない程度に顔を引き攣らせた。よしっ、動揺してるっぽい。
「そ、そうか、まあ、そんなにすぐ決めなくても悩めば良い」
「はい。そうしたいと思います」
それからロドリゴさんとは離れて俺達はギルドマスターと話をして、それから三十分後ぐらいにギルドを出ることができた。
「トーゴ、ロドリゴさんは?」
顔を近づけて小声でそう聞いてきたミレイアに、俺も小声で返答する。
「ずっとマップを見てたんだけど向こうの方向に進んで、十分前ぐらいにマップの範囲から消えたところ。とりあえず向こうに向かうので良い?」
「もちろんいいぞ。今回は皆で行くのでいいよな?」
「とりあえずそうしようか。目立たないように、宿へのお土産を探してるって設定にしよう」
「分かったぜ」
『任せてください!』
それからロドリゴさんが消えた方向に向かってひたすら進み、途中でお腹を空かせたウィリーとミルの食べ物を買って食べ歩きをしつつ進むこと三十分、やっとロドリゴさんをマップに捕らえた。
「居場所が分かったよ。高級な宿屋にいるみたい」
「ということは、今日は何か企んだりしてるんじゃなくて定宿に戻ったってことか?」
「多分そうだと思う。あの宿は……暁の双子亭からは一キロ以上離れてるか。じゃあ明日の朝早くにまたあの宿が範囲に入るところに行って、ロドリゴさんを尾行しよう」
「そうだね。私も一緒に行くよ」
「もちろん俺も行くぜ!」
『僕もです!』
そう言った皆の瞳を見ると意志は固そうだったので、俺は苦笑しつつ頷いた。
「分かった。じゃあ皆で尾行しよう。しばらくはダンジョンをクリアした休みってことで違和感ないと思うし……この街の観光をする設定でいこうか」
「了解!」
「食べ歩きぐらいはいいよな?」
「そのぐらいは全然できると思うよ」
「よしっ!」
食べ歩きオッケーの言葉にウィリーがグッと拳を握ってミルも尻尾を高速で振って、そんないつも通りの光景に皆で笑顔になった。
それから俺達は本当にお土産を買って宿に戻り、明日に備えて早めに眠りについた。
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