第118話 ダンジョンクリア
二十九層の岩場で串焼きをお昼ご飯に食べた俺達は、ついに三十層に続く階段の回りに集まっている。
「この下が最後か……」
「確か三十層は最終ボスがいるフロアがあるだけなんだよね?」
「そうみたい。だから下りたらすぐ戦闘開始って考えておいて」
最後のボスはオーガとオーク。問題なく倒せると信じたいけど、初めて戦う魔物だから少し怖いのも事実だ。あとは……姿形が人に近い魔物だから嫌だなと思っている。
でもそんなことはこの世界で言ってられないよな。俺はバシっと自分の頬を叩いて気合いを入れて、皆の顔を見回した。
「行こうか」
「そうだね。油断せずに頑張ろう」
「おうっ、まずは俺とミルが行くので良いか?」
「うん。お願いしても良い?」
「もちろんだ」
「僕が皆さんをお守りします!」
ウィリーとミルのそんな頼もしい言葉に、俺とミレイアはよろしくねと返答して二人を送り出した。そしてそのあとすぐに俺達も続く。
そうして階段を降りた先にあったのは……久しぶりの洞窟だった。かなり広い洞窟の広場の中には、オーガが一体とオークが三体いて、俺達を睨みつけている。
「アイススピア」
まずは先制攻撃をとかなり魔力を込めたアイススピアを放ったけど、それはオーガの持つ剣で薙ぎ払われてしまった。
「おおっ、オーガってすげぇな! じゃあ次は俺だ!」
そう言って飛び上がったウィリーは、オーガの肩に向けて斧を思いっきり振り下ろして……オーガの剣で止められた。しかしオーガの方が圧倒的に力が足りないようで、ウィリーはすぐに剣を弾いてオーガにもう一度斧を振り下ろす。
すると今度は止める間もなかったらしく、ウィリーの斧はオーガに重傷を負わせたらしい。
「ウォォォォォ」
オーガは雄叫びを上げながらその場に膝をついた。スピード勝負の敵にはウィリーは少し弱いけど、力勝負なら負けることはないな。あの新しい斧もあることだし。
「もう一回行くぞっ!」
そんな掛け声と共に放たれたウィリーの攻撃で、オーガは首を半分ほど切られてそのまま絶命した。
早いな……オーガってかなり強くて硬くて、時間をかけて少しずつダメージを与えていくしかないって書いてあったのに。
「アイススピアッ」
ウィリーの勢いに煽られて、俺も魔力を注ぎ込んだ大きなアイススピアをオークに放つと、アイススピアはオークの眉間にピンポイントで突き刺さった。
さらにあと二体のオークもミルの風魔法で切り刻まれ、ミレイアの弓が的確に瞳に突き刺さり、それぞれ絶命した。
「――終わった、ね?」
ミレイアのその呟きを聞いて、俺はなんとか頷いた。もっと苦戦して連携して……っていうのを予想してたのに、あまりにも呆気なかった。
やっぱり俺達にこのダンジョンは少しレベルが低すぎたんだな。戦ってるうちにどんどん連携が上手くなって個人のレベルも上がって、かなり強いパーティーになってるんだろう。
「もっと手応えがある敵が良かったな。サンドスコーピオンの方が強くないか?」
「僕もそう思いました……」
このレベル差だと、素早い敵の方が強敵に感じるんだろう。これは早めにロドリゴさんの件を解決して、次のダンジョンに行った方が良い気がする。この楽勝モードに慣れるのは良くない。
「このダンジョンは俺達にはレベルが低いんだよ。次はもっと強い敵がいるところに行こう」
「そうだな。……おっ、あれ宝箱だぞ!」
「本当だ。何が入ってるのかな」
「開けてみよう」
皆で宝箱に駆け寄って代表して俺が蓋を開けると……中にあったのは、角だった。さっきまで戦っていたオーガの頭に付いていた角だ。
「え〜またハズレだね」
「本当だな。これってなんかいい効果があるのか?」
「どうなんだろう。調べるのも大変だしギルドで聞こうか」
「そうだね。じゃあ、ついに転移だね」
「やっとですね! ダンジョンコアに触れれば良いんですよね?」
この広場の奥には赤く輝く宝石が壁に埋まっている。あれがダンジョンコアだろう。俺たちは少し緊張しながら、全員でダンジョンコアに近づいた。
「綺麗だけど普通の石に見えるね」
「本当だな……」
『トーゴ様、ダンジョンコアに話しかけたり干渉したりできないのですか?』
『そう思ってやってみてるんだけど、特に何も応答はないかな』
このぐらいの弱いダンジョンだとダンジョンコアが持つ権限はあまりないけど、意思疎通ぐらいはできるかもと期待したんだけどな。
『ミル、ちょっと二人を他の場所に誘導してくれない? 普通に話しかけてみたい』
『分かりました。やってみます!』
俺のお願いに頼もしく頷いてくれたミルは、何かが聞こえたように耳をぴくぴくと動かしてから、突然ダンジョンコアとは離れた場所に駆け出した。
「皆さん、こっちに何かあるかもしれません!」
すると好奇心旺盛なウィリーはすぐにミルを追いかけて、ミルが大好きで心配性なミレイアも、慌ててミルを追いかける。そうして二人が離れたことを確認して……
「ダンジョンコア、応答しろ。俺はこの世界の神だ」
命令口調で話しかけてみたけど、特に何の反応もない。それからも色々と試してみたけど……全く反応はなかった。少なくともこのレベルのダンジョンにあるダンジョンコアと、意思疎通をするのは無理みたいだ。
『ミル、無理みたいだからもう良いよ。ありがとう』
『かしこまりました!』
「何かあると思ったんですが違ったみたいです。トーゴ様のところに戻りましょう」
「なんだ、ミルでもそんなことがあるんだな」
「もうミルちゃん、心配だから突然どこかに行かないでね?」
皆はそんな会話をしながら、少し残念そうにダンジョンコアの近くまで戻ってくる。
「何もなかったんだ」
「はい。何か聞こえた気がしたのですが、気のせいでした。すみません」
「ううん、気になるところがあったらいつでも言ってくれて良いよ」
『ミルごめんね。ありがとう』
それから皆でミルを慰めるように、俺は労うように頭を撫でて、ついに転移を試してみることにした。
「一斉に触ろうか」
「おうっ」
「良いよ。トーゴが合図してね」
「了解。――三、二、一、っ!」
俺の掛け声によって全員が同じタイミングでダンジョンコアに触れると……目の前が突然真っ白になり、数秒後にはダンジョンの入り口近くに戻っていた。
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