第154話 スケルトンスパイダー

「ちょっ、今のってどういうことだ!?」

「もしかして、切断しても復活できるのですか?」


 前線にいるウィリーとミルも気づいたようで、かなり混乱している様子で口を開いた。俺も同じく混乱していて、この事態をどう捉えれば良いのか判断できない。


 復活できる回数に制限があるのか、復活できないほど粉々にしないといけないのか、それとも復活する前に倒し切らないといけないのか、どういう性質を持つのか絞り込めないな。


「とりあえず……ウィリー、これを受け取ってほしい!」


 アイテムボックスから出してウィリーに投げたのは、五層の守護者であるゴーレムを討伐した際に手に入れた棍棒だ。


「おおっ、これを使うのか!」

「それで粉々に叩き割って欲しい!」

「よしっ、任せろ! ミルも手伝ってくれ!」

「もちろんです!」


 それからはウィリーとミルが連携し、俺とミレイアも魔法と結界で補助しつつ、骨を次々と叩き割っていった。

 しかし四本目の足がなくなりスケルトンスパイダーの動きがかなり鈍くなったところで、最初に砕いた骨がカタカタと動き始め、また最初と同じように再生していく。


「マジかよ……!」


 再生しないように砕かれた骨をまたウィリーが棍棒で攻撃するけど、意味はないみたいだ。


「トーゴ様、これではいつまで経っても倒せません!」

「分かってる! ……けど、どうすれば良いのか」


 復活できる回数に制限があるなら、このまま攻撃し続けていればいずれスケルトンスパイダーが倒れるはずだ。でももし制限がなければ、無駄に体力を消耗するだけになる。


 そもそも、こいつはどうなったら倒せたことになるのだろうか。ゴーレムみたいに核があるのなら、それを探さないといけない。


 ――ん?


「もう一匹いる……?」


 俺のその呟きが聞こえたのか、ミレイアがウィリーとミルを気にしつつ、こちらに視線を向けた。


「どうしたの?」

「広場は見晴らしが良くてスケルトンスパイダーしかいなかったから、マップは見てなかったんだけど……今何気なく開いたら、もう一匹魔物がいるかも」

「……見せてくれる?」

「もちろん」


 ミレイアにも見えるようにマップを開くと、それを覗き込んだミレイアは天井に視線を向けた。


 そう、魔物がいるのは天井なのだ。しかし肉眼では何も見えない。


「擬態ができる魔物がいるのかな……」

「その可能性はあるかもね」

「ミルに匂いで確認してもらうか」


 スケルトンスパイダーの牽制はウィリーに任せ、ミルをこちらに呼んだ。そしてマップを見せて匂いに意識を集中させてもらうと……ミルの耳がピンっと立った。


「確かに何かの匂いがします!」

「やっぱり何かいるんだ。でも攻撃してこないのはなんでだろう」

「――これは予想なんだけど、スケルトンスパイダーを操ってる魔物って可能性はないかな。そっちを倒さないと、スケルトンスパイダーは何度でも復活するとか」


 確かに……その可能性は高いかもしれない。それなら、スケルトンスパイダーに弱点がなさそうなのも頷ける。


「とりあえず、天井の魔物を倒してみよう」

「では僕が行きますね! 匂いで分かるので」

「ありがとう。でも怪我はしないように気をつけて」

「はい! トーゴ様、天井付近まで土魔法で足場をお願いします」

「了解」


 幅広く作ったロックウォールを天井近くまで持ち上げると、それに乗ったミルはじっと天井を見つめ――俺たちの目に天井がぼやけた様子が映ったその瞬間、思いっきり飛び上がって天井の一部を爪で切り裂いた。


 するとそこから、岩と同じ模様をした巨大な蝶が落ちてくる。羽を切り裂かれた蝶はもう飛べないようだ。


「こんなやつがいたのか……」

「トーゴ様、トドメをお願いします!」

「了解。アイススピア」


 アイススピアを体部分に放つと……巨大な蝶は避けることなく、攻撃は命中した。そしてその数秒に、突然広場内に爆音が響き渡る。


 ガラガラと何かが崩れるような音に体は無意識に強張り、視線を音の発信源に向けると……そこにあったのは、骨の山だった。


「もしかして、スケルトンスパイダーを倒せたのか?」

「うわぁぁ、マジで危なかった! 何が起きたんだ!?」


 骨の山の向こうから顔を出したのはウィリーだ。


「ウィリーごめん! 怪我はない?」

「おうっ、大丈夫だけどなんで突然倒せたんだ? 俺は別に何もやってないぞ」

「多分だけど、こいつを倒したからだと思う。天井にいたのを発見して、ミルに落としてもらったんだ」


 人間が両手を伸ばして二人分以上はある巨大な蝶は、もうピクリとも動かない。そんな蝶の周りに皆で集まり、その模様をまじまじと見つめた。


「岩に擬態する巨大なバタフライか」

「これを倒したらスケルトンスパイダーが崩れたから、やっぱりこの魔物が操ってたってことだよね」

「そうだと思う。これはこの仕組みに気付けない限り、スケルトンスパイダー討伐は無理だな。逆に一度気付ければ、スケルトンスパイダーを引き寄せておいて天井を無差別に攻撃するだけで討伐できる」


 俺たちが最初に十層に辿り着いたのは僥倖だったな。この情報を持ち帰れば、十層の守護者で苦戦する人はいなくなるだろう。


 まあゴーレムに足止めされてたんだから、これを僥倖と言うのかは分からないけど。


「次からは楽勝だな」

「良かったよ。苦戦しそうな魔物だったら、上に戻るのがより憂鬱になるところだった」

「そうだね。……あっ、宝箱があるよ」

「本当だ。じゃあ宝箱を開けて十一層を少し見たら、上に戻ろうか」

「おうっ!」

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