第155話 十一層と地上へ帰還

 スケルトンスパイダーを討伐した報酬の宝箱は、なんだか輝く宝石だった。高く売れそうだったけど、お金には困ってない俺たちにはいまいちテンションが上がらない代物だ。


「じゃあ、十一層に行ってみようぜ」

「そうだね。十一層って砂漠なんだっけ?」

「マップではそうなってたよ。どのぐらい暑いのかが問題かな」

「暑いのは嫌ですね……」


 そんな話をしながら階段を下っていくと……目の前に広がったのは、どこまでも続くような広大な砂漠だった。そしてジリジリと照りつける日差しが予想の倍は強く、肌を焼くような暑さだ。


「……凄く引き返したい気分だよ」

「分かる。この暑さはさすがに……」

「この中じゃ戦闘も楽しめないな」

「何か対策はあるのでしょうか」

「やっぱり魔法かな。氷魔法や風魔法を駆使して、少しでも涼しさを保ちつつ先に進もう。後は服装も長袖にして、頭を覆うものを買うべきかも。それから靴も砂漠を歩きやすいやつ……というよりも、靴底が厚くて熱を通さないものにするべきな気がする」


 砂漠に対して漠然としたイメージしかなかったけど、これはちゃんとした装備がないと厳しいな。


「一回上に戻ることになってて良かったかもね」

「そうだな。でもミルはどうするんだ? ミル用の靴は売ってないよな」

「確かに。ミル、大丈夫そう?」

「……一度砂漠に降りてみますね」


 階段の最下段からミルが砂漠に降り立つと、その瞬間にミルの尻尾がピンっと立った。そして数秒で、すぐに階段へと戻ってくる。


「うぅ……熱いです。僕の肉球が焼け焦げてしまいます」

「それは大変だ。じゃあ……ミルは小さくなって鞄か何かに入っていく?」


 魔物と戦う時だけなら俺が足場を作ってミルにも参戦してもらうことはできるだろうから、戦力が減ることはないはずだ。


「お願いしても良いですか?」

「もちろん良いよ。小さなミルを抱えて行けるなんて楽しみだな」


 快適になるようにミルを入れる鞄の中には布に包んだ氷を入れたり、冷たい果物とかも入れていつでも食べられるようにしようかな……なんだか楽しくなってきた。


「魔物は倒してみるか?」

「いや、マップで見た限りちょうど近くに魔物がいないから、今回はやめておこう。ちゃんと装備も整えてからが良いと思う」

「確かにそうだね」

「じゃあ戻るか。またあの森を通るのは嫌だけどな……」


 そうだった、戻るにもあの森を通らないとなんだよな。憂鬱だけど仕方がないか……一瞬で駆け抜けよう。


「体力が続く限り走ろう」

「了解。でも少し上の広場で休んでからにしない?」

「確かに腹も減ったよな」

「じゃあまずはお昼だな。それで少し休んだら走ろう」

「分かりました!」


 それからの俺たちは適度に休憩を挟みつつ、しかし魔物討伐も楽しみつつ、数日かけて五層に戻った。

 五層の広場には……ゴーレムはいなかった。


「復活してないんだな」

「ということは、復活の条件は時間や距離じゃないのかな」

「時間って可能性はほぼ消えたな。距離も一層から五層より、六層から十層の方が広かったから……」

「そうなると、ダンジョンから出たら復活するのが濃厚か?」


 皆でそんな話をしていると、広場にティトーさんと数人のギルド職員が入ってきた。


「光の桜華の皆様!」

「ティトーさん。お待たせして申し訳ありません」

「いえ、やはり皆様でも六層以下の攻略は難しかったでしょうか……」

「そうですね……虫型の魔物がかなり気持ち悪いってこと以外は、特に問題なかったです。十層の守護者も倒せましたよ」


 何気なく伝えたその言葉に、ティトーさんたちはビシッと固まり動きを止めた。油が足りないロボットのような動きをして俺に視線を向けたティトーさんは、躊躇う様子を見せながら口を開く。


「えっと、あの……この短期間で六層以下を探索し終わり、十層の守護者を倒したということですか?」

「そうです。元々その予定でしたよね?」

「いや、そ、そうなのですが、もっと一ヶ月単位で時間が掛かるのかと思っておりまして……今回はやはり難しいということで、一度戻られたのかと」


 あまりにも早いから驚いてるのか。確かに虫型の魔物が嫌で最短距離を走ってきたから、これ以上に早い討伐はないだろう。


「ちゃんと十一層まで行ってきました。守護者や十一層のことについては後ほど報告させていただくとして……今は守護者復活の検証をしましょうか」

「……そうですね。そうでした。しかしゴーレムは復活していませんね」

「そうなんです。ちょっと広場から出てみます」


 五層の方向に広場から出てみても、ゴーレムは復活しなかった。


「やはり距離が問題ではなさそうですね。時間も考えづらいとなると、討伐者がダンジョンから外に出た時というのが一番可能性が高いと思います」

「では次はその検証をしてみましょう。ギルド職員を数名ここに残すので、光の桜華の皆様にはこのまま地上に戻っていただきたいです。そして地上に戻った日時とここでゴーレムが復活した日時が合えば、復活の条件はほぼ確定です」

「分かりました。では俺たちはこのまま地上に向かいます。どなたか一緒に行きますか?」


 その問いかけにティトーさんとギルド職員の皆さんが話し合い、俺たちと共に戻るのはティトーさんと他一名となった。


 地上で早く俺たちから六層以下の情報を聞いて、それを冒険者全体に広めるのだそうだ。


「じゃあ戻りましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 それから地上に戻っていろいろな報告をしたり休息をとったりしていると、五層の広場で待機してくれていた職員が戻ってきた。そして守護者の復活条件は、討伐者がダンジョン外に出ることと確定した。

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