第98話 お昼ご飯と午後の予定

「この後はどうする? ダンジョンに潜る?」


 かなり微妙な時間なので皆を振り返ってそう聞くと、ウィリーがギルド併設の食堂に視線を向けながら口を開いた。


「今日はあんまり時間もないし、休みにしないか? ここで昼飯を食べるっていうのはどうだ?」

『それ良いですね!』


 すでに体が食堂の方に向いているウィリーにそう提案され、さらに嬉しそうにミルが尻尾を振ったら、もう反対なんてできない。俺とミレイアは苦笑しつつ食堂に足を向けた。


「確かにこの食堂で食べたことなかったよね」

「食べながら午後は何するか考えようか」

「おうっ!」


 そうして俺達は食堂に向かい、皆で好きなメニューを注文した。俺はレッドカウの肉がゴロゴロ入ったパスタで、ミレイアはシチュー、ミルがビーフシチューとパンとステーキで、ウィリーがパスタ二つにステーキ二枚にカウ煮込みを一つとパンをたくさんだ。


 改めてウィリーの食べる量が凄い。運ばれてきたらテーブルに載り切らないほどだろうな。


「それで午後はどうする?」

「うーん、それぞれ好きなように過ごすのでも良いけど、俺は武器屋に行きたいなと思ってるんだ。二人は一緒に行く?」

「あっ、私も行きたい! そろそろこの街で贔屓の武器屋が欲しいと思ってたんだ」

「俺も一緒に行くぜ。斧の手入れ剤が減ってたんだよな」

『僕も皆さんと一緒に行きます!』


 俺の提案に皆がすぐに頷いてくれて、午後の予定は問題なく決まった。俺も手入れ剤がそろそろ終わるから買わないと。それから剣を新調したい気持ちもあるんだよなぁ。

 魔法重視の戦い方になったからあんまり使わないとはいえ、やっぱり性能は大切だ。俺が使ってるのは最初に買った初心者用の剣なので、強度も切れ味も心許なくなってきている。


 良い武器屋を見つけられたら、剣の買い替えも検討しよう。まずは武器屋を見つけるのが大切だな。


『トーゴ様、今度こそ僕達が想像した武器屋の店主ですかね!』

『そうだったら嬉しいよ。偏屈なお爺さん鍛冶師、一度会ってみたいな〜』

『最初は邪険に扱われて、最後は認められるんですね!』


 ミルは俺の記憶を全て引き継いでいるから、考えてることが俺と同じだ。俺はそのことに思わず苦笑が浮かんでくる。偏屈なお爺さん鍛冶師に認められる展開、好きだったんだよな。


「お待たせしました〜。レッドカウのパスタです」


 武器屋の店主に思いを馳せていたら、料理が来たようだ。俺達は次々と運ばれてくる料理を受け取って、まずは腹ごしらえをすることにした。


「このパスタ美味っ!」

「本当だ。めっちゃ美味しい」

「このシチューも最高だよ」

『僕のステーキも美味しいです!』


 ギルド併設の厨房の料理は、かなり美味かった。この味ならまた食べにきたいなと思うほどだ。


 そうして美味しい昼食を堪能した俺達は、モニカさんにこの街にある武器屋の場所と特徴を全部聞いて、その中から気になったお店を順番に巡ってみることにした。


「まずは大通りを進んで左側にある大きな店から行こう」

「おうっ」


 このお店が圧倒的に客数が多くて、いつも混んでいるらしいのだ。俺達が求めてる店ではない気がするけど、それほど評価が高いならと向かってみることにした。


 大通りをのんびりと歩いていくと、すぐに目的のお店が見えてくる。でかい看板が付いているので、遠くからでも分かる目立ち方だ。


「凄く大きいお店だね」

「本当だな。なんか武器屋っていうより、もっとオシャレな店みたいだ」

『この前の薬屋に少し似ていますね』

『確かにそうかも』


 店の前から店内を覗いてみると、何人もの冒険者らしき人影が見える。さらに冒険者じゃなくて、小さな子供や一般人もいるみたいだ。

 中に入ってみると……そこは武器屋というよりも、刃物屋という感じだった。要するに、武器だけではなく包丁とかハサミとか、生活に使う刃物も売っているのだ。


「ここはちょっと……違わない?」

「俺もそう思ってたとこ。でも一応あっちが武器コーナーみたいだし、行ってみる?」

「そうだな」


 武器コーナーに向かってみると、何人かの冒険者が武器を吟味していた。しかし外見からしてそこまで強い冒険者じゃなさそうだ。まだ駆け出しってところかな。

 ここは駆け出しの冒険者が良く使うお店なのかもしれないな……パッと見て、俺が求めている武器はない。手入れ剤は一応あるけど、どうせなら武器を買うところと同じところのものにした方が良いだろう。


「ミレイア、矢があるけどどう?」

「うーん、悪くはないんだけど、特徴もないって感じかな」


 分かる、まさにこのお店がそういうコンセプトなのだろう。一定の質を担保して大量生産し、一般人や駆け出しの冒険者を相手に商売する。それなら武器の質はそこまで上げる必要はない。逆に質がそこそこでも安いものが喜ばれるはずだ。


「次のお店に行こうか」

「そうだな」

『それが良さそうですね……』


 俺達は少しがっかりしながらお店を出て、しかし気持ちを切り替えて次の武器屋に向かった。次の武器屋は一般的な評価が二分する武器屋だと紹介を受けたところだ。腕は良いけど店主の性格が微妙だとか、店主が客を選ぶだとか、そういうことを言われているらしい。


 ここはミレイアとウィリーが却下しようとしたんだけど、俺とミルが無理やり捩じ込んだのだ。だってこの武器屋……偏屈なお爺さん鍛冶師がいる可能性、高そうじゃない!?


 ミレイアとウィリーが微妙な表情で武器屋に向かうのと違い、俺とミルは足取り軽くスキップしそうなテンションで足を動かした。

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