第97話 鑑定結果

 ダンジョンで隠し部屋を見つけた日から三日が経った。この三日間で、俺達は依頼を受けながらダンジョンをどんどん先へと攻略していき、昨日は二十層にまで辿り着くことができた。このダンジョンは全部で三十層なので、クリアまではあと十層だ。


 中級者ダンジョンは俺達にとってそこまで難易度が高くなかったようで、今のところはほとんど苦戦することなく攻略を進めることができている。ただダンジョンや戦闘に慣れたり、新たな魔物とたくさん相対したり、このダンジョンに来た意義は大いにあったと思う。


 でもやっぱり強くなるには適正レベルより低いところにいても仕方がないし、クリアしたらもう一つ上の上級ダンジョンに行こうかなーと思ってはいる。まださすがに気が早いけどな。


「今日は鑑定が終わってるかな」

「終わってたら良いよな。もう毎日気になって仕方がないぜ」

「長ければ数日かかるって言ってたから、そろそろだと思うんだけどね〜」


 皆でそんな話をしつつギルドに入ると、受付のモニカさんが小さく手を振って俺達を呼んでいる。もしかしたら、鑑定が終わったのかもしれない。

 急足で受付に向かうと、モニカさんは丁寧に挨拶をしてから用件を告げてくれた。


「光の桜華の皆様、鑑定結果が出たようです。お時間がございましたら鑑定部屋へお願いいたします」

「本当ですか!」

「ついに終わったんですね!」


 ウィリーとミレイアはテンション高くそう返答して、カウンターに身を乗り出している。ミルは尻尾を振って落ち着かない様子だ。


「ご案内してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 そうしてモニカさんに案内されて鑑定部屋に入ると、セルジさんは奥の机に座って作業をしていた。俺達が部屋の中に入るとすぐに手を止めて、トレーに載ったお皿と鑑定書を持ち、応接セットの方に来てくれる。


「皆様、お待たせして申し訳ございませんでした」

「いえ、もともと数日かかるかもと言われていたので問題ありません。それで……効果はわかったのでしょうか?」


 俺が聞いたその言葉にセルジさんは満足そうな笑みを浮かべて頷き、鑑定書を差し出してくれた。


「詳細はすべてそちらに書かれています。このアイテムは本当に凄かったです。まさか……毒を除去するなんて」


 鑑定書の一番上にこのアイテムの名称が書かれてるんだけど、そこには……毒除去の皿と記載がある。マジか、この皿ってそんなに凄いことができるのか。


「どこまでの毒を除去できるのか、どんな系統の毒ならば除去できるのか、そういったことを検証するのに時間がかかってしまい、数日お待たせする形となりました。しかしその代わりに、こちらのアイテムの効果はかなり詳細まで突き止めております」


 セルジさんのその言葉を聞いて、皆で鑑定書の効果に関する欄を覗き込むと、そこには驚くべき事柄が書かれていた。


 ――毒の種類は問わずに、どのような毒も除去される。

 ――毒の量やその形態。例えば毒の成分を抽出した何かが料理に紛れていても、毒を含む植物や魚などがそのまま皿に乗っていても毒は除去される。

 ――毒の除去にかかる時間は約十秒ほど。


 そのようなことが細かく記載されていて、更にその下にはこの数日間で行った実験について、その詳細と結果が簡潔にまとめられていた。

 この世界でも動物実験ならぬ、魔物実験が行われているらしい。後は死刑囚を使った実験とかもあるみたいだ。この世界の暗い部分を見てしまったようでとょっと引きそうになったけど、ウィリーもミレイアも普通にしてるから、これがこの世界というか、この国の常識なのだろう。


『トーゴ様、やはり日本とは違いますね……』


 ミルがそう言って俺の心情を理解してくれることにとても救われる。ちなみにミルは鑑定書が見える位置にはいないけど、俺が内容を念話で伝えている。


「これだけの検証を数日で行ったのは凄いですね。こういうのって手続きとか大変ではないんですか?」

「鑑定士の証があれば、かなり簡単な手続きで検証準備はできるのです。さらに新しいアイテムの可能性がある場合は、ギルドが全面協力してくれますので、短期間での検証が可能になります」

「そうなんですね」


 鑑定士ってかなり社会的地位が高い仕事なのかもしれないな。まあ国家資格なんだしそれはそうか。


「これってどのぐらいの値段になるんだ?」


 ウィリーが何気なく聞いた質問を受けて、セルジさんは難しい表情を浮かべた。


「……こちらのアイテムは、値段がつけられないほどに価値があるものです。私が鑑定士協会に報告しましたが、近いうちにさらに上へと報告されるでしょう。どこまで行くのかは分かりませんが、私の予想では陛下まで情報が届くと思います。その場合は王家が欲しがる可能性もあるかと」


 ……マジか、急に凄い話になったな。王家とか貴族とか、そういう人達とは極力関わらないようにしようと思ってたんだけど。


 でもこれから五大ダンジョンをクリアしていくうちに、絶対に目立ってそういう権力者に目をつけられるのだろう。それなら今から関係を持っておく方が良いのかもしれない。難しいところだな。


「セルジさん、今このアイテムをギルドに売るってことはできるのですか?」

「もちろん買い取ることはできます。ただその場合、価格が低めになってしまうことはご了承ください」

「それは……王家や貴族と直接取引した方が、価格は上げられるということでしょうか?」

「そうですね」


 今この場で価格が下がっても売ってしまって煩わしいことを排除するか、とりあえずアイテムボックスに持っておいて、後で自分達で欲しがる権力者とやり取りするか。どっちが良いのだろう。


 ――やっぱり後者かなぁ。価格が上がるのはもちろんだけど、取引相手に恩を売ることもできる。


「二人とも、どうするのが良いと思う?」

『ミルの意見も聞かせて』

「私は売らない方が良いと思う。もし王家からの要請が来たら、やり取りするのは大変だけど、有益な冒険者と覚えてもらうこともできると思うし」

「俺もミレイアに賛成かなぁ。俺達にとっても有益なアイテムだしな」

『僕も持っておくべきだと思います!』


 確かに毒を除去できるって凄いアイテムなんだよな。ダンジョンの奥で食糧不足に陥った時……は俺達にはないだろうけど、そういう時に採取したものをお皿に載せたらとりあえず害はなくなる。


「じゃあ売らないで持ってようか。セルジさん、鑑定ありがとうございました」

「こちらこそ、とても貴重なアイテムを鑑定させていただきありがとうございました。また何かありましたら、遠慮なくお声がけください」


 そうして俺達はアイテムと鑑定書を受け取り、鑑定室を後にした。時計を確認すると、すでにお昼時になっている。

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