第89話 植物系の魔物

 可愛すぎるミルをぎゅっと抱きしめていたらミレイアに羨ましがられ、それからミレイア、ウィリーともミルが戯れて、そうして束の間の休息を楽しんでいると、マップに緑色の表示が現れたので素早く皆にそれを伝えた。


「ミル、他の冒険者が近くにいるからまた念話にしよう」

『分かりました!』


 ダンジョンの中は冒険者が多くて、ミルが話せる機会は少ないのだ。もう少し奥に潜れば人は減るかな……まあ、一番は五大ダンジョンに行くことだろう。五大ダンジョンなんてかなり人は少ないのだろうし。

 もっと頑張って強くなりたいな。ミルが自由に動ける環境に行くためにも。


「次の魔物を倒しに行こうか」

「そうだな!」

「次はどっち?」

「えっと……このまままっすぐ進んで五百メートルぐらいかな」


 次の魔物は一匹だけだ。群れじゃないとロックモンキーの可能性が下がるから嬉しいな。まあはぐれロックモンキーも結構いるんだけど。


 しばらく進むと、魔物の表示があるのは木々が密集している中だった。かなり近づいてるけど、まだ目視はできない。


『ミル、魔物の匂いする?』

『いえ、ロックモンキーも白狼の匂いもしません。痺れ蝶の匂いもしないので、多分そのどれでもない魔物かと』

『なんの魔物だろう……』

「皆、ちょっと止まってくれる?」


 魔物の正体が分からないことを二人に伝えて、近づく前に本で確認することにした。ウィリーとミルが見張りで、俺とミレイアが調べる係だ。


「どれかな……よく出現する魔物には、ロックモンキーと痺れ蝶しか載ってないみたいだ」

「でもその二つじゃないんだよね?」

「ミルはそう言ってる」

「白狼もこれには載ってなかったし、そういう魔物も結構いるのかもね」


 確かに白狼もそうだったな。本は信じすぎない方が良いみたいだ。参考にする程度かな……


「とりあえず、警戒しながら近づいてみよう」

「そうしようか」


 それから四人で陣形を組んで、いつでも攻撃ができるように構えながら少しずつ魔物に近づいた。しかしあと数メートルのところまで来ても、魔物を目視できない。


「痺れ蝶がステルスで隠れてるのか?」

「うーん、それならもう鱗粉が降ってきてもおかしくないと思うけど」

「確かにそうか」

「考えられるとすれば他にステルスが使える魔物がいるとか、擬態が上手い魔物がいるとか、それか地下に魔物がいるとかそのぐらいかな」


 俺のその言葉を聞いて、俺以外の皆がギョッとした様子で足元に目を向けた。しかし地面から何かが出てきているなんてこともない。


「あと数メートルだから、もっと近づいてみる?」

「そうだな……」


 ウィリーが斧を構えながら足を前に出すけど、何も現れない。静かすぎて怖いぐらいだ。


「なあ、この黄色い花綺麗じゃないか? 採取したら高かったりしないのか?」

「本当だね。なんか良い匂いもしない?」


 ウィリーが指し示した黄色い花は、一輪だけ大きく咲いていた。あれ、なんかこの花って見たことある気が……


「ウィリー! その花は魔物だ!!」

「え……うわっ!!」


 魔物図鑑でチラッと絵を見た記憶があったのを思い出してすぐに叫んだけど、少しだけ遅くその魔物は既に大きな口を開けてウィリーを飲み込もうとしていた。


「あっ、危なかった……」


 しかし間一髪、ミレイアの結界に守られてウィリーが飲み込まれるのは回避できる。マジでギリギリだった、危なかった。


「こいつは人喰い花だ。花の下についてる大きな袋の中で、獲物をそのまま消化するんだったはず」

「うわっ、マジかよ。ミレイアほんとにありがと」

「間に合って良かったよ。トーゴ、この花って動くことはできないの?」

「ちょっと待って、調べるから」


 とりあえず今のところ花は動いてなかったので、ウィリーに警戒しててもらい、素早く魔物図鑑をめくって人喰い花を調べた。


「えっと……その場から動くことはできないけど、蔦を触手みたいに動かして攻撃してくるから注意だって。でも一番危ないのは最初の不意打ちだから、それを避けられたらそんなに怖くないって」

「そうなんだ。じゃあ遠距離から倒しちゃおうか」

「袋を破けば消化液が外に流出して、すぐに倒せるらしいよ」


 ミレイアがその言葉を聞いて弓を放ち、人喰い花はすぐに絶命した。アイテムボックスに入れると、魔石や蔦、それからあの綺麗な花に解体することができる。


「植物に擬態してるやつは危ないな。もっと気をつけないとだ」

「本当だね。でもトーゴのマップには表示されてたってことだよね?」

「うん。これでこのマップには、虫系や植物系の魔物も全部表示されることが分かったよ。だからそこまで警戒する必要はないかな。少なくとも俺のマップで何かがいることは分かるから、不意打ちは避けやすいし」


 このマップは本当に便利だ。これがなかったら五大ダンジョンのクリア難易度が倍ぐらいに跳ね上がっただろう。神様チートに感謝だな。


『さすが神の力ですね』

『このマップがあれば、ダンジョンクリアも夢じゃない気がしてくるよ』

『確かトーゴ様は、この世界の才能ある人達がパーティーを組んで努力すればクリアできる難易度って仰ってましたよね。ということは、神様チートがある僕達なら必ずクリアできるってことですね!』

『確かにそうかも……仲間もいるし、後はちゃんと努力さえすればクリアできるのか』


 そう考えたらめちゃくちゃやる気が出てくる。今まではどこか半信半疑で努力してたけど、ちゃんとクリアできるはずなんだ。


『頑張りましょう!』

『うん。アルダリティエフの好きなようにはさせないよ』


 俺は久しぶりにあの忌々しい邪神の名前を思い出した。絶対にあいつを宇宙の根源に引き渡して、消滅させてやるんだ。


「なあ、そろそろお昼にしないか?」

「あれ、もうそんな時間……本当だ。続きはお昼を食べてからにしようか」


 俺はウィリーとミレイアのそんな会話で我に返り、慌てて時計を見てみると、ちょうどお昼の時間になったところだった。

 もう少し見渡しの良い場所に移動してお昼かな。


「とりあえずここからは出よう。木々が密集してて危ないから」

「そうだね。お昼を食べるのに良い場所を見つけようか。確かこういうフロアでは、視界を遮る木があんまり生えてないところが良いんだよね」

「本にはそう書いてあったよ。まあ俺達はマップがあるからどこでも良いんだけど、一応俺が見逃す可能性もあるし、ちゃんと安全な場所を探そう」


 俺は自分の能力を信じていないので、マップがあることはありがたいしどんどん使っていくけど、それに頼るのは極力避けるようにしているのだ。マップがなかった場合にとる安全策を、俺達には必要なくてもとるようにしている。


「あの辺とか良いんじゃないか?」

「確かに良さそうだね。トーゴ、あの辺に魔物はいる?」

「今のところいないみたい」

「じゃあ、あそこで決定ね」


 そうして昼食の場所を決めた俺達は、大きめな布を敷いて休息を取りつつお昼ご飯を楽しんだ。途中で二回ほど魔物に襲われたことから、やっぱりダンジョンは魔物の数が多いみたいだ。ダンジョンの中で野営をするようになったら、対策を考えないとダメかな。





〜お知らせ〜

「神に転生した少年がもふもふと異世界を旅します」

本日書籍一巻が発売となりました!

皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです!


書籍の帯にも書かれているのですが、web版からは六万字越えの大幅な加筆修正をしました。正直に申しますと、web版より何倍も面白くなっていると思いますので、皆様にはぜひ読んでいただきたいです。気になる方はお手に取っていただけたらと思います!

もちろん、書き下ろし番外編も収録されています!


また書籍の発売を記念しまして、近況ノートの方にSSを書きました。私が書いている別作品のもふもふと主人公も登場する、ちょっとふざけたもふもふ品評会というSSなのですが、気軽に楽しんで読めると思いますのでぜひ覗いてみてください。ミルがいつも通りめちゃくちゃ可愛いです笑


書籍に関する詳しい情報は近況ノートに書いていますので、ぜひそちらも読んでいただけたら幸いです。


いつも私の作品を読んで応援してくださってありがとうございます。星でのレビューやハート、コメントなど励みになっています。これからもよろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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