第96話 鑑定士
「鑑定、よろしくお願いいたします」
俺はしっかりと頭を下げてから、アイテムボックスからお皿を取り出した。そして割れないように丁寧にトレーの上に置く。トレーは買取受付で使われているような木製のトレーではなく、クッションが敷かれた貴重品を扱うためのものだ。
「ありがとうございます。こちらのお皿一点ですね」
「はい。宝箱から出たものです」
「触れてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
セルジさんは白い手袋をはめてから、丁寧な手つきでお皿を手にした。そして表だけではなく裏や側面などもじっくりと観察する。さらに見るだけではなく、手で優しくなぞったりもしている。
そうして五分ほどじっくりと観察すると、セルジさんはお皿を置いて手袋を外した。そして今度は近くのテーブルに置いてあった分厚い本を持つ。
「そちらの本は?」
「これは今まで宝箱から出てきたアイテムができる限り網羅されている辞書のようなものです。鑑定士の資格を取った時に国からもらうことができます。毎年の更新分は冊子でもらうこともできますので、こちらを使って鑑定士は鑑定を行います」
そんな本があるのか……めちゃ読んでみたいけど、鑑定士にならないと手に入らないんだろうな。
「こちらのお皿は私の記憶にある限り、見たことはないものです。したがって、辞書にも載っていない初のアイテムである可能性が高いです」
マジか、そんなに凄いものだったのか。もしかしてあの隠し部屋ってかなりの発見だったりする? そういえば、隠し部屋のことをギルドに報告してなかったな。あとで報告しておこう。
「――やはり、辞書には載って無いですね」
十分ほど辞書をめくっていたセルジさんは、辞書から顔を上げて俺達にそう告げた。
「これはどちらで手に入れたものでしょうか? 差し支えなければ教えていただきたいです。初めてのアイテムであれば、少しでも情報が欲しいのです。鑑定士組合に申請もしなければいけませんので」
「分かりました。実はこのお皿は、隠し部屋から見つけたんです。それも地図には載っていない部屋です。なのでもしかしたら、今まで誰も見つけていなかった宝箱の可能性があります。あっ、もちろん隠し部屋についてはあとでギルドに報告します」
俺のその言葉を聞いて、セルジさんは瞳を輝かせてお皿をまじまじと見つめた。
「そうだったのですね。宝箱は誰にも見つけられない時間が長いほどに、中身が良くなるのでは無いかという仮説があります。したがって、こちらは有能なアイテムである可能性が高いです。……久しぶりに心が踊りますね」
「そんな仮説があるのですね。あの、既出でないアイテムも鑑定していただけるのですよね?」
「もちろんです。ここからが鑑定士の腕の見せ所ですから。こちらのお皿の柄や大きさ、さらにどこで見つかったのか、それらの情報を過去のアイテムと照らし合わせ、こちらのアイテムの効果を予測いたします」
セルジさんはそう言うと、きらりと瞳を光らせて俺逹に視線を向けた。
「初めてのアイテムの鑑定には時間がかかります。早くとも数時間、時間がかかる場合は数日かかることもございます。それでもよろしいでしょうか?」
「もちろん構いません」
「ありがとうございます。ではこちらはお預かりいたします。毎朝鑑定が終わっているか受付に聞いていただけますか? 終わり次第受付の者に伝えておきますので」
「分かりました。では、よろしくお願いいたします」
そうして俺達はセルジさんにお皿を渡し、冒険者ギルドを後にした。
「鑑定士の人って凄いんだね」
ギルドから宿までの道中の話題は、もちろんセルジさんについてだ。セルジさんは優秀な鑑定士って感じで、冒険者ばかりと接してきた俺達には珍しいタイプの人だった。
この世界に降り立ってからは、頭脳労働をしてる人にほとんど接してなかったから忘れてたけど、この世界でも学者みたいな人はいるんだよな。
「今までの傾向から効果を予測するとか凄いよな。鑑定結果がめちゃくちゃ楽しみだ!」
「どんな効果があると思う?」
「うーん、俺の予想は料理がずっと冷えないお皿とか?」
お皿ってなると食事に関することって先入観が働いて、保温機能ぐらいしか思いつかなかったのだ。
「それはあったら便利だね。でも私達にはいらないけど」
「確かになぁ」
周りにたくさんの人がいるので口にはしないけど、二人はアイテムボックスのことを言ってるのだろう。俺のは時間停止だからな、いつでも出来立てが食べられる。
『載せた料理が美味しくなるとか、そういうのだったら良いですね。後は料理が増えるとか!』
『それだったら夢があるなぁ。あとさ、お皿に載せた食材が自動で調理されるとかも良くない?』
『それ最高です!』
「ふふっ、ミルちゃんが楽しそうだね」
「ミルはどんなアイテムを予想してるんだ?」
二人のその質問を受けて会話の内容を伝えると、二人は微笑ましげな笑みを浮かべながらミルの意見に同意した。
「そういう楽しい効果だったら良いな」
「美味しくなるのなんて最高だね」
「わんっ!」
そうして俺達は楽しく会話をしながら宿へと向かい、今夜は達成感に包まれながら眠りに落ちた。また明日からも頑張ろう。
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