第158話 勝利と夜へ
サンドワームに向かって飛び込んだウィリーの斧は、一匹のサンドワームの胴体を深く切り裂いた。
「ギュォォォォォ!」
「よしっ!」
サンドワームの悲痛な叫びが響く中、ウィリーはニッと明るい笑みを浮かべてサンドワームの胴体を蹴る。空中でくるっと一回転しながら、少し遠くの砂漠に着地した。
ウィリーの安全を確認してから、俺も地面を蹴って剣で切り掛かる。魔法を使いすぎると後々で辛くなるので、少し温存だ。
俺に向かってくるサンドワームをミレイアが結界で防いでくれて、弾かれて体勢を崩したサンドワームに深く剣を突き刺した。
「ミレイアありがとう!」
「うんっ、次は弓行くよ!」
ミレイアが放った弓は、吸い込まれるようにサンドワームの頭部に突き刺さる。激しく動くサンドワームに一矢で当てられるミレイアの腕前に改めて驚きつつ、俺もサンドワームの胴体を蹴って体勢を整え、なんとか崩れてない地面に着地した。
するとその瞬間、一匹のサンドワームがかなりの速度で俺に向かってくる。
「トーゴ様! 僕が風魔法で!」
ミルのその言葉に、俺はミルが入ってる鞄を少し持ち上げた。すると鞄に入った可愛いミルから、凶悪な風魔法が放たれる。
それによってサンドワームは体液を方々に撒き散らした。
「さすがミル!」
「えへへ、お役に立てて嬉しいです!」
ミルが重傷を喰らわせたサンドワームの息の根を止めたのは、ウィリーの斧だ。地面近くまでサンドワームが倒れかけたところで、ウィリーが傷口を追撃した。
それによってサンドワームは体を半分以上切り裂かれ、討伐完了だ。
「よしっ、あと二匹だ!」
ウィリーがそう叫びながら、また別の個体に飛び込んでいく。それからも皆で連携をして、すぐに三匹のサンドワームは地に伏した。
全員で安全な場所に集まって、ハイタッチをする。
「やったな!」
「危なげなく倒せて良かった」
「上手く連携できてたよね」
「皆さん凄かったです!」
倒したサンドワームに改めて視線を向けると、かなりの大きさだ。そして体液が飛び出していて、少し……いやかなりグロい。
アイテムボックスで解体しても碌な素材が取れなそうだけど、一応収納しておいた。
「じゃあ、先に進もうか」
「おう!」
それからは砂漠特有の魔物、サンドワームにサンドスコーピオン、それからサンドアントに足止めを喰らい、さらにはあまりの暑さに休息時間を多めに取られつつも、順調に探索は進んだ。
砂漠で氷魔法は、まさに命を繋ぐものだった。もはや生命維持装置だ。氷魔法で冷気を作り出して風魔法を使うと、エアコンを使ったような涼しさが砂漠の真ん中で作り出せる。
「マジで、トーゴの魔法がなかったら無理だな……」
「この暑さで氷魔法が使えなかったら、耐えられないよね……」
涼やかな風が気持ち良すぎるのか、二人の声音が気の抜けたような緩さになっていた。ただ俺も全く同じ気持ちで、砂漠の暑さは本当に予想以上だ。
ミルなんて、作り出した氷の上に直に寝そべっている。
「暑いですね〜」
「厳しい環境だよ……」
そうして定期的に休む時間をとりつつ、十七層のちょうど中心ぐらいの場所にやってきた。
少し空が暗くなり始めたので、今日はここで野営だ。
「なんだかすでに、結構涼しくなってきたね」
ミレイアの言葉に全員が同意をする。すでに少し肌寒く感じるぐらいだ。
「砂漠の夜は寒いって本当なんだな。昼間が暑すぎて、絶対嘘だろって思ってたのに」
「ここまで気温差があると辛いな」
「そろそろ僕も砂漠を歩けそうです!」
そんな会話をしつつも、さっきまでの焼かれてるような暑さと比べたらマシなので全員の気力が復活し、野営の準備をせっせと進めた。
調理する場所と、そこから少し離れたところに寝るためのテントを設置する。食事はアイテムボックスから取り出した出来立てを食べるのもありだけど、野営の時は雰囲気重視だ。
今回も焼肉かな。そんなことを考えながら火をおこしているうちに、どんどん気温が下がっていった。
「ちょっと寒すぎるかも……」
思わずそんな言葉を呟くと、ウィリーがすぐに同意してくれる。
「俺もそう思ってたっ。砂漠マジでやべぇ。ちょっと前まであんなに暑かったのに」
「事前に気温差が凄いとは聞いてたけど、これは予想以上だね……」
ミレイアも自分の腕を擦りながら火の近くに来た。
「これからもっと気温が下がるのでしょうか」
ミルのそんな言葉に、全員のテンションが下がる。
「とりあえず、夜ご飯はあったまるやつにしよう。スープとかが良いかな」
「そうだな。あと上着も出して欲しいぜ」
「テントの中にも毛布を追加したいな」
「分かった。本格的に寒くなる前に早く準備しよう」
そうして俺たちは暑さから逃れたけど、今度は寒さに苦しむことになり、野営の準備を急いで進めることになった。
神に転生した少年がもふもふと異世界を旅します 蒼井美紗 @aoi_misa
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