第85話 フロアボスと宝箱
レッドカウは俺達に気づくと、すぐに標的を一番前にいたウィリーに定めて突進を仕掛けてきた。しかしウィリーはその突進を冷静に見極め、斧で軽くいなして突進を止める。
「おおっ、カウより力が強いぞ」
「ウィリー、弓いくよ!」
ウィリーに突進を止められて少しだけ動きを止めているレッドカウに対して、ミレイアが隙を見逃さずに弓を放った。するとその弓は吸い込まれるように、急所である首元に突き刺さる。
「さすがミレイア!」
しかしまだ絶命はしていないらしい。レッドカウは最後の力を振り絞るようにファイヤーボールを放ってきたので、俺はアイスボールを放ちファイヤーボールを打ち消した。そしてその間にミルが爪の攻撃で、レッドカウの首元を切り裂いて完全に絶命させる。
「今の連携は完璧だったね!」
「おうっ。最近は特に良い感じだよな」
「なんとなく皆が考えてることが分かるようになってきたよ」
俺達は良い戦いができたことに皆が上機嫌で、倒したレッドカウの下に集まってハイタッチをした。
「この調子でレッドカウをどんどん倒していくか」
「そうだね。ちょうどお昼も食べ終わったし、もう探索に戻る?」
「そうしよっか」
「わんっ!」
それからの俺達は凄かった。マップの力を駆使して他の冒険者と鉢合わせないように気をつけつつ、とにかく端からレッドカウを倒しまくった。もう俺のアイテムボックスの中には、数十匹分のレッドカウの素材が収納されている。
「フロアボスに出会わないね」
「もっと楽に出会えると思ってたんだけど」
「本当だよな。早く戦いたいぜ」
そろそろこのフロアを全て回り切るんだけどな……まあ相手も動いてるんだし、運が悪かったら全てを回っても出会えないってこともあるだろう。
「あっ、また魔物がいるよ。今度は……三匹が一緒にいるみたい」
「珍しいね。今までは群れになってることってなかったよね?」
「そうだよな。てことは、もしかしてフロアボスか!?」
『僕の鼻では今までの魔物と少し違う気がします!』
おおっ、それはかなり可能性が高い。俺がミルの言葉を二人に伝えると、二人は期待のこもった瞳を浮かべて進む足を早めた。
そうして五分ほど進み、俺達の目の前に現れたのは……明らかに今までのレッドカウよりも一回り以上は大きい個体だった。
「絶対にフロアボスだぜ!」
「凄く強そうだよ。弓が通るかな?」
「油断せず慎重に行こう。まずはそばにいる普通のレッドカウ二匹から」
「了解だ! ミル行くぞ!」
「わんっ!」
ウィリーとミルがそばにいる二匹のレッドカウに向かっていったので、俺とミレイアはビッグレッドカウを牽制するためにも一度弓と魔法を放った。するとミレイアの弓は少しだけ刺さったけどほとんどダメージは通っていなく、俺のアイススピアも少しだけ血を流させただけだった。
「かなり硬いね」
「皮が分厚いみたいだ。急所を狙おう」
「了解。……バリア!」
レッドカウと戦っているウィリーの下にビッグレッドカウが突進しようとしたので、ミレイアがバリアで行く手を塞いだ。そしてビッグレッドカウが戸惑っている間に、俺は魔力をいつもの倍以上込めてアイススピアを放つ。
「行けっ!」
急所である目を狙ったその攻撃は、吸い込まれるように狙い通りの場所に向かっていった。そしてビッグレッドカウの目から脳にまで突き刺さり、一撃で絶命させる。
ふぅ……当たって良かった。魔法も練習の成果が出てるな。
「トーゴさすが!」
「やったな!」
『トーゴ様、カッコ良いです!』
ミレイアに続きレッドカウを倒したウィリーとミルまでもが全力で褒め称えてくれて、俺は少し恥ずかしくなりながら倒した魔物を全てアイテムボックスに収納した。すると……地面に宝箱が一つ残る。
「おおっ、これが宝箱か!」
「本当に宝箱が出るんだ……ちょっと感動する」
「早く開けてみようよ。ミルちゃんが開けるんだよね?」
『良いんですか!?』
ミルが嬉しそうに尻尾を振りながら念話で叫んだその言葉は、俺が伝えるまでもなく二人に伝わったようで、ミレイアとウィリーはミルの頭を優しく撫でて頷いた。
「ミル、良いよ」
『ありがとうございます。では行きます!』
木製に金属で縁取りがされている宝箱の蓋をミルが器用に鼻で開けると……中には、一枚の何の変哲もないハンカチが入っていた。
『これは何でしょうか?』
「ハンカチか?」
「いや……多分違う。確か本に稀に出る宝箱の中身って項目があって、書いてあったはず」
読んだ記憶はあるけど内容を思い出せなくて、皆に見張りを頼んで本を取り出し記憶を頼りにページをめくった。
「あっ、これだ! 布肉って名前らしいよ。えっと……ビッグレッドカウを討伐した際の宝箱から稀に出現する布で、燃やすとビッグレッドカウの塊肉ステーキに変わる、だって」
なにその不思議な布! めちゃくちゃワクワクするんだけど!
「だから布肉って名前なのか。面白いな!」
「これってかなり当たりなんじゃない?」
「フロアボスは宝箱からそのボスの素材が出ることが多いらしいから、これは当たりだと思うよ」
『やりましたね!』
「ミルのおかげだな。凄いな!」
ミルが尻尾をピンっと立ててドヤ顔をしているのに気づいたウィリーが、ミルの頭をガシガシ撫でて褒めまくっている。ミルはウィリーからの称賛に満面の笑みだ。
「これでフロアボス討伐もできたし、この階は終わりかな」
「そうだね。じゃあ次の階に行く?」
「うーん、それも良いけどもう結構な時間だよ。帰りは魔物に出会わないように最速で帰るとしても数十分はかかるから、そろそろ戻った方が良いかも。初日から無理しすぎない方が良いと思うし」
「確かにそうだな。ちょうどフロアボスを倒せたところだし帰るか。依頼も達成できてるしな」
ウィリーのその言葉にミレイアとミルが頷いたので、俺達は地上に向かうことになった。帰りは俺のマップを駆使して魔物に出会わないように気を付けつつ、階段までの最短距離を足速に歩いたので、三十分ほどで地上まで戻ってくることができた。
管理人の男性に挨拶をしてダンジョンが管理されている建物から出ると、ちょうど日が沈み始めた時間だ。
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