第31話 借金返済とミルの首輪

 ミルと街の外を散歩してから一週間が経った。

 俺はこの一週間、一日も休むことなく仕事を続け鍛練も続けた。それによってかなり体力はついてきた気がする。もう荷運びの荷車が難なく引けるし、腕立て伏せも軽くできるようになった。


 成長限界が最大って凄いなと最近は思っている。最初に神界に帰れないってなった時はどうしようかと思ったけど、この一週間で自信がついてきた。この調子で頑張り続ければなんとかなるだろう。


 それにお金もかなり貯まったんだ。毎日の仕事の報酬にプラスして、ミルと散歩に行った時に狩った魔物も売ったから。弱くてどこにでもいる魔物だから高くは売れなかったけど、銀貨にはなった。


 なので今日はついに借金を返済しようと思う。できる限り早く返したいと思ってたから遂にって感じだ。

 俺は朝いつもより早めに食堂に降りて、パブロ達を待つことにした。


「ミル、今日は少し早めに下に行こう」

「借金を返すのですよね」

「うん。早めに返したいから」

「では行きましょう」


 下に降りると、予想通りまだパブロ達は来ていなかった。そこで俺は朝食を食べながら三人を待つことにする。


『今日の朝ご飯も美味しいな』

『ここの料理は味付けが絶品です』

『分かる。多分オリジナルでブレンドしてるんじゃないのかな? ハーブとか色々』

『凄いですね』

『本当にいい宿を紹介してもらったよ』


 そうしてミルと念話を楽しみながら朝食を食べていると、少し眠そうなパブロとマテオ、サージが降りてきた。


「皆おはよう」

「おっ、今日は早ぇな。なんかあるのか?」


 そう聞いてきたのはパブロだ。


「うん。今日は皆にお金を返そうと思って」


 俺がそう言うと、パブロはさっきまでの眠そうな顔から一転、一気に真剣な表情になり俺の前の席に座った。

 パブロはずっとこの真剣な感じでいたらモテると思うんだけどな……パブロのモテない話はもう何度も聞かされているのだ。いや、モテない話というか振られる話だな。


「もう貯まったのか?」

「うん。この街に入る時の税金と冒険者登録のお金、それから宿三泊食事付きのお金、合わせて銀貨五枚と銅貨七枚。あとはカレーも奢ってもらったし、お礼の気持ちも込めて銀貨六枚入ってるよ」


 俺はそう言って小さな麻袋ごとパブロに手渡した。パブロはその中身を確認するとニカっと笑顔になる。


「おう、銀貨六枚ちょうど入ってる。こんなに短期間でこれだけ貯められるなんてすげぇよ!」

「本当だな。大体ランクの低い冒険者は貯金なんて出来ずにその日暮らしだ」

「トーゴ凄いな」


 皆に褒められてかなり嬉しい。この街に来てからはかなり頑張ったからな。


「皆改めて、俺に声をかけてくれてお金まで貸してくれて本当にありがとう。皆のおかげで俺はなんとかやっていけそうだよ」


 俺のその言葉を聞いて、パブロが頭をガシガシと撫でてくる。


「お前はいい奴だなぁ。本当にすげぇよ」

「皆こそ本当にいい人達だよ。なんで結婚できないのか不思議なぐらい」

「トーゴ、それは禁句だっ」


 マテオにそう止められたけど、もう言葉にした後だから遅い。もしかしてまたパブロ、フラれたところだったとか?


「トーゴ、本当だよな、なんで女はこの俺の魅力がわかんねぇんだろう。俺だってよ、真面目に働いてんのによ、少しは貯金できるぐらい稼げてるのによ、結婚したら絶対幸せにするのによ……あなたと結婚しても幸せになれなさそうって、そりゃあ酷いよな!!」


 おぅ……面倒くさいパブロを呼び覚ましちゃったかも。幸せになれなさそうって言われたのか……それは辛いな。パブロどんまい。


 でも皆本当に良い人達なのに、なんで結婚できないのか俺の方が不思議だ。まあマテオとサージはそこまで結婚を求めてなさそうだけど。

 パブロは……ちょっと軽すぎるのかな? でも顔は悪くないし全体的に外見は悪くない。それに性格も明るくてなんだかんだ面倒見いいし。やっぱり軽そうに見えるのがダメなんだろうな……


「パブロ、飯をもらいに行くぞ」

「……そうだな」


 面倒くさいモードのパブロはマテオが連れていってくれた。マテオありがとう。


 それからは普通に楽しい話をしながら一緒に朝ご飯を食べて、三人とは別れて宿を出た。今日もいつものように仕事を三つこなさないとだ。パブロに借金を返済したことで溜まったお金も少なくなったし、また稼がないと。

 俺は足取り軽く冒険者ギルドに向かった。



 ――それから三日間。また真面目に仕事をこなし、俺はミルの首輪を買えるだけのお金を手に入れた。


『ミル、首輪を買いに行こうか』

『はい!』


 仕事が終わって鍛練をする前に、革製品を売っているお店に向かう。ミルの首輪は良いものがないか街中を歩くたびに商品を確認して、一つ良さそうなものを見つけていたのだ。


 そのお店に向かい店内に入ると、優しそうな女性が奥から出てきてくれた。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

「この子ミルって名前なんですけど、ちょうど良い首輪を探しています。従魔の証になるようなものを」

「かしこまりました。首輪はあまり既製品はなくて、もし合ったサイズがなければオーダーメイドも可能です。一応こちらの三つが既製品としてあるものです」


 そう言って店員さんは窓際の棚に案内してくれた。そう、この首輪がお店の外から見えていたのだ。


「このオレンジの首輪、試してみても良いですか?」

「もちろん構いませんよ」


 手に持ってみるとそれは首輪というよりも、お洒落なチョーカーという感じだった。細身の革製で、ボタンで止めることで着けられるようになっている。

 これなら大きくなる時もすぐに外せるし便利だろう。


「ミル、ちょっと着けてみるよ」


 ミルの首に巻いた布を外し、チョーカーを着けてみた。するとサイズはぴったりで凄く似合っている。


「あら、ぴったりですね。とてもお似合いです」

「凄く良いです」

『ミル、付け心地はどう?』

『布よりも気になりませんし、とても良いです』

『じゃあこれを買っちゃう?』

『はい!』

「これ下さい。あっ、値段は銀貨四枚で間違えてませんか?」

「はい、銀貨四枚です」


 外から値段が書いてあるのが見えていたのだ。結構高いけど、ずっと使うものだしそのぐらいのお金なら今はあるし良いだろう。


「これで」

「ありがとうございます、ちょうどですね。ではどうぞお持ちください」

「ありがとうございます。また何かあったら寄らせていただきます」

「またのお越しをお待ちしております」


 そうして上品な感じのお姉さんに挨拶をして、俺とミルはお店の外に出た。


『ミル、すっごく似合ってるよ!』

『本当ですか? 嬉しいです。なんだか背筋が伸びます』


 確かにいつもよりキリッと立ってるかも。なんかミル、ちょっとカッコいいよ。ただの親バカかもしれないけど。


『じゃあその首輪を子供達に自慢しに行こうか』

『そうですね!』


 ミルは俺が鍛練している広場に遊びにきている子供達と仲良くなっていて、最近はミルが広場に姿を現すとすぐに子供達が駆け寄ってくるほどだ。

 ミルも子供達と遊んでる時がなんだか楽しそうなんだよな。



 ――そうしてその日もいつものように広場に向かい、子供達と交流しながら鍛練をして街を走り、暗くなってきたぐらいの時間で宿に戻った。


 最近はこの生活にも慣れてきてそこまで疲れなくなってきている。それに腕にも筋肉がついたし、腹筋もうっすらと割れてきてるのだ。

 こうして成果が見えると嬉しくて、どんどん鍛えるのだ楽しくなっているところだ。これからも頑張ろうと思う。

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