第35話 武器屋

『ミル、これから俺の武器を買いに行きたいんだけど、お昼を先がいい?』

『そうですね……今日ってお仕事はないのですか?』

『うん。仕事は全部昨日で終わりにしたからもうないよ』


 肉屋の仕事に畑仕事と家庭教師は、全てが昨日で最後だったのだ。畑仕事と家庭教師は継続依頼でかなり仲良くなったので、また明日今までのお礼も兼ねてお土産を持って向かおうと思っている。


 どちらにもかなり良くしてもらったから。イゴルさん達には昼食だけでなく軽食のパンをもらったり、野菜をお裾分けしてもらったりした。

 宿屋のイサークさんにはリュイサちゃんが勉強を好きになったからと、そのお礼に報酬を引き上げてもらった。それから勉強の合間におやつや果物も差し入れしてくれたのだ。


『では先に武器屋に行き、お昼を買って外に行きませんか? 久しぶりに走りたいです』

『確かに最近行ってなかったか。じゃあそうしよう』

『はい!』

『まずは武器屋だけど、冒険者ギルドで初心者におすすめの所を聞いてきたんだ。確か大通りを進んで三つ目の路地に入って……』


 そうして聞いた通りの道順に進んでいくと、簡素な店構えの武器屋に着いた。武器屋ってちょっとワクワクするよな。偏屈なお爺さんとかいるのかな!

 そんなことを考えつつ期待してドアを開けると、お店の中はがらんとしていて中にいたのは優しげなお兄さんだった。


 俺は自分のテンションがどんどん下がっていくのを感じる。だって武器屋と言ったら壁一面の武器に、気に入ったやつにしか俺の武器は売らん! って感じのお爺さんでしょ。


「いらっしゃいませ。……君、大丈夫?」


 店員のお兄さんは、ドアを開けた状態で項垂れている俺を心配するように話しかけてくれた。

 お兄さんいい人だ……


「大丈夫です。ここって武器屋で合ってますか?」

「合ってるよ。ここは初心者用の既製品だけを売ってる武器屋なんだ」

「そうなんですね。ここの武器ってお兄さんが作ってるんですか?」

「違うよ。いろんな鍛冶屋から卸してもらって売ってる」


 そっか、そういうお店だから俺のイメージと違ったんだな。じゃあお爺さんと壁一面の武器は、もう少し強くなって武器を買い替える時まで楽しみにとっておこう。


「君は武器が欲しいの?」

「はい。新人冒険者なんです。初心者講習で両手剣が向いてるって言われたので、両手剣が欲しいです」

「両手剣だね、こっちだよ。その子は君の従魔?」

「はい」

「その子も一緒にいいよ」

「ありがとうございます」

『ミル、一緒に行こうか』

『はい!』


 店の奥に入っていくお兄さんに付いて行くと、そこには五本の両手剣があった。どれも似たような作りみたいだ。


「どれも違う工房で作られてるから、実際に持ってみて手に馴染むものを買ってね。好きなだけ試していいから。店も広いから振ってもいいし」


 なんでこんなにがらんとした店なのかと思ったけど、店内で剣を振れるようになのか。


「ありがとうございます。あっ、ここの剣ってお値段は……?」

「ここの剣は初心者応援も兼ねてるから、全て金貨一枚だよ」


 金貨一枚! それは武器としては破格の安さだろう。俺のお金でも十分に足りる。


「かなり安くなっているのですね。ありがとうございます」

「ろくな武器も持たずに魔物と戦い、命を失う初心者が多かったからね。ほとんどの街でこういう取り組みはしてるんだ」

「そうなのですね」

「うん。じゃあ試してみて」

「はい!」


 俺はまず一番右側にある剣を持ってみた。おおっ、冒険者ギルドにあったやつより重いな。でもこれぐらいの方が俺には使いやすいかもしれない。軽く振ってみても手に馴染む。次はその隣のやつだ。う〜ん、これはかなり軽いな。ちょっと微妙かも。

 そうして五本全てを持ってみると、最初のやつと四本目の剣が俺の手に馴染んで良かった。


 最初の剣は重さが凄く良かったんだけど、四本目の剣はなんだろう……重心が俺に合うっていうのかな? 凄く振りやすい剣だった。

 どっちにするのか迷うな……


『ミル、一本目と四本目で迷ってるんだけど、どっちがいいかな?』

『そうですね……見ている限りだと四本目の方が良いと思います。トーゴ様が楽そうに振られていたので。一本目の方が少し大変そうでした』


 確かに一本目の剣は重さはいいんだけど、ずっとその剣を振るとなると少し大変かもしれない。じゃあ四本目かな。


「すみません。この剣にします」

「決めたんだね。その剣は……ホアキンさんのところのだよ」

「どの工房の剣なのかって覚えてるんですね」

「それは覚えてるよ。それを購入者に伝えるのが僕の仕事の一部だからね。武器って相性が大切だから、贔屓の工房を持つ冒険者がほとんどなんだ。だから初心者にはまずこのお店に来てもらって、五本の中から好きなものを選んでもらう。それでその武器を作った工房を伝えて、次からはその工房のお店に行ってもらうんだ」


 へぇ〜そんな仕組みになってたんだ。結構良くできてるよね。


「では俺は、次からホアキンさんという方の工房に行けばいいのですね」

「それがいいね。場所を教えるよ。ホアキンさんの工房はお店と一体になっていて、このお店に来る前に通ってきた大通りがあるでしょう? その大通りに戻って左に曲がって…………」


 そうしてお兄さんからホアキンさんのお店の場所を教えてもらった。お店の場所は宿屋の近くみたいなので、今度少し覗いてみようかなと思う。


「ありがとうございます。次の武器が欲しいと思ったらそちらに行ってみます」

「それがいいよ。じゃあ剣は決まりかな。他のものはどうする? 剣をしまう鞘と鞘を背負うための紐、それから剣の手入れ道具も売ってるよ」


 うーん、その辺は買おうか悩むんだよな。……でも後から買い足すこともできるんだし、今回は最小限にしておくか。まだお金に余裕があるわけじゃないし。


「俺はアイテムボックスが使えるので、とりあえず鞘は必要ないかなと思ってます。手入れの道具は欲しいです」

「アイテムボックスが使えるんだ! それは便利だね。確かにアイテムボックスが使える人はそこに武器を仕舞ってることが多いよ」

「やっぱりそうなんですか?」

「移動の時に身軽でいられるからね。僕も使えたら仕事が楽なんだけどな〜」


 お兄さんは苦笑しながらそう言った。やっぱりアイテムボックスってかなり重要だったな。最初に闇も使えるって言って良かった。


「他に欲しいのは剣の手入れ道具だけだね」

「はい」

「銀貨二枚だから、剣と合わせて金貨一枚と銀貨二枚だよ」

「分かりました。銀貨十二枚でもいいですか?」

「もちろん」

「じゃあこれで」

「……はい、ちょうどだね。これから頑張って」

「はい。ありがとうございました!」


 そうして俺は購入した剣と手入れの道具を受け取ってアイテムボックスに仕舞い、武器屋を後にした。


 初心者用の既製品の武器だけど、自分の剣を手に入れたって事実が凄く嬉しくて気分がいい。スキップでもしたい気分だ。


『ミル、ついに俺の剣を手に入れたよ!』

『やっとですね! この一ヶ月の成果です』

『本当に……この一ヶ月頑張ったよ。じゃあ早速お昼を買って外に行こうか。俺も試し斬りをしてみたいし』

『そうですね! では行きましょう』

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