第34話 武器決定
遂に、遂に一ヶ月が経った!
三つの仕事を掛け持ちしてその後に鍛練をするという、かなり過酷な生活を続けること一ヶ月。もう一ヶ月前とは比べ物にならないほど体力も筋力も増えて、さらにお金も増えた。
『ミル、今日は遂に武器を決定する日だよ!』
『楽しみですね!』
あの初心者講習からちょうど一ヶ月。今日はサムエル教官と約束をしていて、あの講習のやり直しをしてくれることになっているのだ。
遂に俺の武器が決められるだろう。そして今まで頑張って貯めたお金で、なんとか自分の武器を買うのだ。これで街の外での依頼も受けられる!
『トーゴ様、凄く嬉しそうですね』
『あの大変な日々が報われると思うと……嬉しすぎるよ』
後半は段々と慣れてきたとはいえ、やっぱり大変な日々であることに変わりはなかった。まあこれから先も鍛練は続けないといけないんだけど……あそこまで仕事を掛け持ちする必要はなくなるだろう。これからは休日も作れるはずだ。
『ミルもこれからは毎日でも外に行って走り回れるよ』
『それは嬉しいです! 早く走りたいです!』
ミルはずっと大きくならずに中型犬サイズでいたら、そのサイズでいることの辛さは無くなったらしい。ミル曰く、その大きさに馴染んだのだそうだ。
でも走り回れないことはやっぱりストレスのようで、大きくなれなくても走り回ることはしたいみたい。
『武器を買ったら街の外の依頼を受けよう』
『はい!』
そうしてミルと念話で話しながら冒険者ギルドに向かった。ギルドの中に入るとサムエル教官が既に待ってくれている。
「教官おはよう」
「ああ、一ヶ月サボらなかったか?」
「もちろんだよ」
「じゃあ裏に行くぞ。ちゃんと鍛練をしたか確かめてやる」
サムエル教官はニヤッとかっこよく笑って裏庭に向かって行った。俺もあんな感じで男が憧れる男になりたいな。まだまだ遠いけどさ。
裏庭に向かうと、一ヶ月前にも見た武器が詰められた樽が置いてあり、その中からいくつかの武器が地面に並べられていた。
「この前トーゴが試した武器がこの地面に並んでるやつだ。全部持ってみろ」
「分かった」
俺は緊張と期待が入り混じった複雑な気持ちを抱えながら、恐る恐る剣の柄を手に持つ。そしてそっと持ち上げてみると……
……おおっ、全然重くない!
「持てたら少し振ってみろ」
そう言われて俺はなんとなくのイメージで、剣を上から下に右から左に振ってみた。剣が重くない……!
「形はなってないが、とにかく振れるなら後は練習すればいい。じゃあ次はこの両手剣だ」
この世界で一番多いスタイルが左手に盾を持って右手に片手剣を持つスタイルなんだけど、盾を持たずに両手剣一本の人も結構いる。その場合は腕に小さめの盾を固定していたりもするみたいだ。
「持ち方は片手剣と同じ? どっちの手が上とかある?」
「あまり決まりはないな。だが右手が上で左手が下で持つやつが多い。親指の付け根の部分を柄の上から被せて持つようにすると良い。それからあまり手に力を入れすぎるな」
「分かった。やってみるよ」
俺は教官の言葉を守り両手剣を持ってみた。すると片手剣よりも重量はあるけれど、両手で持っているからか全く問題のない重さだ。
いろんな方向から剣を振ってみても、さっきの片手剣よりも上手く振れる気がする。俺、両手剣の方が向いてるかも。
「お前はこちらの方がセンスがありそうだな」
「やっぱりそう? 自分でもそうかなって思った」
「ああ、別の武器も持ってみろ」
そうしていくつもの武器を手に取り少し振ってみた結果、ダントツで両手剣に才能ありという結果になった。
うん、自分でもなんとなく分かってた。両手剣だけは振ってる時に、剣が自分の体の一部になるような気がしたのだ。他の武器はしっくりこなかった。
「お前は両手剣だな。それでいいか?」
「もちろん。俺も両手剣が一番しっくりきたから」
「じゃあ決定だな」
『ミル、俺の武器が決まったよ』
『良かったですね! 両手剣の時が一番動きも良かったですしカッコよかったです』
『本当? 良かったよ』
俺は裏庭の隅で見学してくれていたミルに早速報告をする。やっぱり客観的に見ても、合ってる武器ってわかるもんなんだな。
「今からは両手剣の使い方を一通り教える。ただ俺は専門じゃないから基礎だけだ。あとは自己流で頑張ってくれ。結局冒険者なんて自己流で武器を使ってる奴がほとんどだし、自分に合った使い方が一番なんだ」
「分かった。基礎を教えてもらったらあとは自分で頑張るよ」
「それがいい」
この世界は剣術の流派とかないんだな。型よりもどれだけ強いのかが大事だ、みたいな感じなのかもしれない。
「まずはもう一度握り方からだ」
――そうしてそれから一時間。俺は両手剣の扱い方を教官からみっちりと学んだ。
剣の持ち方に始まり振り方、鍛錬の仕方。それから持ち運び方法や鞘からの取り出し方、手入れの仕方まで教えてくれた。
教官には本当に感謝だ。両手剣は背中に背負って持ち運ぶみたいなので、背中に鞘を背負った状態で、普段から走り込みなどをするといいらしい。咄嗟の時に鞘が重くて動きが鈍り、命を落としたなんてことがないように。
でも俺はアイテムボックスが使えるから、武器は基本的にアイテムボックスに入れておいて、必要な時だけ取り出すようにしようかなと思っている。その方が移動時の負担もないし、アイテムボックスの中は時間停止だから剣の劣化も防げるだろうし。
まあそこは色々と試してみてかな。とにかくはまず自分の剣を手に入れないと。
「講習はこれで終わりだ。何か質問はあるか?」
「ううん。教官本当にありがとう」
「おう、お前は近年稀に見る逸材だ。これからも鍛練すれば強くなるだろう」
「本当?」
「間違いない。一ヶ月でここまで仕上げてくるとは正直思っていなかった。才能もあって努力もできる、そして体もそれについてきている。この三つが揃っているやつは強くなる」
やばい……教官に褒められるのめっちゃ嬉しい! 一ヶ月の苦労が全部報われた気分だ。
「教官ありがとう。俺強くなったら絶対にその姿を教官に見せにくるよ!」
「ははっ、楽しみにしている。無理はするなよ」
そう言って俺の頭をポンポンと軽く撫でてくれた教官は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
こうして教官が見送ってきた新人の中には、無理をして魔物に殺されてしまった人も沢山いるんだろうな……俺は絶対に教官を悲しませないと誓おう。
というか今更だけど、魔物なんて作らない方が良かったのだろうか。神界にいる時はやっぱり現実感がなくてゲーム感覚で世界を作っていたけど、これは現実なんだ。それはもう嫌というほど実感している。
……でも生命体を作る限り、争わない殺し合わないなんて無理だってことも事実だろう。そこは神として目を瞑らないとダメなのかもしれない。それができないなら、生命体がいない世界を作るしかない。
うん、やっぱりここは許容するべきなんだろうな。今更そんなことを考えても遅いし、誰も死なない誰も苦しまないなんて、そんな世界は実現できないんだ。
この世界では俺の目の前にいる人や大切な人は全力で助けよう。そして神界に戻れたら、仲良くなった人をこっそり助けるぐらいはいいよな。
「じゃあ教官、また」
「ああ、これから頑張れよ」
俺は教官と別れて冒険者ギルドを出た。時間はまだ昼前だ。今日はこれから武器を買いに行こう。
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