第28話 マップの機能

 宿に戻るとちょうど夕食の時間になっていて、食堂でマテオ達が夜ご飯を食べていたところだった。


「おう、トーゴ遅かったな」

「仕事が終わってから鍛練してるんだ。これからは毎日このぐらいの時間かな」

「仕事の後にやるなんて偉いな」

「早く強くなって武器を持てるようになりたいから」


 俺がそう言うと、パブロが立ち上がって頭をガシガシと撫でてきた。


「ちょっ、ちょっとパブロっ」

「お前は偉いなぁ」


 そう言ってニカっと笑いかけてくれる。パブロって弟とかいそうだな。面倒見のいいお兄ちゃんな気がする。


「トーゴも一緒に夕飯食べようぜ。ここ座れよ」

「いいの?」

「いいに決まってんだろ。マテオとサージもいいだろ?」

「ああ、もちろんだ」

「問題ない」

「じゃあお邪魔するよ」

「おう、アナちゃん! トーゴとミルに夕飯頼むぜ」


 別の席にいたアナちゃんにパブロがそう呼びかけると、アナちゃんはこっちを向いて笑顔で了承してくれた。


「はーい!」

「トーゴ、疲れているな」


 そう言ったのはマテオだ。やっぱり疲れてるように見えるか。


「うん。街中だと稼げる仕事があんまりないから、結構大変なんだ。鍛練もしてるし」

「無理はするなよ。体を壊したら元も子もないからな」

「そこは気をつけるよ」

「自分でわかってるなら大丈夫だな」

「心配してくれてありがと」


 そうして話しているとすぐにアナちゃんが夕食を持ってきてくれる。


「はい、これがトーゴの! ミルちゃんのはこれね」


 今日の夕食は牛肉の煮込み料理にパンみたいだ。暴力的なまでの良い匂いで、お腹が空いている俺には刺激が強い。


『美味しそうだ』

『ですね! トーゴ様、食べて良いでしょうか?』

『もちろん。食べようか』


 俺はミルとそう話して、すぐに食前のお祈りをした。


「神に祝福を、糧に感謝を」


 うぅ〜ん、何この牛肉! ほろほろにとろけてめちゃくちゃ美味い。このソースも絶品だ。

 このソースをパンにつけたら絶対美味い。俺はそう思って、パンを一口サイズにちぎりソースをつけた。そしてそのパンを口の中に入れると……やばい、美味すぎる。


『トーゴ様、このパンをいくつかちぎってもらえませんか? ソースに浸して食べたいです』

『分かった。ちょっと待って』


 俺は椅子から立ち上がってミルの食事の前にしゃがみ込み、パンを一口サイズにちぎっていった。そしてソースに次々と浸していく。


『ミル、はいどうぞ』


 いくつかのパンは浸さずに、ソースをつけてミルの口元まで運んだ。するとミルは嬉しそうに俺の手からパンを食べてくれる。

 うぅ……可愛すぎる。悶える可愛さだ。最後まで俺が食べさせたい。


『美味しい?』

『はい。パンに浸すと絶品ですね』

『そうだよね』


 はぐはぐ食べているミルが本当に可愛い。

 そうして俺がミルの可愛さに悶えながらパンをあげていると、上からパブロに話しかけられた。


「トーゴ、何やってんだ?」

「ミルにご飯をあげてるんだ。ミルはパンをちぎれないし、ソースに浸すのも大変だから」

「そんなことまでやってあげんのか。過保護な主人でミルは幸せ者だなぁ」

「ワンッ」


 ミルは幸せ者って言葉に反応して頷くように吠えてから、尻尾をバタバタと振っている。僕は幸せ者だよって言ってるみたいだ。


「ミル〜」


 俺はミルがあまりに可愛すぎて、もふっと抱きついた。触り心地も抜群だ。ここで寝たい。


「トーゴは親バカだな」

「ミルが可愛すぎるのがいけないんだ」

「まあ、確かに可愛いやつだよな。冒険者やってると従魔を連れてるやつとも結構会うが、ここまで心を許しているのは初めてみた」

「そうなんだ」

「ああ、主人には懐いてるが周りの人間には触らせない従魔は結構いるな」


 ミルは喜んで皆に撫でられてるよな……まあ、ミルは厳密には従魔じゃなくて眷属だからいいのか。


 そうして皆と話をしつつ夕食を食べ終えた。疲れたところで満腹になり、もう眠くなってきたな。


「じゃあトーゴ、またな」

「うん、また」

「鍛練頑張れよ」

「無理はするな」

「ありがと。頑張るよ」


 本当にこの三人は優しくていい人たちだ。俺に余裕ができたら絶対に恩返ししよう。


 三人と別れてまずお風呂に向かうことにした。今までずっと着ていた服も洗濯したいし、やりたいことはたくさんある。


『ミル、これからお風呂に行くよ』

『分かりました! そういえばトーゴ様、先程の三人はマップで青色でしたか?』


 ミルにそう聞かれてマップのことを思い出した。疲れてて完全に忘れてたな。一旦部屋に戻って確認してみるか。

 予定を変更して部屋に戻り、頭の中ではなくウインドウとしてマップを開いてみた。するとこの宿の中に三つの青い点がある。これは十中八九マテオ達だな。


『ミル、マテオ達も青色みたいだよ。……どんな分け方なんだろ。仲良い人とか?』

『ですが、それだと広場にいた女の子とは仲が良いわけではないような』

『確かにそうか。じゃあ……俺に好意的な人、とか?』


 あの女の子はミルにメロメロだったから、俺に好意があってもおかしくないだろう。マテオ達もここまで助けてくれてるから好意があると思う。


『確かに……あり得ますね』

『とりあえずはそう仮定しておこうか。青は好意的な人で緑は……まあ、普通な人かな。そして赤が俺達』

『そうですね。そういえばそのマップって人間しか映らないのですか? 例えば魔物はどうなのでしょうか』

『まだ試せてないんだ。これって生体反応は、俺がいる場所から一キロぐらいしかわからないんだよね。だから街の外に行かないとわからないかな』

『そうなのですね。では街の外に行ったらマップの機能も色々と試してみましょう』

『そうしようか』


 マップはこれからかなり重要になってくるだろうし、できる限り有効活用しないとだろう。魔物がどう映されるのか、後は植物や虫とかも調べたいな。

 ここでも少しはできるけど、どうせなら外で一気に検証しよう。


『じゃあミル、とりあえずマップは外に出た時に検証するってことでお風呂に行こうか』

『はい!』


 そうして俺はミルと共に宿のお風呂に向かった。お風呂に行ってみると誰も入っていないようだったので、ミルには脱衣所で待っててもらい俺はお風呂に入る。

 

 お風呂は大きな桶にお湯を少し貯めて、その外側で小さな桶を使いながら体を洗っていく感じだ。大きな桶にたくさんお湯を貯めれば浸かることもできるんだけど、魔石の消費が激しいのでそれは禁止されている。

 自分の魔石を使えばいくらでもお湯を使っていいみたいなので、稼げるようになったら自分で魔石を用意しよう。


 石鹸も一番安いやつが置いてあってそれは自由に使える。それよりもいい石鹸を使いたければ自分で準備するらしい。石鹸も稼げるようになったら買おうかな。


 そうして念入りに体を綺麗にし、お風呂から出たら買ったばかりの布で体を拭いて新しい服を着る。やばい、めちゃくちゃさっぱりした。今まではずっと同じ服着てたからな……流石に臭いと思ってたんだ。


『ミル、お待たせ』

『全然大丈夫です。気持ち良かったですか?』

『凄く。ミルも入りたい?』

『いえ、僕は汚れないので大丈夫です』

『確かにそうか』

 

 そう考えたらミルのもふもふスキル、意外と優秀かもしれないな。


『よしっ、じゃあ次は洗濯するからちょっと待ってて』


 洗濯もお風呂でやることになっていて、桶にお湯を貯めて服を濡らして石鹸で洗う。

 俺は今まで着ていた服とさっき自分の体を拭いた布を桶に入れて、そこにお湯を注いだ。そして石鹸をつけてゴシゴシ服を擦る。


 これ結構大変だな……洗濯機欲しい。この世界の魔道具に洗濯機ってないのかな。開発はされてるけどお金持ちの人や貴族しか手に入れられないのだろうか。一般に出回ってる魔道具はかなり少ないって言ってたからな……


 いつかはお金を稼いで魔道具をたくさん使った家も手に入れたい。それも目標の一つにしよう。


 そうして服を洗い頑張って水気を絞って、綺麗になった服を持ってお風呂を出た。服は部屋に紐が渡っていてそこに干せるようになっているのだ。


『じゃあミル、部屋に戻ろうか』

『はい!』


 部屋に戻って服を干しベッドに入ると、俺は一瞬で眠りに落ちた。

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