第26話 買い物
昨日はあの後宿に帰りお風呂に入って、とにかく寝た。泥のように眠った。夕食はアナちゃんが呼びに来てくれたからなんとか起きて食べたけど、その後もすぐに寝た。
やっぱり相当疲れてらしい。
そして今日はよく寝たからか意外にもすっきりと目覚め、宿を一日延長して仕事に向かった。そして今は全ての仕事を終えて報酬を貰い、冒険者ギルドから出てきたところだ。
『今日は昨日よりも元気かも』
『良かったです! 昨日のトーゴ様は本当にお疲れでしたからね……』
『そんなに悲しそうな顔しないで。もう元気になって大丈夫だから』
ミルは俺が泥のように眠っている時に、ずっと心配して横に付いてくれていたらしいのだ。ミルには悪いことをしたと思っている。これからは気をつけないと。
『じゃあミル、これからは俺の服を買って、その後に鍛練するので良い?』
『はい!』
そうして俺とミルは、まず中古服店にやってきた。一番安く服を手に入れられる場所を聞いたらここだと言われたのだ。
擦り切れてたり汚れてたりする服もあるみたいだけど、たまに掘り出し物もあるらしい。お金の節約のためにも掘り出し物を見つけ出す予定だ。
「いらっしゃい。どんな服が欲しいんだい?」
お店の中に入ると恰幅の良いおばちゃんが出迎えてくれた。店内には所狭しと木箱が置かれている。
「俺の服が欲しいんだけど、普通に普段着るやつ」
「はいよ。あんたぐらいの体格だと……この箱のサイズかね? それかこっちだね」
おばちゃんはそう言って、かなり大きめの木箱を二つ指し示した。このお店は木箱ごとに大体でサイズが分けられているらしい。
「ありがと。値段は決まってる?」
「この店はどれも銅貨五枚だよ」
「安っ!」
それは安い。めちゃくちゃありがたい値段設定だ。ズボンと上着を二枚ずつ買えるな。あっ、でもそれだと下着を買えなくなるか……
仕方ない。ここは一枚ずつで我慢しよう。今着てる服と合わせて二セットあれば洗い替えにも問題ないし、またお金が貯まったら買えば良いだろう。
ただ今着てる服がちょっと微妙なんだよな……
下界に降りる時の服装は、とりあえず無難に麻で作られた染められてないシンプルなズボンと上着に、革製のショートブーツにしたんだ。
でも思ったよりこの世界の文化水準が高くて、もう少し品質が良さそうな服を着ている人が多かった。多分俺はかなりの貧乏人か田舎者って感じに見られてると思う。
だから……、できる限りこの服は着たくないんだけど。まあお金がないなら仕方ないか。
「おばちゃん、これとこれお願い」
俺は木箱の中から、サイズが合いそうでできる限り綺麗な上着とズボンを取り出した。
「はいよ、銀貨一枚だよ」
「これで」
「ちょうどだね。ありがとね!」
とりあえず着替えをゲットだ。俺はおばちゃんに送り出されて中古服店を後にし、次の目的地に向かった。
次は下着を売っているお店だ。この世界で下着は普通の服屋に売っているらしい。流石に古着ではないので新品を買うしかないそうだ。
「すみませーん」
冒険者ギルドでおすすめされた服屋に向かい、お店のドアを開けて呼びかけた。すると奥から若い男性が出てきてくれる。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」
「今日は下着が欲しいんですけど」
「下着ならそこですよ」
……え、これが下着なの?
男性が示してくれたのは短いズボンみたいなやつだった。膝丈より少し短いぐらいのサイズ感。かなり大きくてぶかぶかなトランクスって感じかな……
「あの、この短いズボンが下着ですか?」
「そうですよ? え、知らないの!?」
男性は凄く驚いたように俺を凝視した。ということは、これが一般的な下着なんだな……
「俺、すっごく田舎の村出身で……」
「ああ、そういうことか。ははっ、驚きましたよ。下着といえば基本的にはどこでもこれです。ほとんどの人が膝丈より少し短いやつを選びます。……あっ、でも最近の新作があって、ウエストにゴムっていう素材が使われて、紐で縛らなくても落ちないやつがあるんです」
男性はそう言って店の奥に行き、下着とズボンを一つずつ持ってきてくれた。
「これですこれ。最近流行ってるんですよ」
「手に持ってみても良いですか?」
「もちろん。でも破ったりはしないでください」
「もちろんです」
そうして俺は男性から下着とズボンを受け取った。ウエスト部分を少しだけ引っ張ってみると……ゴムだ。
凄い、この世界ってゴムが使われてるんだ。この下着とズボンめちゃくちゃ欲しい。今俺が着てるやつもさっき買ったやつも全部紐で縛るタイプなんだ。やっぱりゴムって着心地がいいだろう。
「これいくらですか?」
「一つ銀貨五枚です」
銀貨五枚……やっぱり高いかぁ。流石に今の俺じゃあ手が出ない。
「高いと思うかもしれませんが、まだ新作ですからこれでも安くしてるんですよ」
「そうなんですね……こっちの普通の下着はいくらですか?」
「それは銅貨五枚です」
銀貨五枚と銅貨五枚……今の俺は悩むこともなく後者だな。うぅ、貧乏は辛い。
「じゃあこれを一つください」
俺は銅貨五枚の方を指差して、銀貨五枚のゴムが使われてる方は男性に返した。
「ありがとうございます」
そして銅貨五枚を手渡し、下着を購入してお店を後にした。
これでとりあえず買い物は終わりかな。洗い替えの服を手に入れただけでもここで生活していく覚悟ができた気がする。今までは身一つって感じだったから。
『じゃあミル、ここからは鍛錬かな』
『ついにですね!』
『うん。筋トレとか鍛練できる場所と、ランニングするコースを決めようか。毎日同じ距離を走ったほうがいいと思うし』
『ではまずは鍛練場所を決めましょう。でもこの街にありますか?』
『うーん、どうだろ。広場とか公園はあると思うんだけど。宿の近くがいいからそっちに歩きつつ探そうか』
この街の中は基本的には石畳のような道路になってるんだけど、たまに公園みたいな感じで自然あふれる広場があったり、冒険者ギルドの裏にある訓練場みたいに土剥き出しになってるところがあったりする。
だからそういうところを訓練場所に決めたい。本当なら街の外が一番いいのかもしれないけど、今はまだ危ないから。
『そういえばミルは神界での体と同じ能力にしたけど、魔力量とかどのぐらいなのか分かる?』
『どうなのでしょうか。かなり多いということは神界で確かめてみたので分かりますが……』
『もしかして、俺よりも多かったりするかな?』
『うーん、同じぐらいかもしれませんね』
『そっか〜』
ミルは俺と同じぐらいの魔力量があって、さらに身体能力も抜群ってことか。改めて心強いな。ミルってこの世界の魔物と戦ったらどこまで通用するんだろう。その辺も実際に戦ってみてかなぁ。
『外に出られるようになったらミルも魔物と戦って、どのぐらいの強さなのか確認しよう』
『はい! 楽しみです!』
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