第23話 お昼ご飯と家庭教師

 そうして入った家の中は結構広い作りだった。住み心地が良さそうでとても良い家だ。

 なんか、羨ましいな。そう思ってしまう。こういう家族の光景を見ると日本でのことを思い出すんだ。今までは考えないようにしてたけど……


 神界に戻ったらもっと眷属を作り出して大家族になろうかな。下界では家族を作れないというか、作っちゃいけないだろうし。

 別に規則でダメとかではないんだけど、そもそも俺は子供を作れないんだ。もしそれでもいいと言ってくれる女性を見つけて結婚して、さらに子供は孤児を引き取るとする。

 それでも十年もすれば俺が歳を取らないことを不思議に思われるだろう。そして二十年もすれば気味悪く思われるかもしれない。さらにその頃には子供の方が外見的には大人になるんだ。


 ……うん、やっぱり下界で家族を作るのは難しいな。神界に戻ったら、ミルの意見も聞いてもっと眷属を作り出そう。


「トーゴはここに座ってくれ」


 俺はイゴルさんにそう呼ばれたところで、思考の波から抜け出し現実に戻ってきた。深く考えすぎるのはやめようと思ってるのについ考えちゃうんだよな。

 もうやめよう、そして現実を楽しもう。


 イゴルさんに呼ばれたテーブルに向かうと、上には美味しそうなご飯が沢山並べられている。


「今日のお昼はスープとパンにサラダなの。野菜ばかりでごめんなさいね」

「いえ、凄く美味しそうです!」

「ふんっ、うちの野菜を使ってるんだから当たり前だ」

「あなた、いい加減やめなさい」

「だ、だがな……」


 イゴルさんのお父さんは、お母さんに怒られてたじたじだ。そういうところを見ると微笑ましいと思ってしまう。多分この人も悪い人じゃないのだ。


「ミルちゃんのご飯はここに置くわね」


 イゴルさんの奥さんがそう言って、床に台のようなものを置き、その上にミルの分のご飯を置いてくれた。

 ミルは瞳を輝かせて尻尾をぶんぶん振り、自分の分の食事を凝視している。ミルのその様子に全員が優しい笑顔を浮かべた。ミル凄いな、既に皆のアイドル的立ち位置だ。


「じゃあ食べようか。神に祝福を、糧に感謝を」

「神に祝福を、糧に感謝を」


 皆でお祈りをして食事開始だ。俺はまずサラダの器を持ち一口食べてみる。おおっ……このサラダめちゃくちゃ美味しい。野菜は瑞々しくて、さらに上にかかっているドレッシングが絶品だ。


「このサラダ凄く美味しいです。このドレッシングが絶品ですね」

「あら嬉しいわ。そのドレッシングは私の手作りなのよ」

「そうなんですか! これは売れるほどの味ですよ」

「そう? じゃあ野菜を卸すところにドレッシングも渡してみようかしら」

「ありだと思います」


 このドレッシング何で作られてるんだろう。凄く複雑な味なんだけど、それが上手くまとまっている。柑橘系の味とハーブ系の味はなんとなくわかるんだけど……、あとは予想できない。

 もし売りに出されてたら俺は買う。お金があれば……


 次にスープを一口食べてみた。スープにはたくさんの野菜が入っていて、さらにソーセージも入っている。肉の旨味と野菜の旨味で絶品スープだ。そしてそんなスープと一緒に食べるパンも美味しい。



 それから俺は夢中で昼食を食べた。本当に美味しくて大満足のご飯だった。ミルの方を見てみると、既に食べきっているようで口の周りを前脚で綺麗にしている。


 ……なんか猫みたいだな。それにミルの毛は汚れないから綺麗にする必要はないんだけど、そこは動物の習性なのかも。


『ミル、美味しかった?』


 そう話しかけると、ミルはバッと俺の方を向いて尻尾をパタパタと振った。


『凄く美味しかったです!』

『分かる。すでに明日の昼食が楽しみだよ』

『僕もです! 頑張って働きますね』

『ありがとう。期待してるよ』


 それからは少し食休みも兼ねて皆で談笑をして、その後はまた仕事に精を出した。そして午後二時に俺の仕事は終わりとなった。


「トーゴありがとう。一生懸命やってくれて本当に助かったよ。明日もまたよろしくね」

「はい。一ヶ月よろしくお願いします」

「ミルもまた明日」

「ワオンッ」

「ははっ、可愛いなぁ。子供達の世話をよろしくね」

「じゃあ、また明日の同じ時間に来ます」

「待ってるよ」


 そうして一日目の畑仕事を終えて、俺はまた街に戻るべく門に向かって歩き出した。


『ミル、お疲れ様』

『僕は楽しいだけでした。明日からはできればトーゴ様のお手伝いをしますね。爪を少し伸ばして硬くして虫を倒せます!』


 そういえばミルは爪の攻撃と水魔法と風魔法が使えるんだったな。でも白狼って魔法使えるのか……?

 確か……土魔法だった気がする。それだと魔法はあんまり使わない方が良いんだろうな。


 まあもしもの時は、白狼の突然変異ってことにするからいいんだけど。今でも普通の白狼とはちょっと違うだろうし。


『ミルの手が空いた時はお願いするよ』

『お任せください!』


 自信満々のミルが可愛い……


『野菜は傷つけないように気をつけて。あとは魔法もできれば使わないように。白狼は土魔法だったと思うんだ』

『分かりました。爪だけでお手伝いしますね』

『ありがとう。じゃあミル、次の仕事に行こうか』

『はい!』



 そうして俺とミルはまた街の中に戻り、今度はある宿屋に向かった。そこの宿屋が家庭教師の依頼を出してきたところなのだ。

 宿屋に着いてまずは驚いた。なぜならかなり大きく立派な作りで、お金持ちとかが泊まるような宿屋だったのだ。なんで冒険者に依頼を出したのか……もしかしてこの世界の冒険者ギルドって、家庭教師とかも登録するのかな?


 そう不思議に思いつつ、とりあえず正面のドアを叩いて声をかけた。


「すみません。依頼を受けた冒険者です」


 するとすぐにドアが開いて、初老ぐらいの男性が出てきた。


「ようこそいらっしゃいました。依頼を受けてくださりありがとうございます。どうぞ中へ」

「ありがとうございます。従魔もいるのですが、一緒に中へ入っても良いでしょうか?」

「もちろん構いませんよ。どうぞ」


 この世界、というよりもこの街って驚くほど従魔に寛容だよな。俺的にはありがたいんだけど少し不思議だ。昔に魔物使いが街を救ったとか、そういうことがあるのかな。


 宿に入ると中はかなりの広さだった。広い空間に座り心地の良いソファーと机が置いてあるホールは、宿泊客の休憩所だろうか? 奥にはカウンターがある。


「こちらで少々お待ちください」

「かしこまりました」


 男性にソファーを勧められたのでそこに座った。ミルも俺の隣にちょこんと座る。


『凄く大きくて綺麗な宿だなぁ』

『本当ですね。こんなところに泊まれたらいいですね』

『確かにそこまで稼げるようになりたいよ』

『……あのドアの向こうからいい匂いがするので、多分あちらが食堂ですね』

『そんなことわかるの!?』

『はい! 僕の鼻は凄くいいのです!』

『ふふっ、ミル凄いな』


 俺はミルを誉めるために横を向いて、ミルの頭をわしゃわしゃと撫でた。少し誇らしげに背筋を伸ばしているミルが可愛すぎる。


 そうしてミルと戯れあっていると、さっきの男性が十歳前後に見える女の子と、三十代ぐらいに見える男の人を連れてきた。

 あの女の子に授業をするのかな。男性はお父さんだろうか?

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