第22話 畑仕事
「じゃあトーゴ、こっちに来てくれる? 見苦しいところを見せてごめんね。父さんのことは気にしなくていいから」
「はい! あっ、ミルはどうすればいいでしょうか?」
ミルは今や子供達に大人気で、三人の子供達に撫でられている。
「もし良ければなんだけど、子供達と遊んでいてくれるとありがたいかな。一番上の子は手伝ってくれるんだけど、下の子達はまだ仕事はできないんだ」
「わかりました。じゃあミル、ミルは子供達と遊んでて」
俺は他の皆にもその指示が聞こえるように、わざと声に出してそう告げた。するとミルは「ワオンッ」って犬のような狼のような声で返事をしてくれた。ミルの鳴き声初めて聞いたな。
「これで大丈夫です」
「本当に懐いてるんだね。凄いよ」
「ミルとは小さな頃からの友達なので」
「やっぱり小さい頃からだと違うんだね。じゃあこっちに来て」
「はい!」
俺はイゴルさんに畑の奥の方に呼ばれたので、それを追いかけつつミルに念話で話しかける。
『ミル、子供達のお世話を頼んじゃってごめん。何かあったらすぐ呼んで』
『かしこまりました。私も楽しいので大丈夫です』
『そっか、それなら良かったよ』
そういえばミルって、生まれてからまだ数ヶ月なんだよな。俺の眷属だから子供だとか大人だとかそういうのは考えたことなかったけど、まだまだ子供で遊びたいお年頃なのかもしれない、
「トーゴ、ここだよ」
そんなことを考えていたら目的の場所に着いたようで、俺は一旦思考を止めて仕事に集中することにした。
「これから一ヶ月間、トーゴにやってほしいのは草むしりと虫の除去なんだ。ほら見て、野菜の下に結構草が生えてきてるでしょう? これを全部綺麗にしてほしい。あとは葉に付いた虫を取り除いてほしいんだ。……ほら、ここに青虫がいるのが見える?」
イゴルさんはそう言って野菜の葉を指差した。そこをじっと見てみると……確かに大きめの芋虫がいる。うん、気持ち悪い。
「こういうやつを取り除いて欲しいんだ。それからほら、この葉の裏を見て。これは虫の卵なんだけど、こういう葉は葉ごと取り除いてくれて構わないよ。取り除いた虫は基本的には殺して、卵がついた葉は後で燃やすから一箇所に集めておいて欲しい」
「分かりました。虫の除去と草むしりですね」
「うん、こっちの端から頼むよ。他に仕事を頼む時はその都度呼ぶから、その時はまた説明する」
「分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
イゴルさんはそう言って俺に説明をすると、足早に畑の別の場所へ向かっていった。結構忙しそうだな。
よしっ、頑張ろう!
俺は気合を入れて畑の野菜と野菜の間にある細い道に座り込み、まずは草むしりをすることにした。結構草が生えているのでこれを全部むしるだけでも大変だ。しかも体勢的に腰が痛くなりそう。
――それから数時間、俺はひたすら草むしりをして目についた虫を捕殺していった。最初は気持ち悪かった虫にももう慣れた。やっぱり人間って環境に適応するし、切羽詰まるとどんな仕事でもできるんだな。
そんなことを自分の世界で実感する神様。うん、考えると悲しくなる。
うぅ……腰が痛くなっていた。俺は流石にずっとしゃがみっぱなしで疲れてきたので、一度立ち上がり大きく伸びをした。そして空を見上げて息を吸い込む。
この広い世界の中で俺はちっぽけな存在だな……空を見上げているとそう思う。
この空の向こうに神界があるのだろうか。いや、この空の向こうには宇宙があるんだ。神界はなんていうんだろう、また宇宙とは別次元に存在してる感じなんだ。俺は実態を知っているからロマンチックなことを考えることもできない。
だからもし俺がここで頑張ってロケットを作ったとしても、神界には行けない。俺が作った宇宙の星達が目に入るだけ。
そう、神が作るのってその星一つだけじゃないんだよ。その星が属する太陽系を全て作るんだ。中心が太陽じゃない場合は太陽系って言わないのかもしれないけど、俺の場合は太陽しか知識にないので太陽系にした。
だからこの星の外である宇宙にも太陽があって月がある。それ以外にも小さな星とも言えないものがいくつもある。本当は他にもいろんな星を作れるからそれはこれからやろうと思ってたんだけど、それも後回しになっちゃったな。
地球があった太陽系では他の星には生命体がほとんどいなかったけど、俺の太陽系では他の星にも人間のような生命体が生まれるようにして、宇宙間貿易とかできたら楽しそうだって思ってたんだ。
……でもこうして下界に降りてみると、宇宙人なんて来たら恐怖でしかないよな。やっぱりやめておこうかなと思ったりもしている。
そんなことをつらつらと考えつつ腰を伸ばして少しだけ休憩していると、遠くからイゴルさんに呼びかけられた。
「トーゴ、そろそろお昼になるよ! こっちに来て〜」
「はーい! 今行きます〜」
イゴルさんの方を振り返ると、もう皆畑から出て家の前に集まっていた。ミルもちゃっかりその中にいる。完全にこの家族に溶け込んでるな。
俺はその光景見て少しの寂しさを感じ、足早に畑から出て家の方に向かった。
「トーゴお疲れ。そこの井戸で水を汲んで手を洗ってから家に入ってね。魔道給水器がなくてごめんね」
「分かりました。でも俺はウォーターを使えるので大丈夫です。自分で洗います」
「それは便利でいいね」
「そうなんです。凄くありがたいです」
「僕は魔法が使えなくてね。妻が火魔法を使えるんだ」
「火も便利ですね」
「火をおこす必要がないから凄く助かるよ」
やっぱり魔法って便利だよな。三割程度の人が魔法を使えるようにしてあるし、魔石を使って魔道具も作れるようにしたから、生活の中に上手く魔法と魔道具が溶け込んで便利になってる感じだ。
『ミル、お疲れ様』
俺は子供達が手を洗いに行っているので、暇になったミルに念話で話しかけた。
『トーゴ様こそお疲れ様です! お疲れですか?』
『ううん、大丈夫。これからも頑張るよ』
『無理は禁物ですよ』
ミルは少しだけ心配そうな表情をして、さらに尻尾を垂らしてそう言った。……可愛い。
『無理はしないよ。ちゃんと気をつける』
『僕もお手伝いするので言ってください』
『うん、頼もしいよ。ありがとう』
俺はミルの頭を撫でて、ミルと共にイゴルさんの家に向かった。
「イゴルさん。ミルも入って大丈夫ですか?」
「勿論だよ。妻がミルの分もお昼を準備してるみたいだから沢山食べてくれ」
「え、ミルの分までいいんですか!?」
「ミルも働いてくれたからね」
「ありがとうございます……!」
凄くありがたい。ミルの分がもらえなかったら俺のを分けようと思ってたんだ。
『ミル、お腹いっぱい食べられるよ!』
『嬉しいです!』
「ミルちゃん。いっしょにおうち行こう?」
「僕のおとなりね!」
「違う。俺の隣だ」
「え〜、にいちゃんより僕の方が仲いいもん」
俺がミルと共に家の中に入ろうとしたら、後ろから来た子供達にミルを連れて行かれてしまった。仲良くなったのは嬉しいけど、ちょっと俺は寂しいよ……
「ははっ、あいつらよほどミルが気に入ったみたいだね。トーゴ、僕たちも中に行こうか」
「仲良くなってくれて良かったです。ではお邪魔します」
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