第78話 情報収集
リタさんもそうだったけど、冒険者ギルドの受付にいる人達って有能な人が多いよな。俺はそんなことを考えながら、笑みを浮かべて挨拶を返した。
「おはようございます。お陰様でとても良い宿に泊まることができました。昨日はありがとうございました」
「それは良かったです。昨日は忙しい時間帯で自己紹介ができませんでしたが、モニカと申します。これからよろしくお願いいたします」
この人はモニカさんって言うのか……これからこの街にはしばらく滞在するのだし、できる限り仲良くなりたいな。
「本日はさっそく依頼を受けられるのでしょうか?」
「いえ、今日はダンジョンについての情報を得たくて来たのですが、こちらで聞いても良いのでしょうか?」
「もちろんです」
モニカさんは笑顔で頷くと、一枚の紙を手渡してくれた。
「こちらはダンジョン内の依頼を初めて受注した冒険者に無料で配布しているものなのですが、ダンジョンでの基本ルールがまとめられています。まずはこちらをご覧ください」
皆でその紙を覗き込んで内容を確認すると、重要なことがいくつか書かれていた。
「ダンジョンって最後のボスを倒すと入り口まで転移? ってやつで戻れるんだな。なんかよく分かんないけど凄そうだ!」
「宝箱は中身を取り出すと消えちゃうんだ……出現場所は完全にランダムだけど、奥まったところに出現しやすいって。見つけるのも楽しそうだね!」
フロアボスまでいるのか……このダンジョンは基本的に五階層ずつ中の環境が変わるらしいけど、その環境ごとにそこに住む魔物達の頂点に位置する存在、いわゆるフロアボスと言われる魔物がいるらしい。
運が良ければ出会わずに通り抜けられるけど、出会った時に逃げるのは難しいそうだ。それほどに強い魔物ってことなんだろう。ただ倒すメリットもあるらしく、倒すと必ずボーナスの宝箱が貰えるらしい。
それはちょっと倒してみたいな……倒しても数十分でまたどこかにフロアボスが産まれるか、そのフロアで二番目に強かったやつが繰り上がってフロアボスになるらしいので、ボーナスが良いものだったら、ボスを探して倒すのもありかもしれない。
「ここのダンジョンって何階まであるのですか?」
「全部で地下に三十階です。それぞれの階の広さは地上に近いほど狭く、地下に近いほど広がっています。隅々まで探索をして進むと、一ヶ月以上はクリアまでに時間がかかるのが普通です」
そうなのか……それはかなり広いな。俺はモニカさんの説明を聞きながら、頭の中にマップを開いてダンジョン内の様子を確認した。
確かに三十階なんてかなり広い構造だ。端から端まで歩くだけで二日ぐらいはかかりそう。やっぱりダンジョンって面白いな。
「アーネストのダンジョンは何度もクリアされていますので、三十階までの地図も売っておりますがいかがいたしますか?」
「そうなんですね。トーゴ、どうする?」
ミレイアが悩むように俺に問いかけた。俺のマップがあるから、いらないんじゃないかと思ったのだろう。確かに必要はないんだけど……マップを比べるのも面白そうだし、ここは買ってみようかな。
「全階層の地図が欲しいです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
モニカさんが裏に下がったのを見届けて、ミレイアとウィリーが小声で声をかけてくる。
「トーゴの能力があるのに必要か?」
「特に必要ないと思う。でも比べるのも楽しそうじゃない?」
「ふふっ、そういうことだったんだ。確かに楽しそうだね」
「お金には余裕があるし、少しは楽しもうよ」
俺のその言葉に二人が頷いたところで、モニカさんが数枚の紙を持って戻ってきた。受け取ると、一枚の紙に何階層分も描かれているらしい。俺のマップを見たからこその感想だけど……かなり大雑把な地図だな。
多分手書きで量産してるのだろう。正確性というよりも、広いフロアのどの辺に宝箱が出やすくて、どの辺にどの種類の魔物が生息していて、そして階段の場所はどこなのか。そういう最低限の情報が分かれば良いという感じの作りになっている。
「全部まとめて購入していただけますと金貨一枚です。それぞれのご購入ですと、地図が一枚で銀貨三枚となります。いかがいたしますか?」
「まとめて買います」
「ありがとうございます。では金貨一枚です」
この地図に金貨一枚は高い気がしちゃうけど、本の値段などを考えると妥当なんだろう。こんなマップでも、あるのとないのとじゃ安全性が段違いに変わるのだろうし。
「一つ大切な注意事項ですが、狭い階段などではすれ違えない場所もございます。そういう場合は地上に向かっている人達が優先となりますので、ご了承ください」
「分かりました。気を付けます」
そんな決まりもあるんだな。確かにかなりの人数がダンジョン内にいたら、地上に戻る人達と下層に下る人達が頻繁にすれ違うことになるんだろう。
「ダンジョンに関する説明はこれぐらいになりますが、他にお聞きになりたいことはございますか?」
「そうですね……とりあえずダンジョンに入ってみて、また何かありましたら聞きにきます。その時はよろしくお願いします」
「かしこまりました。いつでも聞きにいらしてください」
フロアボスがどんな魔物なのかとか、色々と気になることはある。でも今一気に聞いても覚えられないし、攻略しながらが一番だろう。
あとはこの街の本屋に行けばダンジョンの情報をまとめた本が必ずあるはずだから、それを買いたいな。
そうして情報収集をした俺達は、まだお昼には早い時間だったので、冒険者ギルド内にある食堂のテーブルに腰掛けた。それぞれ飲み物だけを頼んで、これからのことやダンジョンについて話し合う。
「さっきの地図だけど、すげぇ微妙じゃなかったか?」
ウィリーが席に着いた途端、俺達にしか聞こえない声音でそう言った。俺とミレイアはそれに苦笑いだ。俺のマップはウィンドウとして表示すれば誰でも見ることができるから、もちろんウィリーやミレイアは頻繁にマップを目にしている。だからこそ比べてしまったのだろう。
神様チートのマップと比べるのはさすがに可哀想だ。
『そんなに酷い地図だったのですか?』
『そうなんだよ。ちょっと待って、ミルにも見せるから』
さっきはカウンターの上に地図が置かれていたので、ミルは見れなかったのだ。俺は周りの人達に不審に思われないよう、何気なく地図を持って手を下ろした。
『見える?』
『はい。ありがとうございます。……確かにこれは、地図と言えるのか疑問ですね』
ミルも皆と同じ感想みたいだ。おすわりして苦笑を浮かべ、俺の顔を見上げている。
「ミルちゃん、何か言ってるの?」
「地図が微妙だって」
「やっぱり誰が見てもそう思うよな。だけどさ、魔物の種類とかは役立つんじゃないのか?」
「確かにそうかも。俺のマップは魔物の種類までは分からないから」
マップに映るのは生物以外が全てと、生物は一キロの範囲内で色での表示だけだ。
「でも魔物については、このダンジョンで出現する魔物一覧とか、本屋で買おうと思ってるんだ。魔物の名前だけじゃなくて特徴も知りたいから」
「確かに必要だね。じゃあ午後に本屋も行こうか」
「うん。そうしよう」
「じゃあ早いけどそろそろ屋台に行かないか? お腹空いてきたぜ」
ウィリーがお腹を撫でながら発した言葉に皆が苦笑を浮かべつつ同意し、俺達はジュースを飲み干して席を立った。
〜あとがき〜
今日で毎日投稿は終了となります。今週からは火、木、土の週三投稿になりますので、よろしくお願いいたします。
いつも私の小説を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
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蒼井美紗
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