第50話 冒険者登録とパーティー申請
「ちょっと色々あって知り合いまして、一緒に冒険者をすることにしたんです。ミルも懐いているので。危険がないように弱い魔物から戦いに慣れていく予定なので、大丈夫ですよ」
「そうだったのですね。かしこまりました」
リタさんはミルを見て一瞬だけ羨ましそうな表情を浮かべたけれど、すぐにそれを消し去った。そしていつもの完璧な受付嬢の顔で俺に向き直る。
「パーティーを作られますか?」
「二人でやるなら作った方が良いですしょうか?」
「その方が良いと思われます。ミレイアさんはとても可愛らしい方ですし、もしパーティーに所属していないとなると、勧誘が凄いことになるかと……」
確かにそうなるか。女性の冒険者はいるけど、殆どがムキムキマッチョな女性だ。ミレイアは華奢で小柄で可愛くて……絶対に冒険者の餌食になるな。肉食動物の中に放り込まれた小動物ぐらい危なそうだ。
ミレイアには、危険だから一人でギルドに行くのは止めた方が良いって言っておこうかな……まずはとにかくパーティーを作って少しでも危険を減らそう。
「パーティーを作りたいです」
「かしこまりました。ではこちらの申請書に記入いただけますか? パーティー名は必ずお決めください。その名前をパーティーカードに記しますので」
「パーティーカードとはなんでしょうか?」
「冒険者ギルドカードと似たもので、パーティーの名前と登録した国と街の名前、それからメンバーの名前が記されます。拠点の街を移された場合、移動先の冒険者ギルドでそのカードを提示していただくことになります」
そんなカードまであるんだ。情報伝達が発達してない代わりに、色々考えられてるよな。
「そんなものがあったのですね。では真剣に名前を考えようと思います」
確かマテオ達は夜の星って名前だったはず。俺もそんな感じでかっこいい名前をつけたい。うーん……悩む。
ダンジョン制覇を目指すし強そうな名前がいいかな。例えば勇者とか剣豪の名前を入れるとか? 神を入れるのはダメだろうし……
ミルの白をとって白の勇者とか? いや、これはダメだな。じゃあマテオ達のを真似して朝日の太陽とか? 流石にダサすぎるかも……
――あぁ、ダメだ! 俺ってこういうセンスは全くないんだよね。ミレイアにも聞こう。
「ミレイア、俺達のパーティー名はなにが良いと思う?」
「うーん……パーティーって冒険者のグループみたいなやつだよね?」
「そう。そのグループに自分で名前をつけるんだって。俺の知り合いだと夜の星って名前のパーティーがあるよ」
「夜の星か……うーん、そうだね。光の化身とか?」
ミレイアが何気なく口にしたその言葉に、オレは内心肝を冷やした。だって化身って神の下界での仮の姿とかって意味だよな? もしかして、俺の正体バレてる……?
いや、流石にそんなことはあり得ないはずだと思うけど……。そうしてかなり狼狽えつつも、俺は何とか平常心を装い口を開いた。
「何で、その名前にしたの……?」
「私にとってトーゴは神様みたいに凄くて、さらに暗い場所にいた私を照らしてくれた光だから。だから光の化身はどうかなって思ったの。あっ、光の桜華っていうのもいいかな? 化身だとなんか堅苦しいし、桜華って可愛いよね!」
……なんだ、気づかれてるんじゃなかったのか。俺はその事実に安堵してホッと息を吐き出した。
別に神だと知られるのが嫌なわけではないんだけど、今の段階でもし俺が神だと分かるのならば、それはあの邪神の手の者である可能性が高いだろう。だから俺の正体を見破れるやつは警戒しなければならない。
ミレイアは違うみたいで良かった……
「桜華って、華やかに花が咲いてる感じ?」
「そう! これから先のパーティーが花が咲くように華々しく、光を放つように神々しく活躍しますようにって意味。結構良いんじゃない!?」
うん、俺よりセンスがあることは確かだ。もうミレイアに任せよう。
「凄く良いと思う。ミレイアに任せるけど光の桜華にする? また別のを考えても良いけど」
「うーん……光の桜華にする! こういうのはパッと思い浮かんだやつが一番良かったりするからね」
「確かに。じゃあそう書くよ」
そうして俺はパーティーの申請書にパーティー名やメンバーなど全ての項目を埋めて、それをリタさんに渡した。その間にミレイアも書き終わったみたいで、登録用紙をリタさんに渡している。
「ありがとうございます。では少々お待ちください」
リタさんはそう言って後ろに下がっていった。するとミレイアが途端に心配そうな表情を浮かべて俺の方を向く。
「ねぇトーゴ。登録料本当に払ってもらっても良いの? パーティーを作るのにもお金かかるんでしょ?」
「うん。そのぐらい全然良いよ」
「でも……」
冒険者登録料金である銀貨一枚とパーティー作成にかかる費用銀貨一枚。そんなに高くないから俺が払うって言ったんだけど、ミレイアはそれが納得できないみたいなんだ。
でも確かに、俺だってマテオ達に払ってもらって申し訳ないと思ったか……
「冒険者として稼げるようになったら、返してもらえれば良いよ。それならどう?」
「……うん。それなら、ありがたく今は払ってもらう」
「じゃあそういうことにしよう。あっ、後はミレイアの武器が決まったら初心者用のやつを買うから、それも一度は俺が払うよ」
ミレイアはお金を持っていないみたいだし、話を聞いてると実家もあまり裕福じゃないみたいなんだ。だからこのままいくと、最初に俺がやっていたような街中の依頼をこなしてお金を貯めて、頑張って武器を買うことになるだろう。
それを待つのはちょっと時間が惜しいので、俺が払ってしまいたい。そしてできるだけ早く装備を整えて、どんどん依頼をこなして冒険者ランクを上げたい。
「……トーゴ、本当にありがとう」
「気にしなくて良いよ。これから仲間になるんだし」
「そっか……仲間。なんか仲間って良いね!」
ミレイアはとても嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に俺も何だか嬉しくなる。仲間って心が温かくなる響きだ。
「これからは三人で頑張ろう」
「ミルちゃんも入れて三人だね!」
『僕も仲間ですか!?』
『もちろんだよ。ミルは俺の仲間であり家族だからね』
『トーゴ様の家族……えへへ、えへへへへ』
ミルが家族って言葉を聞いて予想以上に嬉しそうだ。でもその笑い方はちょっと気持ち悪いから止めようか。
「ミルちゃんと話してるの?」
ミレイアに小声でそう聞かれた。
「そう。ミルも仲間ってことに喜んでる」
「良かった。私もミルちゃんと念話ができたら良いのに……」
「それは難しいから……周りに人がいない時にたくさん話してあげて」
「それはもちろん! ミルちゃん、これからはずっと仲間だよ〜」
ミレイアはミルの前にしゃがみ込んで、頭を優しく撫でながらそう言った。ミルはその言葉が嬉しいみたいで、尻尾がぶんぶんと激しく振られている。
俺はその様子を見て思わず笑ってしまった。ミルは感情が表に出過ぎていて、話せなくても何を言いたいのか丸わかりだ。
「わぅん」
「返事してくれたの!? 可愛いなぁ〜」
ミレイアはミルにメロメロだ。どんな悪者でもミルと触れ合ったら素直になっちゃうんじゃないかと思うほど、ミルの癒し効果が凄い。ミルセラピーとか流行るかな?
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