第5話 世界の創造

 そうしてミルと広場作りに熱中し、作り終えたところでまた最初の家に戻ってきた。リビングのソファに座り、お茶を作り出して休憩だ。家はミルが入れるように全体的にサイズを大きくした。ミル用のソファとベッドももちろん作った。


 それにしても、神界に来てからどれほどの時間が経ったんだろう……この世界は朝も夜もないみたいだし、天気も変わらなそうだし、俺はお腹も空かないし眠くもならないし時間が全くわからない。

 そう考えると、今は楽しいけどいずれここにいるのが苦痛になるのかな? それで邪神になるとか?



 そこまで考えて、俺は頭をぶんぶんと横に振りその怖い思考を振り払った。今からそんなこと考えても意味ないし、これからもっと神界を楽しめばいいんだ!


 とりあえず時間がわからないことを解決しよう。この世界には暦なんてないだろうし、俺が作り出してもいいだろう。

 今現在が一月一日の午前零時ってことにする。そして時間の進み方は日本と完全に同じにする! そう念じて、ウインドウに時間とカレンダーが表示されるようにイメージした。するとすぐに成功したようだ。


 今は一月一日の午前零時、神界暦一年となっている。これなら俺がここに来てどれほど時間が経ったのかわかるし便利だろう。

 一応、夜は眠れなくても寝室に行くことにしようかな。規則正しい生活は多分重要なはずだ。寝ようと思えば寝られるはずだし。


 よしっ、時間のことが解決したところで遂にやるべきこと最後の一つをやろうかな。最後の一つは世界を作ることだ!

 実は『神界のルール』のほとんどのページは、世界を作ることについてなのだ。これはかなり大変だと思うけど、自分で世界を作れるなんてもう最高にワクワクする。

 俺はうきうきとした気持ちで、ウインドウにある『世界の創造』をタップした。世界を作るのもウインドウでできたら便利だなと思ったら、それが実現できたのだ。

 

 タップするとまずは世界の大きさを選んでくださいという文言が現れ、その下に幾つか選択肢が表示される。

 選択肢は三つだ。地球の半分ほどの大きさ、地球と同じぐらいの大きさ、地球の倍ぐらいの大きさの三つが選べる。全て等しく消費神力は二億みたいだ。うん、神力の消費が一気に激しい。これは慎重にしないと。


 でも大きさなんてどれがいいのか判断できないよな……ここは地球と同じ大きさにしておく? いや、どうせなら大きくしようかな。大きい方が色々カスタマイズできて楽しいかもしれないし。

 そう考えて、地球の倍の大きさを選択した。


 そして世界の大きさを選択すると、次に主要な成分を選んでくださいという文言が表示された。待って……、全く聞き覚えのない成分が何百何千と羅列されてるんだけど。

 こんなの選ぶの無理でしょ!

 そう思って神界のルールを見てみると、それぞれの成分がどんな作用をするかが詳細に書かれていた。



 ――そのページを読み進めること一週間、俺はギブアップした。これは無理だ。理解するのは無理!


「ミル〜。疲れたぁ〜」

「トーゴ様! どうされましたか?」


 俺がミルを呼ぶと、外で走り回って遊んでいたミルが凄い勢いで駆けてきてくれた。ミルは最近ご主人様呼びを卒業して、トーゴ様呼びになったのだ。こっちの方が仲良い感じがして嬉しい。


「大変すぎる。世界の成分なんて選べるわけないよ〜」


 俺がミルのもふもふな首元にギュッと抱きつきながらそう言うと、ミルは尻尾をぶんぶん振りながら答えてくれた。


「気分転換に僕の背中に乗って走り回りますか!」


 ミルは俺を背中に乗せて走り回るのにハマってるみたいで、ことあるごとに俺を乗せたがるのだ。俺にとっても乗り心地はいいし、風を切るのは気持ち良いからいいんだけど。


「それもいいんだけど、今はミルをもふもふしてたいな。小さくなってくれる?」

「はい!」


 俺がそう言うとミルはすぐに体の大きさを変え、小型犬サイズになってくれた。


「おいで」


 両手を広げると俺の胸に飛び込んでくる。そして顔をぺろぺろ舐めて尻尾をはち切れんばかりに振っている。

 本当に可愛いよな、こいつ。可愛すぎる。


「ミルは可愛いなぁ〜」


 そうしてミルのもふもふを堪能して癒されたところで、問題を直視することにした。


 世界の成分を全て理解できるまで学び続けるか、適当に組み合わせて作っちゃうか。どっちがいいかな。

 時間はいくらでもあるんだから前者がいいんだろうけど、あれを全て理解するの大変すぎる……正直面倒くさい。


「もう良い感じの世界を何個か作って、選択形式にしてくれたらいいのに!」


 俺が思わずそう叫んだら、ウインドウが変わって世界創造のページが選択形式になった。


 ……これができるなら最初からしてくれ!!


 はぁ〜、でもありがたいから良いか。俺はそう割り切って選択肢をしっかりと見てみることにした。

 なになに、地球と同じようなつくりの世界。魔力がある世界。海だけの世界。重力がない世界。地面がない世界。光のない世界。空気のない世界。


 ……そんな感じで、俺の知識に基づいたいくつもの世界が選択肢として現れていた。数十個もの選択肢がある。

 興味を惹かれるものは沢山あるけど……、ここはやっぱり魔力のある世界だよね! 

 多分俺が考えるようなゲームや小説の中の世界になっているのだろう。考えただけでわくわくする。


 俺はわくわくする気持ちで顔が緩むのをそのままに、魔力がある世界をタップした。



 ――それからは、時間にして一月ほどかけてじっくりと世界を作り上げた。

 結構細かい設定も決めることができて、面白いものをいくつも作った。一番こだわったのは食べ物だ。やっぱり俺が下界に降りることを考えたら、日本と同じような食べ物が欲しいからね。

 さらにゲーム要素も追加してダンジョンを作ったり、魔物も生み出した。でもちゃんと人間が生き残っていけるように調節はしてある。大陸もいくつも作って、魔法も細かく設定した。

 途中で大変過ぎて適当に選択肢で選んだところもあるけど、それでもいくつもの途方もない設定を決めて、遂にやっと、やっと今日、世界が完成した!!


 今俺の目の前のウインドウに書いてある言葉。『世界創造開始』をタップすれば世界が作り始められるらしい。

 よしっ! 俺は気合を入れて大きく息を吐き、期待を胸にそのボタンをタップした。


 すると何も見えなくなるほど辺りが光り輝き……ということはなく、特に何も変化はなかった。

 しかしウインドウに世界を覗くという項目が追加されている。それを押してみると、ウインドウのさらに上にもう一つのウインドウが作り出され、そこにどこかの様子が映し出された。

 まだほとんど何もないみたいだけど、暗い中にぐるぐると何かが回っている様子だ。これが星を作るのかな。なんか楽しい!


 俺はそれから数日、ずっと世界が作られるのを眺めていた。しかし数日経っても一切変化がない。よく考えてみたら星ができるまでなんて途方もない時間がかかるのだろうから、それも当たり前なんだろう。

 俺はここで待ちきれなくなり、神力を使って早送りをすることにした。

 

 世界創造にはかなりの時間がかかるけど、神力を消費すれば早送りができるのだ。だから神力を使って人間の国がちゃんとできるまで早送りしようと思う。

 そうして数ヶ月かけて最大限までスピードを早め、人間が生まれて国を作り、生活水準が一定の所まで上がったところで早送りを停止した。


 俺は基本的な設定は考えられるけど、それを人類がどんなふうに利用して発展していくのかには全く関与できない。なのでもうどんな世界になっているのかは想像もつかない。


 どうしよう、今ここで世界を覗いてウインドウ越しに世界を見てしまうか、それとも下界に降りて自分の目で見て楽しむか。どっちが良いだろう、かなり悩む。


 ――うーん、でもやっぱり、自分の目で見て楽しみたいかな。


 俺はそう結論づけて、自分の世界がどうなっているのかを確認することなく下界に降りることに決めた。

 ウインドウから下界に降りるための方法を神界のルールから探し出す。それによると、下界へは依代を作ってそれに入り降りること。下界では不老ではあるけど不死ではないこと。下界では神力は使えないこと。下界での能力は事前に依代を作る際に決めておくこと。

 そのようなことがつらつらと書かれていた。そして一番重要なことの項目に、神石を必ず持っていくことと書かれている。


 神石を持っていかなかったら、神界に戻ることができなくなるらしい。なんでも下界から神界に戻る時は、神石が神台に戻るのに付随して自分も戻るらしいのだ。

 あらかじめ神石が神界に戻る条件を決めておくことも必要みたい。何がいいかな……。わかりやすく、二回神石を叩いた後に神界に戻ると唱える、それでいいかな。うん、簡単で覚えやすいからいいだろう。


 そうして神石の設定もして自分の依代も作り出して、俺は下界に行く準備を整えた。


「ミル、俺は下界を見てくるけど一緒に行く? 今回は数日で戻ってくる予定だけど……」

「もちろん一緒に行きます!」

「ふふっ、ありがとう。じゃあミルの依代も作らないと」


 そうして俺はミルの依代も作り出し、ミルと共に自分で作った世界に降り立った。




〜あとがき〜

いつも私の小説を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。応援コメントやレビューなどとても励みになっています。

面白いと思ってくださいましたら、ぜひ星での評価などをよろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る