第20話 荷運び

 次の日の朝。

 俺は朝六時の鐘で目が覚めて、すぐに支度をして食堂に向かった。今日からは朝早くに冒険者ギルドへ行き、午前中で仕事をしなければいけない。


『ちょっと眠いな』

『ふわぁ……眠いですね』


 ミルとそんな気の抜けた会話をしながら食堂に降りていくと、ちょうどマテオ達も食堂に来たところだった。


「皆おはよ〜」

「トーゴ、今日は朝早いんだな」

「うん。今日からは朝早くに冒険者ギルドに行って依頼を受けるんだ」


 そんな話をしながら皆で厨房に朝食を取りに行く。


「ホセ、朝食を頼む」

「今ちょうどできたとこだ。ほれ、持ってけ」


 今日の朝食はスープとパンにチキンステーキみたいだ。めちゃくちゃ美味しそう。


「ホセありがとう。美味しそうだよ」

「おう。こっちはミルの分だ」

「ありがと」


 そうして皆で朝食を貰い、食堂に戻った。


「神に祝福を、糧に感謝を」


 お祈りをして朝食開始だ。


「トーゴは昨日初心者講習を受けたんだよな? どうだったんだ?」

「確か戦い方の講習だったっけか?」

「そうだよ」

「武器は決めたか?」

「それが……筋力がなさすぎてどの武器もダメだったんだ。だからまずは一ヶ月体を作って、それからまた武器を選びに来いだって」


 俺が少し落ち込んだようにそう言うと、三人は納得の表情を浮かべた。そこで納得しないで!


「まあ確かにな、トーゴは細いというか何というか……」

「ぶっちゃけ弱そうだもんな」


 うぅ……そんなのわかってるよ。確かに筋肉なんて全然ついてないし。でもこれからだから!


「これから強くなって、皆なんかすぐに追い越すから!」

「おう、そりゃあ楽しみだぜ」

「そういえば、三人って冒険者ランクいくつなの?」

「俺達か? 俺達は全員Dランクだ」


 ……それって、凄いのかな?


「何だよトーゴ。微妙って顔だな」

「いや、違うんだ。どのぐらいだと凄いのかわからないから」

「そうだな。一般的にはDランクで一人前と言われている。Cまで行ければベテラン。Bは天才。A以上は異次元って感じだな」


 そんな感じなんだ。じゃあDランクは……うん、まあ、普通?


「今Dランクそこまで凄くないじゃんって思っただろ」


 横に座っていたパブロにジト目でそう言われて、ガシッと肩を組まれたと思ったら頭をぐりぐりされた。


「ちょっ、ちょっと、パブロ!」

「はははっ、そんなこと考えたやつはこうしてやる!」

「ごめん、ごめんって!」

「でもそこまで凄くないのは事実だ」


 ポツリとそう呟いたのはサージ。マテオはその言葉に苦笑いだ。


「まあそうだけどよ……」

「Cランクに上がるのは難しいの?」

「ああ、冒険者の中で圧倒的に数が多いのがDランクだ。それ以上に上がるには余程ずば抜けた能力があったりじゃないと難しいな。ただDランクで燻ってても十年ほど腐らずに頑張れば、長年真面目に働いたからってことでCにはいける。ただそこまでだな」


 冒険者も結構大変なんだな……


「まあ無理して死んじまったら元も子もねぇからな。無理は禁物だ。トーゴ、お前も気をつけるんだぞ」

「うん。ちゃんと気をつけるよ。体を作って武器を持てるようになるまでは街中の依頼をするから」

「それがいいな」



 そうして皆と楽しく朝食を食べて冒険者ギルドに向かった。ギルドについたら別行動だ。皆はDランクの依頼のところへ。俺はFランクだ。


 さて、何かいい依頼があるかな。朝だから昨日よりは依頼の量が多い。体が作れるように体力が必要で、かつ報酬が高いといいんだけど……

 そう思って依頼を眺めていると、ある肉屋からの依頼が目に入った。肉の配達の仕事で配達が終わり次第仕事は終了、銅貨八枚だ。Fランクにしては依頼料が高いし、荷運びなら重いものを運ぶし歩き回るしいいんじゃないかな。


『ミル、肉屋の荷運びの仕事なんだけどどう思う?』

『いいと思います』

『じゃあこれにしようか』


 俺はその依頼票を受付に持っていき、手続きをした。今日の朝はリタさんがいなかったので別の男性だ。

 そして早速依頼を出した肉屋に向かう。その肉屋は結構大きな店舗だった。


「依頼を受けた冒険者でーす」


 肉屋のドアを叩きながら呼びかけると、すぐに中から男性が顔を出してくれた。少し太り気味で中年の男性だ。


「おおっ、今日は依頼を受けてくれた奴がいたのか。ありがとよ! 誰も依頼を受けてくれねぇと店を閉めて配達しなきゃなんねぇからな」

「そうなんですね。従業員を雇ったりしないんですか?」

「正式に雇うとなると高くてな。店を閉めて俺が配達するのと比べてよ、ちょっとだけ雇った方が損なんだ。困っちまうよなぁ……。もっと馬鹿みたいに売れるか、安く雇えたらいいんだけどよ。そこで冒険者ギルドに依頼出すのが一番なんだ。まだ登録したての坊主とかが結構やってくれるんだぜ」

「大変なんですね」


 正式に雇うより冒険者に依頼を出した方が安いのか。でも確かに、銅貨八枚って結構安い。


「そうなんだよ。それよりもそんな丁寧に喋んなくていいぜ。そっちは従魔か?」

「分かったよ。従魔でミルって言うんだ」

「へぇ〜可愛いやつだな。じゃあ中入れ、従魔も厨房の外までならいいぞ」

「ありがと」


 そうして店の中に案内され、大きな魔道冷蔵庫の前に連れて行かれた。ミルは店内で待機だ。


「今日の配達はここにある分なんだ。よろしく頼むぞ。配達には外に置いてある荷車を使ってくれ」


 そうして示された肉はかなりの量だった。魔道冷蔵庫の中にぎっしりと詰まっていて、肉が包まれた葉っぱみたいなやつにはどこまで配達するのかが書かれている。


「凄い量だ」

「ああ、結構大変だと思うが頑張ってくれや。肉はそこの木箱が綺麗になってるからそれに詰めて、その上から魔道冷蔵庫の一番下の棚にある氷を詰めて運んでくれ」


 魔道冷蔵庫の一番下の棚は冷凍庫になっているらしい。開けてみると大量の氷が詰まっている。


「そうだ。お前はこの辺の出身か? もし違うなら簡単な地図をやるけどどうする?」


 そういえば荷運びって、この辺り出身じゃなかったら相当大変だよな。道が全然わからないのだから。

 でも俺には唯一と言ってもいい神様チートがあるのだ。その名もマップ!


「道は覚えてるから大丈夫」

「そりゃあ良かった。じゃあ頼むぜ」


 おじさんはそう言ってお店のカウンターの方に戻っていった。よしっ、頑張るかな。

 俺は頭の中にマップを広げて、どんな道順で行くのか確認しながら木箱に肉を詰め始めた。


 実はこのマップ、目の前にタブレットみたいな感じで出現させることもできるけど、頭の中に開くことも可能なのだ。マップを他の人が見れるのかもわからないし、基本的には頭の中に広げて使おうと思っている。


 一番遠い場所から木箱に詰めていけば、一番上に一番近いお店が来るから肉を取り出しやすいよな。一番遠くは、この食堂だな。次はこの宿屋。次はこっちの食堂で……次はここの民家かな。


 そうして位置関係を確認しつつ木箱に詰めていく。最後に氷も詰めて完璧だ。木箱をお店の外にある荷車まで運んで準備完了。


「おじさん、準備終わったから行ってくる!」

「おう、よろしくな」

「はーい」

『ミル、行こうか』

『はい!』


 ミルと共に荷車を押しながら街中を進んでいく。うぅ、この荷車意外と力が必要だ。


『トーゴ様、大丈夫ですか?』

『うん、大丈夫……多分……』


 ふんぬぅ……ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ……


 街の中はずっと平らというわけでもないので、下り坂では荷車が暴走しないように、上り坂ではなんとか荷車を引っ張って目的地に向かった。これは相当疲れる、かなりの重労働だ。でも筋力と体力がつくのは間違いないな。

 アイテムボックスを使ったら楽なんだけど、それをしたら力がつかないから我慢だ。


 そうしていくつもの配達先を回り、ついに最後の食堂に辿り着いた。


「肉の配達でーす」


 俺が疲れ切った声で食堂の中に向かって呼びかけると、裏口が開いて人が出てきてくれた。


「お疲れ様。いつもありがとね〜」

「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます」

「あら、今日は随分礼儀正しい子が配達してるのね」

「ありがとうございます。ではカウの肉一キロです」


 カウの肉とはフォレストカウとはまた違って、普通に美味しい牛肉のことだ。フォレストカウが牛乳が取れる牛で、カウが肉が美味しい牛って感じだと思ってる。


「はい、ありがとう。またお願いね」

「かしこまりました!」



 そうして全ての配達を終えて俺とミルはまた肉屋まで戻った。


「戻ったよ〜」

「おう、結構早かったな! 初めてのやつは苦戦して相当時間かかるんだよ」

「頑張った。凄く大変だった……」

「ははっ、ありがとよ! じゃあサイン書くぜ」

「うん、ありがとう」

「もし良ければまた依頼受けてくれよな」


 俺はおじさんからサインをもらい肉屋を出た。時間はまだお昼前だけど、相当疲れたな。

 ……もう休みたい。

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