第19話 日用品購入

 俺とミルが冒険者ギルドに戻ると、ギルドの中は人でごった返していた。この時間が一番混んでるのかもな……

 俺はそんな人ごみを掻き分け仕事受付の列に並ぶ。仕事受付が二列に増えていたけど、俺はリタさんの方を選んだ。やっぱり仲良い人のところに行きたいのだ。決してリタさんが美人だからとかではない。


 そうしてしばらく列に並んで待っていると俺の番が来た。


「依頼を達成しましたのでお願いします。サインは書けないということでもらえませんでした」


 そう言って紙を渡すとリタさんがにこやかに受け取ってくれる。


「かしこまりました。早速依頼を受けられたのですね」

「はい。実は初心者講習をやったのですが、基礎体力がなくて武器は持てないと言われてしまって、しばらくは街中の依頼をやろうと思います」

「そうでしたか。街中の依頼もランクが上がるとやる人が少なくなりますから、やっていただけるのはありがたいです」

「では頑張りますね」

「ありがとうございます」


 そんな話をしながらも、リタさんは俺の受注記録にすらすらと記録していく。冒険者ギルドで働いてる人ってかなり有能だ。給料とかいいのかも。


「ではこちらが報酬となります。合っているかご確認ください」


 一、二……五。全部で銅貨五枚。合ってるな。


「はい。合っています」

「ではお納めください」

「ありがとうございます」

「またお仕事お願いいたします」


 そうして挨拶をして初めての依頼は終わった。手には銅貨五枚の重み。大金じゃないどころか宿に素泊まりで一泊しかできないレベルだけど、それでも初めて稼いだお金は嬉しい。


『ミル、お金稼げたよ!』

『トーゴ様凄いですね』

『うん! とにかく足りないものを買っていこうか。まず一番に欲しいのはやっぱりタオルかな。ミルの足を拭く用と俺のお風呂用。あとは替えの服も欲しいんだけど……それはまた次かな』


 宿に泊まるお金も毎日稼がないとだし、借金も貯めて返さないといけない。それに討伐した時に魔物を入れる木箱とか、採取依頼で使うカゴとか、麻袋とか武器とか本とか時計とか、あとミルの首輪とか。とにかくたくさん必要なものは思い浮かぶ。

 うん、銅貨五枚で喜んでる場合じゃなかったな。


『ミル、これから毎日頑張ろうか』

『はい!』


 ミルは瞳を輝かせて尻尾をぶんぶんと振りながら俺を見上げた。うぅ……こんなに貧乏で不便な生活なのに、楽しそうにしてくれるミルの存在が本当にありがたい。ミルと一緒で良かった。


『じゃあとりあえず、今日は布だけ買って宿に帰ろう』

『そうですね』


 そうしてこの後の方針を決めた俺とミルは、冒険者ギルドを出て大通りに向かった。確か大通りに布を売ってるお店があったのだ。

 今は金欠だからとにかく安さ重視で、どんなに質が低くてもいいから布を二枚買いたい。果たして銅貨五枚で買えるんだか。


 そう少し不安に思いながらもお店に向かうと、ちょうど他にお客さんはいなくて店主のおばちゃんが対応してくれた。


「いらっしゃい! 何をお探しかね?」

「布を探してるんだ。この子の足を拭くための布と、俺がお風呂に入るための布。まだあんまりお金がないから安いやつがいいんだけど……」

「それならこの辺だね。ああ、あとはこっちなら使い捨てだけど十枚で銅貨一枚だよ」


 おばちゃんがそうして示してくれたのは、ちょっとゴワゴワしていてお風呂に使ったら肌が痛くなりそうな布と、それよりも柔らかくて触り心地はいいけど最初の布よりは半分ほどの大きさのもの。

 あとは使い捨てだと言われたバスタオルサイズの布……というより葉っぱ。この葉っぱが布代わりになるのかな?


「おばちゃん、これ葉っぱ?」

「これを知らないのかい!? テラの葉だよ?」

「テラの葉……?」

「そうさ。トイレにあるだろ?」

「あぁ!」


 あのトイレットペーパー代わりの葉っぱ? あれテラの葉って言うんだ。でもそれにしては大きすぎない? それにしっかりしてるし。


「でもあれより大きくない?」

「何十年か前に突然変異とかで大きくなるやつが生まれて、それがいろんなところに広まっただろう? どんどん育つし使ってダメになっても森に捨てとけば自然に還るし、皆使ってるじゃないか」


 そうだったんだ。確かに植物だって進化するよな。そうなるとこの世界には俺が知らないものもたくさんありそうだ。


「俺の村ではまだ使われてなかったんだよ。でもテラの葉は使ってた。名前が違ったんだ」

「そりゃあ相当田舎だね。名前を覚えておきな」

「うん! ありがとう。じゃあとりあえずテラの葉を十枚と、こっちの柔らかい布っていくら?」

「そっちは銅貨三枚だよ」


 銅貨三枚……二つ買えないじゃん。


「じゃあそれを一枚ちょうだい」

「はいよ。じゃあ合計で銅貨四枚だね」

「はい」

「ちょうど。ありがとね!」

「うん! またお金を稼いだら買いにくるよ」

「頑張りなよ」


 そうしておばちゃんのお店で布を買い終えた。


『ミル、こっちの柔らかい布は俺が使ってもいい? ミルの足を拭くのは布も汚れるし、こっちのテラの葉にしようかなと思ってるんだけど』

『はい。そちらの布はトーゴ様がお使いください』

『ありがとう。じゃあそうするよ』


 ミルの足を拭く布はこれから先もテラの葉が楽でいいかもしれない。汚れた布を綺麗にするのは結構大変だろう。

 お風呂に石鹸が置いてあったから石鹸はあるみたいだけど、洗浄力はそこまでじゃないだろうし。


 それにしても植物の進化とかあんまり考えてなかったな。でも当たり前のことだ。そう考えたら魔物も進化してるかもしれない。

 これからは俺の知識をあてにしすぎるのも良くないのかも……。魔法を使わないと思ってた魔物が使えるようになってたとか、俺の知らない魔物が生まれてたとかありそうだ。


 あっ、でも魔物はダンジョンコアが生み出すのだからそこまで変わってないかな。いや、でも最初はダンジョンコアだけど、生み出したあとは繁殖も可能にしたはず。


 なんか今更なんだけど……この世界ってかなり鬼畜な設定だったかな。だって世界中にダンジョンがあってその中でコンスタントに魔物は生み出されてて、その魔物がダンジョンの外に出てそこに住み着いて繁殖もして、ダンジョンの中でも繁殖は可能だ。


 ひたすら倒さないとどんどん魔物が増えていくだろう。その辺もっと考えれば良かったかな……

 いや、でもそれでこの世界が回ってるんだしこれはこれでいいのかも。人間が絶滅してるわけでもないし、逆に魔物が絶滅してるわけでもないし。


 うん、そう思っておくことにしよう。今この世界の問題点を考えても設定変更はできないんだし。


 とりあえず俺の知識が全てだと思わない。現実は刻々と変化している。それを心に刻んでおこう。


『トーゴ様、あのお店から良い匂いがしますね!』


 俺がそうして考え込んでいると、ミルは美味しい匂いがするお店を見つけたようで、そちらに鼻先をむけてクンクン匂いを嗅いでいる。ミル、お腹すいてるんだな。


『お腹空いたよね』

『はい。ずっと串焼きの匂いを嗅いでたので……』

『わかる、俺もかなりお腹空いたよ。じゃあ早く宿屋に帰ろうか』

『はい!』


 そうして俺とミルはいつもより早足で宿に帰った。宿の夕食は、いつも通り絶品だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る