第2話 神界
「神には神力と神石が与えられ、一神につき一つの世界を作り出すことが義務となっている。それ以外は何をしても構わない。ただ、一つだけ禁忌がある。作り出した世界を自らの手で破壊する行為だけは、絶対にダメだ。寿命で世界が無くなった場合は神力が神の元へ戻るが、神が自ら破壊した場合は神力が戻らない。それによって宇宙全体の神力がしばらくの間減ってしまう。それを避けたいのだ。よって、もしその禁忌を犯した場合は魂を消滅させることになっている」
何か急に怖い話になったな。でも神が自ら作った世界を破壊するってどういうことだろう? 普通はそんなことしない。
「神が自ら世界を破壊するってどういうことでしょうか?」
「神は下界に降りる依代を作り、自由に下界に行くことが可能なのだ。それを利用して、下界で環境を破壊したり生命体を大量に殺したり、そうして世界のバランスを崩す神が一定数いる。神という強大な力によって世界のバランスが崩れると、世界は近いうちに消滅してしまうのだ。その禁忌を犯した神を邪神と呼ぶ。邪神の魂を消滅させるのは我なのだがかなり力を必要とするので、今でも数体は未だ魂を消滅させていない邪神が存在している。消滅させるのよりも邪神が生まれる方が早い、本当に困ったものだ。お主は邪神になるのはやめてくれるか?」
巨大な像は少しだけ困った様子でそう言った。なんか、可哀想になってきたな……
俺は絶対に邪神にならないように気をつけよう。
「かしこまりました。絶対に邪神にはなりません。……あの、少し気になったのですが、まだ消滅させられていない邪神はどこにいるのですか?」
「ああ、神の木というものがあり、その木に拘束されている。力は全て奪って絶対に逃げられないものだから安心してくれ」
「それなら良かったです」
それにしても、わざわざ自分が作った世界を破壊するなんてやるわけないよな。なんでそんなことをするのか不思議だ。
そういえば神って、皆が俺みたいにどこかの世界からの転生者なのかな? もしそうなら選ばれた人によっては危険な考えの神もいるのかも。
……あれ? でも皆が転生者ってことはないか。だってそれだと最初の神はどこからきたのかって話になる。というか、この巨大な像はどこから来たんだ?
「あの、質問良いですか?」
「何だ?」
「あなたはどこから来たのですか?」
「それは我にもわからない。我は気づいたら生まれていた。無の世界に何かしらのエネルギーが発生し、それによって生まれたのが我であり宇宙だ」
……うん、どういうことなのか全くわからないな。でもこれは深く追及しても結局わからないやつだろう。
「では、神って皆がどこかの世界から選ばれた魂なんですか?」
「いや、最初は我が作り出した。しかしその後は皆、お主のように選ばれた魂だ」
「そうなんですね。どういう条件で選ばれるのでしょうか?」
「選ばれる条件はない、完全にランダムだ。ただこの宇宙にいる神の数は決まっているから、邪神が生まれ神が減った時に魂が選ばれる」
神の数は決まってるのか。邪神になる時に減るってことは、それ以外で減ることはないってこと?
ということは、もしかして不老不死?
「神って不老不死なんですか?」
「ああ、神は我が消滅させない限り消えることはない。ただ依代を作って下界にいるときは別だ。下界では不老だが不死にはならない。病気の心配はないが殺されれば死ぬこともある。実際に下界で殺された神が数体いた。お主も気をつけるんだな。まあ、神の能力は高いからそこまで心配はいらないが」
「そうなのですか? 今の私は凄い力があるように思えないのですが?」
俺はそう言いつつ自分の体を見下ろした。昨日の夜に寝た時のパジャマ姿のままだ。力が増えた感じもしない。勉強ばかりで運動不足だった、少し痩せ型で筋肉のない体だ。
「神石に神力を流し込むと力が扱えるようになるのだ。神石は神にとって一番大切なもの。再度与えることはできないから絶対に無くさないよう気をつけろ」
「分かりました」
「ではそろそろ説明も終わりだ。お主に神石を与えよう」
え? もう説明終わり!? まだわからないことがたくさんあるんだけど……
「細かい説明などはしていただけないのですか?」
「それはお主の島に行けば本が置いてある。それを読んでくれ」
島ってなんだ? 本?
そう疑問に思ったけど、巨大な像は既に説明を終わらせる雰囲気になっていたので、とりあえず頷くことにした。後でまた聞けばいいだろう。
「そうなんですね。かしこまりました」
「では神石を作り出そう。そうだ、お主の名は何というのだ? 神名を決めなければならない」
「俺は、神城東吾です」
「では神城東吾、宇宙の根源たる我が、お主を神として任命する」
巨大な像がそう言うと、俺の目の前が急に光り輝き始めた。そしてその光が収まった時に、目の前にとても綺麗で透明な黄色の宝石が浮かんでいた。
宝石は手のひらに収まるサイズで、完全な球体だ。結構大きい。
「それがお主の神石だ。手に取り神力を流せばお主のものになる」
俺は恐る恐る神石に手を伸ばして、自分の手のひらの上に乗せた。最初は神石が浮いていて重さは感じなかったけど、すぐにずっしりとした重みが手に加わる。
結構重いな、これが神石か……。神力を流せば良いんだっけ。でも神力ってどうやって流すんだ?
「あの、神力ってどうやって流すのですか?」
「お主の体は神力で形作られている。よって念じればすぐに流せるはずだ」
そうなの? 俺って気づいてなかったけどもう人間の体じゃないんだな。
それも驚きだけど、今はそれよりも神力だ。神力、神力、神力を神石に流し込む、神力……
そうしてイメージしながら念じていると、俺の体から神石に何かが流れていく感覚がある。
おおっ……これ凄い。神石と俺が同化していく感覚だ。凄く気持ちいい、温かい風呂に浸かっているようだ。
それからしばらく神石に神力を流し込み続け、もう入らなくなったところで止めた。
「これで大丈夫でしょうか?」
「ああ、それで良い。変わったのはわかるか?」
「はい。凄く体が軽くて、この空間との親和性が高まったような。何と言ったらいいのか……今なら何でも出来そうな気がします」
「それはあながち間違いではない。神は神力を使えば、イメージしたことはほとんど実現できる。例えば、空を飛ぶことをイメージしてみれば空を飛ぶこともできる。食べたいものを思い浮かべれば、神力で作り出すこともできる」
何その能力!? 凄すぎるんだけど!
「ただ一つ気をつけなければいけないのは、神力は無限ではないと言うことだ。自然に回復はするが、そのスピードは遅い。一番良い回復方法は作った世界からの供物だ。信仰されて下界のものを供物として捧げてもらうと神力が回復する。下界には祭壇や教会などを作っておくことを薦めておこう」
「わかりました。そこも気をつけます」
「では神城東吾、これから神としての役割を果たしてくれ」
「はい!」
「お主の島は既に用意してある。すぐ近くに置いてあるからそこに行ってくれ。ではまた、何かあればここに来ると良い」
そうだ、島について聞こうと思ってたんだった。でもまあいいか、とりあえず行ってみればわかるだろう。近くにあるみたいだし。
「はい。色々と教えてくださってありがとうございます。これから神として頑張ります!」
俺は巨大な像、いや、宇宙の根源にそう返事をしてこの巨大な建物を出た。入り口はかなり大きくて開けられるのか心配だったけど、俺が近づくと自動で開いた。凄いな、何でもありの世界だ。
そして一歩外に出て、俺は本当に感動した。
凄い! 本当に凄い! とにかく幻想的で綺麗で不思議な景色だ。ここが天国だと言われても納得する。神の世界だと言うのも信じられる。
そういえば、ここってなんて言うんだろう? 宇宙? それとも神の世界だから、神界?
うーん、とりあえず神界って呼ぶことにしようかな。
俺がいたのは神界に沢山ある浮島のうちの一つだったようで、外には見渡す限りどこまでも浮島が広がっていた。いくつあるのかわからない。数えきれないほどの島が浮かんでいる。
上を見上げると、どこまで続いているのかわからない真っ白の空。下を覗き込んでみると、かなり遠くに白い雲のようなものが見える。その先はわからない。そんな空間に上に下にと沢山の浮島。
それぞれの浮島ごとに印象が全く違って、真っ黒の植物が生えている島もあれば、マシュマロのようなふわふわしたものが沢山ある島、大きなシャボン玉が沢山浮いている島、キャンディーのような木が生えている島、そのほかにも沢山の個性豊かな島がある。
それぞれの島の大きさは、直径二キロぐらいだろうか? 多分そのぐらいの広さの島だ。
確か俺の島があるって言ってたな。その言葉を思い出して辺りを見回してみると、この浮島にくっついている島が一つだけあった。多分あれだな。
まだ何もない、ただ地面があるだけの島だ。島のカスタマイズも神力で出来るのだろうか? めちゃくちゃテンションが上がる。新しいゲームを始める時のような、いやそれ以上の気持ちだ。
そうだ! 確かイメージで空を飛ぶこともできるんだったよな? 俺はそのことを思い出して、浮島まで飛んでみることにした。
ふわっと、鳥というよりはアニメで見た神様が宙に浮かぶように、自由自在に空を移動できるイメージ。そんなイメージをすると、ほとんど抵抗もなく空に浮かぶことができる。
凄い! 神力って凄い! 本当にイメージしたことが簡単にできる!
俺はテンションが上がって、しばらくバク宙をしてみたり、急上昇からの急下降をしてみたいと、一通り空を飛べることを楽しんだ。そして充分に満足してから自分の浮島に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます