第102話 食べ比べと発見
それから数分待っていると、おじさんは焼き終えた串から俺達に手渡してくれた。まずはもちろんウィリーが受け取る。
「こっちがビッグレッドカウ、こっちがレッドカウだ」
「うおぉぉ、めちゃくちゃ美味そうだな!」
「そうだろ? 俺が焼いてんだから当たり前だ」
おじさんはウィリーの食欲からは目を逸らしたようで、素直な賞賛に嬉しそうに頬を緩めて、力こぶを作って得意げに叩いている。
「さすがだな!」
「おう、ありがとな。冷める前に食べた方が美味いぞ?」
「分かったぜ。トーゴ、ミレイア、ミル、先に食べても良いか?」
「もちろん良いよ」
俺達が苦笑しつつそう答えると、ウィリーは嬉しそうな笑顔を浮かべて串焼きにかぶりついた。まずはビッグレッドカウから食べるようだ。
「レッドカウと違うの?」
ミレイアがビッグレッドカウの串焼きをじっと見つめながらそう聞くと、ウィリーは肉を咀嚼しながら大きく頷いた。
「めちゃくちゃ美味い。これ全然違うぞ」
「そうなんだ。見た目はそこまで変わらなそうだけど」
「ジューシーさが全然違う! こっちは噛めば噛むほどにあり得ないほど肉汁が出てくる。飲めるぐらいだ」
「……本当に?」
さすがに飲めるぐらいは大袈裟じゃないか。そう思っているとさらに串焼きが焼けたようなので、何よりも食べてみるのが一番早いだろうと串焼きを手に取った。
ミルの口元にも肉を運んであげて、全員でビッグレッドカウの肉を口にする。
「うわっ、何これ」
「本当だ……飲める」
『凄いです! 美味しいですね!!』
ミルは大興奮で、尻尾を今までで一番と言っても過言ではないほどに振っている。確かにジューシーな肉が好きな人にとっては最高に美味しいお肉なんだろう。
でも俺はどちらかというと脂身が少なめの赤身が好きなんだよな。ビッグレッドカウの脂はしつこくないし、甘くて美味しい良い脂なんだけど、やっぱりここまで大量だと次から次へと食べたいなとは思えない。
ミレイアも同じ感想なのか、串に残っているビッグレッドカウの肉を見つめて微妙な表情を浮かべている。
「なんだ、美味しくないのか?」
「ううん。美味しいんだけど、さすがにしつこいかなって」
「俺も同意見」
「マジか! こんなに美味い肉なのに!」
ウィリーやミルみたいに胃が激強の人にとっては、このお肉は最高だろう。でも大多数の一般人からしたら、一切れでいいかなって思うお肉だ。
「ははっ、大体は意見が二分するんだ。脂が好きなやつにはビッグレッドカウの肉は最高らしいぜ」
おじさんがそう言って笑っている。この反応を見るのが楽しくてこのセットをやってるんだろうな。
「ミレイア、俺が残りを食べようか?」
「うん。お願いしても良い?」
「もちろんだぜ。トーゴはどうする?」
「俺は一本ぐらいなら大丈夫。でも次はさっぱりしたものを食べたいかな」
「私も〜」
それからはウィリーとミルの独壇場で、焼けた端から二人が串焼きをどんどん胃袋に入れていき、最後の一本を受け取った時には、他の串焼きは全部なくなっていた。
「お前、本当に凄いんだな」
「ああ、まだまだ腹減ってるぞ」
「……マジかよ」
「おじさん、ウィリーの食欲は深く考えない方が良いよ」
「ははっ、本当だな。俺の理解の範疇を超えてるようだ。じゃあお前ら、また来てくれよな。いつでも大量注文待ってるぜ」
「おうっ、絶対また来るぜ!」
そうして俺達は串焼き屋を後にした。
そしてそれから、ウィリーはまだがっつりしたものを、俺達はさっぱりとしたものを屋台で食べ歩き、全員が満腹になったところで広場を出て、高級店が立ち並ぶ通りに向かうことにした。
『皆さんと観光するの楽しいです!』
広場を出て大通りを歩き始めると、ミルがスキップでもしそうなほどにご機嫌でそう言った。尻尾を振ってにこにこで歩いている様子がめちゃくちゃ可愛い。
「ミルちゃん、楽しい?」
「わんっ!」
「そっか。良かったよ〜」
ミレイアはミルの可愛さに我慢ができなかったようで、ミルの側にしゃがみ込んでぎゅっと抱きついた。これじゃあ全然進めないな……そう思いつつも、特に急いでないし良いかと思って、ミルと戯れながらのんびりと進む。
そうして歩くこと三十分ほど、時間から想像される距離の半分も進んでない場所で、俺は気になるお店を発見した。
「皆、ここに寄ってみない?」
さすが高級店が立ち並ぶ通りだと納得できる立派な店構えのこのお店には、輸入食料品店と書かれた大きな看板がかけられているのだ。
ナルシーナの街ではついに見つけられなかった米、もしかしたらここにならあるかもしれない。
「良いよ。楽しそうなお店だね」
「珍しい食べ物を売ってるのか? それは寄るしかないな!」
『トーゴ様、米があるかもしれないですね!』
『そうなんだよ。だから寄ってみようかと思って。ナルシーナは田舎すぎてあんまり入ってこないって言われたけど、ここなら米もありそうじゃない?』
『ありそうです! ナルシーナよりもかなり栄えてますよね』
少しだけ入りづらい雰囲気だけど、意を決して扉に手をかけると……その扉はほとんど力を入れることなくスムーズに開いた。こういう建て付けの部分にも、お金を掛けてるか掛けてないかって出るんだな。
「いらっしゃいませ。あら、冒険者ですか? 珍しいお客さんですね」
扉を開くと、すぐに店員だろう女性が俺達を迎え入れてくれる。優しい笑みを浮かべていて、とても接しやすい雰囲気だ。
「こんにちは。探している食材があって、看板を目にして思わず入ってしまいました」
「そうだったのですね。どのような食材かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、米という穀物です。この辺よりも北の方で作られているって聞いたことがあるんですけど、取り扱ってませんか?」
「米ですね。もちろんございますよ」
……え、あるの!? 俺はダメ元で聞いていたので、当たり前のように頷かれたことに驚いて一瞬反応できなかった。
「珍しいものじゃないんですか?」
「そうですね。確かにこの辺りでは珍しいかもしれません。しかし一定の人気がある穀物ですから。大きな街ではどこでも手に入ると思いますよ。保存も容易で遠くからでも運びやすいですし」
「そうなんですね」
やっぱりナルシーナの街は田舎すぎたんだな。都会にはあるってことなら、これから行く街では米がある可能性が高いだろう。これは朗報だ。
それに米があったらたくさん買ってアイテムボックスにストックしておけば、売ってない街でも楽しむことができる。とりあえず今日は買えるだけ買っておこう。
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