第12話 お風呂と魔道具

「あっ、魔道具のお風呂は使ったことある?」

「ううん、ないかな。というか魔道具って何……?」


 俺は村出身の設定なので、魔道具を知らない体で話を進める。実際魔道具は見たこともないし、どんなものなのかも分からない。


「うーん、便利なもの。魔石を使っていろんなことができるんだよ!」


 アナちゃんは一生懸命そう説明してくれたけど、それだとよくわからない。そうして俺が困っていると、マテオが助け舟を出してくれた。


「トーゴ、魔物を倒すと心臓部分に魔石があることは知ってるか?」

「うん。知ってるよ」

「俺も詳しくは知らないんだが、その魔石の力を使ってお湯を沸かしたり色々とできるんだ」


 うん、そこまでは俺も知ってるんだ。俺が魔石を作ったからね。基本的には魔石ごとに魔法と同じように属性があって、例えば火属性なら熱という力を生み出せるとか、氷属性なら冷却ができるとか、色々と属性ごとに機械のようなものを作り出せるように魔石を設定した。


 でもそれがどこまで発展してるのかは未知数だから、実際にどんなものがあるのか知りたい。


「例えばどんなものがある? その魔道具ってやつ」

「そうだな。よく使われてるのは魔道冷蔵庫と魔道コンロ、あとは魔道給湯器とかか? ああ、魔道給水器もあるな。他にもたくさんあるが、高いものだから持っている人は少ない。貴族や金持ちはたくさん持ってるんだろうけどな。一般にも普及してるのはそれぐらいだ」

「そうなんだ。どういうものかよくわからないけど便利そう」


 めちゃくちゃ嬉しい、上手くいってる! この調子なら生活する上での不便はあまりなさそうだ。うん、頑張った甲斐があった。


「めちゃくちゃ便利だぞ。トーゴは村にいたんなら魔道具はなかったんだよな? なら井戸から水を汲んでたろ? 魔道給水器があれば水を作り出してくれるから井戸からの水汲みは必要ないし、魔道コンロで料理できるから火をおこす必要もないし、魔道具はすげぇよ!」


 パブロが少し興奮しつつそう話してくれた。


「そうなんだ、それは凄い! そんなに便利なら村にもあったらよかったのに」

「そりゃあ難しいな。何せ魔道具は高いんだ。街でも普及してはいるけど、さっき挙げた魔道具を全部持ってる家なんてないな。魔道具そのものがまず高いし、魔石も安くはない。気軽に手に入る小さな魔石だとあんまり長持ちしないんだ」


 確かにそっか。機械だって現代でもかなり高かったし、昔はもっと高かったんだろうし。この世界ではまだ安くて全員が手に入るほどにはなってないんだな。

 魔石も魔力の保有量によって蓄えてる力が違うから、手軽に手に入る弱い魔物の魔石だと、魔道具に使うとしてもあんまり持たないだろう。


「そっか。魔道具はこの宿にはある?」

「この宿にはさっきの四つが全部あんだよ! すっげぇ珍しいんだぜ。ここは隠れた名宿だな」

「え、そうなんだ。それは凄い。そんないい宿を紹介してくれてありがとう」


 そんなに凄い宿だったのか。オーナーがお金持ちとか、魔道具職人と縁があるとかなのかな。


「いいってことよ。客が増えるのはいいことだしな」



 そうして話していると、アナちゃんが部屋の鍵を準備して持ってきてくれた。


「じゃあこれ部屋の鍵! 夜ご飯は夜六時からだからあと一時間ぐらいだよ。夜ご飯はこの食堂で基本的には食べてもらうから降りてきてね。そうだ、お風呂の使い方とかわからなかったら聞いてね!」

「分かった、この食堂ね。色々とありがとう」


 俺は少しだけかがみ込んでアナちゃんから鍵を受け取った。アナちゃんはにっこりと満面の笑みで鍵を渡してくれる。この子かなり可愛いし看板娘なんだろうな。


「うん! 席は自由で早い者勝ちだからね」

「分かった。じゃあ早めに降りてくるよ」


 宿屋は玄関を入ってすぐの空間にテーブルがいくつか置いてあり、ちょっとした食事スペースになっているのだ。宿泊客が食事をする場所なのだろう。そこまで広いスペースじゃないし、宿泊客が一斉には食事をできないのかもしれない。


「じゃあトーゴ、一旦それぞれ自分の部屋に戻るとするか。また夕食の時にな。疲れてるだろうし少しは部屋で休んだほうがいい」

「確かにそうかも。ありがとう」

「トーゴまたな〜」

「また夕食で」

「うん! 皆今日はありがとう」


 そうして俺は皆と別れ、ミルと共に自分に割り当てられた部屋に向かった。二階の一番奥の部屋みたいだ。


 部屋の中は、ベッドと小さめの机と椅子があるだけの狭い部屋だった。しかし綺麗に掃除されていて居心地は良さそうだ。ベッドのシーツも清潔で綺麗だし、割とふかふかのベッドだ。


「ミル〜、最初に会った人達、本当に良い人たちだったね」


 俺はベッドにダイブしながらミルにそう話しかけた。周りに誰もいなくなったので念話ではなく普通にだ。


「はい。凄くラッキーでしたね!」

「本当だよ。それにしてもここを俺が作ったなんて信じられない。凄くちゃんとした世界になってる」


 俺がそう言ってミルの方に顔を向けると、ミルはベッドの横の床にちょこんと座っている。


「とても素敵な世界です! これからいろんな場所を見て回るのが楽しみですね」


 そして尻尾を激しく振りながら楽しそうにそう言った。うぅ……ミルが可愛すぎる。ミルの足を拭くための布が必要だな。ベッドで一緒に寝たい。


「他の国にも行ってみたいし、いろんな場所を旅しようか」

「はい!」

「じゃあ、とりあえず一時間どうするかな……。あっ、お風呂がどんな感じなのか見てこようかな。あとトイレも」


 魔道具がどんな感じなのか気になっているのだ。俺の予想通りに便利なものができてるみたいだし、これからはもっと安くなって広く普及していけばいいんだけど……

 そのためには魔石が手軽に手に入らないとダメみたいだった。その辺の調節も神界に戻ったらやろうかな……今からの調整って大変なんだけど、神力もまだあるし。


「僕も行きます」

「じゃあ一緒に行こうか」

「はい!」


 そうしてミルと共に宿の一階にまた降りてきた。まずはトイレをチラッと見てみる。

 うん、日本にあるトイレと同じような作りだな。ボタンがあってそれを押すと水が流れるみたいだ。そんなことを確認しつつトイレをぐるっと見回していると、あるものが目に入った。葉っぱだ。手のひらサイズぐらいの葉っぱ。


 これあれだ、作った記憶がある。トイレットペーパーのないトイレなんて考えられないって思って、代わりになるようないい感じの触り心地の葉っぱを作ったのだ。あの時は質感に無駄にこだわったから覚えている。

 確か基本的にはどんな季節でもどんな場所でも育つ植物にしたはずだ。ちゃんとトイレで使われてて良かった。トイレは完璧だな。


『ミル、次はお風呂に行こうか』

『行きましょう』


 お風呂にはちょうど誰も入っていなくて、中を見学し放題だった。結構狭い空間だけど中には大きな桶がある。その桶の近くに給湯器があるから、これでお湯を桶に溜めて体を洗うんだろう。お湯が流せるように桶の底には栓もある。

 さっきのトイレもそうだけど、この街は下水がある程度整備されてるみたいだ。街を歩いていても街並みは綺麗だった。衛生環境も悪くないし、この世界、というかまだこの街だけど凄く良い。

 もし下界の環境が辛かったら頻繁に神界に帰ろうかと思ってたんだけど、その必要はなさそうだ。


 今はまだお風呂に入りたくはないけど、これからはお風呂に入るから新しい服も買わないとだし、布も必要だな。

 必要なものが沢山あってお金が全く足りない。やっぱりまずはお金を稼がないと。


『ミル、まずはなんにしてもお金を稼がないとダメみたい』

『じゃあお仕事ですね』

『うん。明日初心者講習を受けてから仕事を受けようかな。ミルも手伝ってくれる?』

『もちろんです。僕は強いですからお役に立ちます!』

『ははっ、確かにミルは強いよね。頼りにしてるよ』

『はい!』

『ありがとう』


 俺は嬉しそうに尻尾を振っているミルの頭を優しく撫でた。うん、もふもふのふわふわで最高の触り心地。本当にミルは可愛い。


 そうしてその後は部屋でのんびりとして、夕食の時間に食堂に向かった。そして皆と一緒に美味しい夕食を堪能し、また自分の部屋に戻ってきた。

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