第71配信 デート②

 画面が切り替わりホテルビュッフェの録画映像が流れ始めた。それを見ながらフェンが説明を始める。


『今回は大帝国ホテル内のレストラン『カイゼルダイニング』のディナービュッフェに行ってきましたー』


 映像に映る窓の外には美しい夜景が広がっていて、このレストランが高層階に位置しているのが分かる。料理メインの配信なのでレストラン内の映像は最小限だが、それだけでもオシャレな雰囲気が感じられる。

 この映像を観た瞬間、俺のデートディナーのイメージと合致した。


『うわー、大帝国ホテルって有名ですよね。そこのレストランのディナービュッフェなんてオシャレ。いいなぁ』


『大帝国ホテルかぁ。服装はやっぱりスーツとかドレスみたいな正装じゃないと浮く感じ?』


『あはは、そんなことないよ。カジュアル過ぎなければ大丈夫。普段より少しオシャレする感じで問題ないよー』


 三人の会話を聞いてガブがホテルビュッフェにかなり興味を抱いているのが分かる。それに服装もそこまで気兼ねする必要も無さそうだし、バイキング形式なので思う存分食べられる。食べる事が大好きなガブと相性ピッタリだ。


「……これだ」


 デート時の理想のディナーを見つけた俺は独り呟く。

 脳内ではガブリエール――陽菜と一緒に昼間は水族館で魚観賞を楽しみ夜はホテルのディナービュッフェを堪能するイメージが再生される。


『大帝国ホテルのディナービュッフェではローストビーフやお寿司もあるので肉料理、魚料理が充実してるよ。そして目玉はショートケーキシリーズ! いちご、メロン、マンゴー、シャインマスカットの四種類でキューブ状の食べやすいサイズにカットされていて、これがもう最高! ケーキ好きなら永遠に食べ続けられるレベルなんだよ~』


『メロンショートケーキ美味しそうです~! 映像見ただけで絶対美味しいって分かりますもん』


『オレは肉料理を制覇したいなぁ。確かこのレストランってビーフシチューも美味しいって聞いた事がある』


『あるよ~。お肉はホロホロになるほど煮込まれてて口の中で蕩けていくんだよ。多分歯がなくても食べられると思う。――さて、話題がお肉になったのでここでボクが……と言うかほとんど機械だけど、調理してきたローストビーフを食べたいと思います!』


『きゃー! 待ってましたーーーー!!』


『にーく! にーく! お肉ーーーーーー!』


『牛もも肉の塊にフォークで数カ所穴を開けて塩こしょうをまぶします。そしたらフライパンで表面を焼いて耐熱袋に入れて空気を抜きます。専用容器にお湯と一緒に入れたら機械にセット、温度と時間を設定したらオート調理して完成だよ~。はい、特製のソースをかけて召し上がれ』


 画面の一部に表面が焼かれて中心部がピンク色のローストビーフが映し出されフェン特製のソースがかけられていく。

 そして三名のアバターが口をもぐもぐ動かし始めた。何度も咀嚼し飲み込むとガブとノームがローストビーフの味を絶賛する。


『うんっめぇぇぇぇ!! フェン、オレのとこに嫁に来て!!』


『フェン先輩、おいひいれす!!』


『ふふ、ありがと。まだ沢山あるから一杯食べてね。それとボク最近チャーシュー作りにハマってるんだ。良かったらそれも食べてみる?』


『『食べるーーーー!』』


 肉食女子三名が勢いよく肉を食べていく姿は見ていて気持ちが良い。それに俺も肉が食べたくなってきた。コメント欄を見るとリスナーの皆も肉料理を食べたい衝動に駆られているようだ。夕食は回鍋肉にしようかなぁ。

 画面にはホテルビュッフェの数々の料理が映し出されていき終了した。すると今度はフェンお手製のチャーシューの話になり調理中の肉塊の映像が映る。そこで俺たちはとんでもない物を観た。

 チャーシューを作る際は肉塊を紐で縛るのは知っていたがフェンが作るチャーシューは何かがおかしい。紐の結び方が何と言うか……あれはまるでSMで目にする亀甲縛りのように見える。……なんで?


『ちょっと待った!! おい、フェン。何かチャーシューの縛り方……これ、おかしくない!?』


『あの、これってSM的な……いやいや、私たちの見間違いですよね』


『これはね、亀甲縛りだよ~』


『『やっぱりか!!』』


 どよめくガブとノーム、そしてリスナー。そんな俺たちを前にフェンはニコニコしながらチャーシューを切り分けて二人に提供する。


『紐の縛り方によってジューシーさが変わるんだよ。ボクが色々試した結果、この縛り方が一番美味しいと思ったんだ。一般の縛り方と亀甲縛りの二種類用意したから、二人共食べ比べてみて』


『そ、それでは頂きます』


『……ガブ、同時に食べよう。ちょっとオレ、怖いから……お願い』


 ガブとノームは同時にチャーシューの食べ比べをした。最初は普通の縛り方のものを食べて次に亀甲縛りを食す。すると亀甲縛りを食べた瞬間に二人の目が見開いた。


『わぁっ! 凄い全然違う。亀甲縛りの方がジューシーです!』


『本当だ。噛む度に肉汁が出てきて美味い! 縛り方でなんでこんなに変わんの!?』


『さあ、理由はボクも分からないんだ。人もチャーシューもタンパク質の塊だから亀甲縛りで汁々しるしる味汁みしるになるのは同じ……なのかもしれないね。ちなみにきつく縛る方がよりジューシーになるんだよ~』


『汁々味汁って何ですか!? いや、やっぱり言わなくて大丈夫です。それ絶対動画で流したら危険な内容ですよね?』


『このエロオオカミ……食欲と性欲をごっちゃにするなっていつも言ってるだろ! 何かもう、このチャーシューエロい味にしか思えなくなった。……やっぱ美味い……エロい……美味い……エロ……もう訳分かんねえよ!!』


 グルメ配信なのに最終的にエロが関わってくるあたり、フェンもぶいなろっ!!の一員なのだと思い知らされる。こうしてピンク色漂うグルメ配信はフェン以外が困惑する中、終了した。

 そして俺は思いついたデートプランをまとめると陽菜に連絡してデートの約束を取り付けたのである。やってやる……やってやるぞ!!

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