第75配信 パリオ②
配信画面がゲーム画面に切り替わり、ガブリエールとセシリーは画面脇に移動した。
現在ガブが操作するタンクトップと半ズボン姿のおっさん――パリオが画面の中でジャンプしたりダッシュしたりして意気揚々と動いている。
設定上、三十代のおっさんが現実でこんなに動けるとは思えないがそこはフィクション、中々人間離れした動きをする。
舞台は一応現代日本らしいが初代が発売されたのは約四十年前なので建物や街の風景が古めかしい。時代設定的に俺の親の子供時代の風景だろう。
そんなノスタルジーな雰囲気の街を走るパリオの前に手足の生えたキノコ型モンスター『ムクムク』が現れる。
『随分と立派なキノコデスネ。ガブリエール様はキノコ……お好きデスカ?』
『え? ええ、まあそうですね。椎茸を焼いて醤油をかけて食べたりするのが好きです』
『なるホド。ガブリエール様は熱膨張で巨大化するキノコがお好きなのデスネ』
『そんな事、私一言も言ってませんよね!?』
セシリーのセクハラとも言える発言に動揺したのか、ガブは操作をミスってパリオはムクムクに正面からぶつかって死んでしまった。本来ならばジャンプし踏んづけて倒すのだが間違って全力ダッシュしてしまったらしい。
『椎茸も美味しいと思いますケド、ガブリエール様が特にお好きなのはワンユウ
『ぶふっ!?』
今度はパリオは変な場所でジャンプして自ら穴の中に落ちて死んでしまった。セシリーはいよいよ本格的に俺の名前を使ってガブにちょっかいを入れ始めた。
「セシリー……あいつ、俺に直接絡んでくるんじゃなくガブにセクハラしつつ俺にダメージを与えるとか悪質じゃないか。清楚な受付嬢の化けの皮が剥がれ始めたな」
配信で俺を直接煽るのなら別に構わなかったがガブにも被害が及んでいるのでセシリーの行動は許してはおけない。
下手をすると仕事の感覚でセシリーにツッコんでしまいそうになるので距離感に気をつけながらコメントで牽制するしかない。
『ワンユウ茸の調子はどうデスカ? モンキーバナナ、エリンギ、フランクフルト――この中のどれに近い感じでショウカ? いちAIとシテ、データを欲していマス』
『データ!? この質問の内容ってつまりその……いや、言いませんよ!? 言いませんからね! 言ったらワンユウさんの人権問題になっちゃいますよ!』
『誰もワンユウ様とは言っていまセンヨ。ワンユウ茸の話をしていマス。――て言うカ、その発言でガブリエール様がワンユウ様のアレの状態を把握しているという事が分かりマシタ。仲良しで良かったデス』
『あっ! そんなつもりじゃ。ごめんなさいワンユウさん!!』
コメント
:ガブちゃんと総帥の仲が順調に進展してて微笑ましいよ
:パリオを差し置いて配信の話題がワンユウ茸のサイズになっていて草
:オレもワンユウ茸のサイズに興味あります!!
:今日のセシリーはいつもと違って下ネタド直球やな
:セシリーが出したワンユウ茸のサイズ例が統一感無くて既にカオスw
:この三択以外で例を挙げるなら、やはり松茸は外せないでしょう! 個人的にはエリンギの上位互換だと思っている
:フランクフルトの亜種としてアメリカンドッグを押す。衣がナニを意味しているのかは察していただきたい
:いきなり最終兵器の登場ですよ。ジャイアントハイランドバナナだと思います
:どんなもんだろうと検索してみたら予想の数倍デカくて驚いたwww
:これが本当にワンユウ茸のサイズだったら本体は化け物じゃないですか!!
:未だかつて無い最低の弄り方をされてる総帥の心境はいかに
:これはワンユウ茸の話であってワンユウ総帥の話ではない。ソウダネ?
ワンユウ:そんな建前がまかり通ると思ったら大間違いだぞ、野郎共
:ヤベッ! 本体が降臨しなすった。激おこプンプン丸だぞ絶対
:総帥、これはあれだよ。飲み会の流れみたいなもんだよ。酔ったらこう言う話題になったりするでしょう?
ワンユウ:悪いが俺は今シラフだ。しかもこれヨウツベで流れてるんだぞ。動画配信されてんの。何で俺のアレのサイズが配信で話題にされないといけないんだよ。セシリー、これは少々やり過ぎでは?
:これは本気でヤバいかもしれん。心の広い総帥でもさすがにワンユウ茸サイズの話題は笑って済ませられないんだろうな
:そりゃ怒るだろ。オレだったら怒りで金髪になっちゃうよ
:あのキノコだと? ――ワンユウ茸のことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
:もう皆これがパリオのゲーム配信だって忘れてるよ
:既に下ネタ雑談枠と化してるぞ。そんな空気の中でガブちゃんが頑張ってパリオをプレイしているというカオスっぷりよ
『ワンユウさん、セシリー先輩も悪気がある訳じゃないので――』
『丁度よかったデス、ワンユウ様。松茸、アメリカンドッグ、ジャイアントハイランドバナナが新たに候補に出ましタガ、どれがワンユウ茸のリアルサイズに近いデスカ?』
『――やっぱり悪気の塊かも知れないです』
悪ノリするセシリーをフォローしようとしたガブであったが、ワンユウ茸のサイズに執着するセシリーを見て早々にさじを投げた。
画面ではパリオが破壊した樽の中から黒いカバンが出現し、それに触れたパリオがサラリーマンを彷彿とさせるスーツ姿になった。
無職のパリオはこのように樽の中から出現したアイテムを取得することで就職と言う名のパワーアップを果たす。
サラリーマンパリオはダメージを受けると元のパリオに戻ってしまうので、このゲームはパリオをアイテムで強化し能力を駆使してステージをクリアーしていくのがミソだ。
ガブはセシリーの応援もとい邪魔をされて本来の操作が出来ず道中死にまくった。このままではガブがゲームに集中出来ないので俺がセシリーの相手をする事に決めた。
:「セシリー、君はこの配信をメチャクチャにする気か? ワンユウ茸の事は忘れなさいよ」
『ワンユウ様、ワンユウ茸のサイズをリスナー達が知りたがっているんデス。だからこそ私にはその真実を追求する義務があるのデスヨ』
:「……本音は?」
『ワンユウ茸のサイズが明るみになれば私も皆も面白おかしく暮らせマス』
:「その引き換えに俺がネットの海で笑いものにされるんだよ。鬼かお前は!!」
『鬼ではありまセン。受付嬢デス』
くそっ!! こんな最低な絡み方をしてくるなんて予想出来なかった。このアホAIを本当にデリートしてしまいたい。
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