ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第107配信 GTR 1日目 パトライバー起動
第107配信 GTR 1日目 パトライバー起動
病院の車両を借りて俺とガブは工場に移動した。既にそこにはパトカーが一台止まっていた。どうやら既にサリッサとクロウが到着しているみたいだ。
「早く行きましょう!」
俺を連れて工場の中に入っていくガブリエール。部外者を勝手に入れて怒られても知らないぞと思いながらもやっぱり工場に来ると興奮する。
工場の中にはロボットのパーツが大量に置いてあり、その一区画に人が集まっていた。後ろ姿で分かる。青いロングヘアーの女性はサリッサで緑色の髪の女性がクロウだ。
二人は公式の設定上、騎士と暗黒騎士というライバル関係にあるが実際はお互いドMで仲が良い。そんなドM二名がロボットに乗るのでこれからどんな目に遭うのか気が気では無い。
「すみません、遅くなりました!」
「わたしとクロウも今到着したところだ。そちらの女性は?」
「例の自転車泥棒さんです。署に戻る途中で色々あって、そしたらユニ先輩から連絡を貰ったんです」
「ほう、そうか……」
サリッサが値踏みする様に睨みを利かせて近づいてくるとゆっくりと口を開いた。
「お前はSかM……どっちだ?」
「……初対面の人間に対する質問がそれですか?」
警察はもうダメかも知れない。俺にそう思わせるだけのインパクトがこの一言にはあった。
「サリッサ先輩、いきなりそれはちょっと……」
「言っておくが警察のメンバーは全員Mだ。強気で挑んでくれば隙を突いて逃げられるかもしれないぞ」
「ああっ! それは言わない約束だったじゃないですか!!」
ガブが赤面して抗議している。今は確認出来ないがきっとコメント欄はガブリエールはマゾというネタで賑わっているだろう。
「ええと、お……私はどっちかと言うとS……ですかね?」
「な……なんひゃと!? しゃてはおみゃえ……オークか?」
「違います。興奮して呂律回ってないですけど、大丈夫ですかこの警官?」
「問題ないわ。何故なら警察メンバーの大半はサリッサと同じように自分よりも強い者に虐げられる事に悦びを感じるMばかりだからね」
「だからそういうのを大問題って言うんだよ! あんたら犯罪組織に勝つ気ゼロだろ。ボコボコにされて辱めを受ける気満々だろ?」
「くふっ、このNPC……中々言葉責めに長けているわね。高鳴ってきたわ!」
思っていた通りサリッサもクロウもドMの本能に忠実になってゲームを楽しもうとしてるよ。
この面子にアンバー姉妹が合流したとして街の平和は守られるのだろうか? 風紀乱れるいかがわしい街のイメージしか湧かない。
「何か騒がしいと思ったら、ガブも到着してたのね。――そちらの女性はNPCかな?」
「すみません、ユニ先輩。この人も一緒に<パトライバー>のお披露目を見ても良いですか?」
「別に構わないよ~。ギャラリーは多い方が盛り上がるからね。それでは<パトライバー>のお披露目といこうか」
作業着姿のユニが意気揚々とスイッチを押すと派手な機械音が聞こえてきた。
前方に横たわっていた三つの巨大な何かがハンガーごと起き上がるとシートが外れてモノトーンカラーの機体<パトライバー>三機が姿を現わす。
スリムな体型のスタンダードな人型の機体――うん、とても格好良いと思うのだがやっぱり何度見ても本家に何となく似てるヤバい機体だ。
冷や汗が流れる俺とは対照的にガブ達は嬉しそうだ。この攻めたデザインを見て喜べるとはさすが配信者。ノミの心臓の俺とはスペックが桁違いだ。
「どうかな、この<パトライバー>は? 本家パ〇レイバーの流れを踏襲しつつ、モビ〇スーツに寄ったデザインにしてみたけど気に入って貰えたかな?」
「最高です、ユニ先輩! これはまさに趣味の世界です。早速乗ってみても良いですか?」
ユニが返答しようとしたところで警報が鳴り響いた。これはまさか……。
「今の警報、『ネオ出島』内でロボット窃盗と宝石店で強盗があった。どうやら同じギャングの犯行らしい。わたし達に出動命令が出た。いきなりだが<パトライバー>を出す事になる。ガブリエール、クロウ、行くぞ!」
「了解! 練習無しにロボットに乗る事になるなんてアニメみたいな展開ね」
「了解しました。自転車泥棒さんはここで待っててください。犯人を捕まえたら迎えに来ます」
「分かりました。お仕事頑張ってください」
ガブリエール、サリッサ、クロウが機体の胸部コックピットに乗り込むとハッチが閉じた。
俺はユニの目を盗んで物陰に隠れると配信画面を表示し確認する。すると丁度<パトライバー>起動中のガブ達の様子が配信されていた。
<パトライバー>の頭頂高は十メートルとそんなに大きい機体ではないのでコックピットも割と狭い感じだ。その中で操縦系パネルが点灯し『Autonomous Sensory Meridian Response』とOS画面が表示される。
機体の起動シークエンスが進む中、ガブは手順を確認しながら操作していた。
『ええ……と、OSが立ち上がったから次は……そうだ! バイノーラルタイプ、ケーユーイチマルマル! これで動くハズ……』
起動時の音声入力が完了するとガブの<パトライバー>の起動準備が整い機体の両目が発光した。そして少々おぼつかない足取りでガブリエール機が歩き出す。
危なっかしかったのは最初だけでGTRをやり込んでいたガブはすぐに感覚を掴み彼女の<パトライバー>は安定した動きを見せる。
それに少し遅れる形でサリッサとクロウの機体も動き出すと三機は工場から出て現場に向かって走って行った。
俺は三機の出動のどさくさに紛れて工場から脱出すると<パトライバー>の後を追うため病院の車両に乗って移動を開始した。
『ふぅー、やっと喋れマスネ。まさかこんなに早くからドンパチになるとは思いませんでしたネ』
ずっと黙っていたセシリーが周囲に人が居なくなったので喋り出す。俺は配信画面を表示し状況を確認しながら現場に向かう。
「ロボット窃盗と強盗をしたギャングは恐らくNPCだろうな。ぶいなろっ!!メンバーのギャングチームは犯行をする程ゲームにはまだ慣れていないだろ」
『そうでショウネ。まずはNPCのギャングの手口や警察の対処法を観察して今後の自分たちの犯行に活かすのがセオリーデス』
この時まではそう思っていた。現場に到着した時は<パトライバー>三機と窃盗されたロボット四機が睨み合っていた。
窃盗されたロボットは建築現場で使用されるずんぐりむっくりしたパワータイプだ。
総合的な性能では<パトライバー>が圧倒しているもののパワーだけは窃盗ロボの方が上だ。普通に戦えば結果は歴然だが果たしてどうなるか――。
配信画面を表示して状況を確認すると驚いた。あの四機の窃盗ロボを動かしているのはぶいなろっ!!のギャング四人組だった。セオリーとは何だったのか……。
『あのギャング達は説明書を読まずにプラモデルを作り始めて途中でグダグダになるタイプデスネ』
「取りあえずやってみようの精神で窃盗と強盗やったのか。行動力……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます