第106配信 GTR 1日目 ミニスカポリスガブリエール

 『ネオ出島』に行くために盗んだ自転車で『オーロラブリッジ』を渡り始めてふと思った。


「そう言えば、ぶいなろっ!!メンバーは皆ログインしたのかな?」


『おそらくハ。今頃は各々の組織でミーティングをしたりロボットを受け取ったりして序盤の進め方を考えているのではないでショウカ? 今のところバグ出現の反応は無いですし、まずは警察にでも行ってミマス?』


「そうだね」


 『オーロラブリッジ』を渡りきり『ネオ出島』に入ると警察組の本拠地である出島署に向かう。

 その道中パトカーとすれ違うと、その車両はUターンして俺を追ってきた。


「な、何だ!?」


『そこの自転車止まりなさーい!』


 聞き覚えのある声がパトカーから聞こえてくる。近くには他に自転車に乗っている者は居ないので多分俺の事なのだろう。

 自転車を止めてその場に留まると近くにパトカーが止まり中からミニスカポリス衣装に身を包んだガブリエールが降りてきた。

 

『いきなり彼女とゲーム内で遭遇とは持ってマスネ、ワンユウ様』


「いいからお前は隠れてろ」


 セシリーと小声でやり取りしていると訝しんだ表情のガブリエールが近づいてくる。

 GTRの警察官用にデザインされたミニスカポリス衣装。スリット入りのタイトなミニスカから覗く太腿……控えめに言ってエロ素晴らしい。


「今何か隠しませんでした?」


「いいえ、何も隠してませんよ? それよりも私に何か用ですか?」


 俺のアバターがファイプロスタッフだと分かるとぶいなろっ!!メンバーが配信をやりくくなるだろうとの事で基本的に俺はNPCとして振る舞う事になっている。

 セシリーのデータを反映させた事でぶいなろっ!!サーバーのAIレベルは向上し、AIによって自律行動するNPC達は本物の人間の様に振る舞う事が可能になった。

 つまり普通に接していれば俺がプレイヤーだとバレずに済むという算段だ。


「先程、『ナロンゼルス』の港区域で自転車が盗まれたと通報がありました。あなたが乗っていた物とデータが一致したのですが、あなたが窃盗したという事で間違いないですか?」


「あ、はい……済みません。つい出来心で……」


 何てこった。まさかこんな形で警察と顔を合わせる事になるとは。どうせ捕まって叱られるのなら自動車窃盗あたりの方がマシだ。自転車泥棒で捕まるなんてかっこ悪すぎん?


「詳しい話は署で聴きます。パトカーに乗って貰えますか?」


「……は? 自転車窃盗レベルで警察署に連れて行かれるんですか? 厳重注意だけじゃないの!?」


「事件に大きいも小さいもありません!」


「なにぃ!?」


 この天使……既に心が新人警察官になっている。俺には分かる。初めて犯人を捕まえたんで嬉しくなって皆に見せびらかしにいくつもりなんだ。こいつはもうアマゾネス警察官だ。

 ……ちょっと待てよ。どの道俺も出島署に行くつもりだったから、考え方次第ではタクシー代わりと言えるのでは?


「抵抗したら公務執行妨害になっちゃいますよ? 刑が重くなっちゃいますけど、それでもいいですか?」


「いえいえいえ! 済みませんでした。それじゃ警察署まで連れてってください」


 パトカーの後部座席に勢いよく乗り込むと運転席にガブが乗り込んで走りだした。ぶいなろっ!!サーバーの前にGTRをやり込んでいただけあって中々に運転が上手い。


「運転お上手ですね」


「えへへ、ありがとうございます」


 調子に乗ったガブがパトカーの速度を上げて間もなくカーブを曲がりきれず電柱に激突。シートベルトをしていなかった俺はその衝撃でパトカーから投げ出されて道路に叩きつけられた。


「ぐふぉああああっ!!」


「いやあああああああっ!! だ、大丈夫ですか!?」


 大破したパトカーから無傷で降りてきたガブが俺のもとへやってくる。これがシートベルトをしていた者としていなかった者の差か……。にしたって無傷はスゲーよ。


「ぐ……ぐふっ! ら……らいじょうぶ……生きてまふ……」


「ごめんなさい、私の運転が下手だったから。すぐ近くに病院がありますから、そこで治療を受けましょう!」


 一応俺のアバターは運営仕様なので致死的ダメージを受けても死なない。言ってしまえばギャグ漫画のキャラみたいに無敵だ。炎に包まれても髪がパンチパーマになって身体の表面が黒くなるだけで済む。

 しかし、ガブの乱暴な運転で受けたダメージは絶妙なレベルで通ってしまった。まさかこいつの神がかったボケに殺られそうになろうとは……。


 ガブに連れられて病院に到着すると医療班の二人組、アンナマリーとフェニスが出てきた。


「アンナ先輩、フェニママ、助けてください!」


「あらあらまあまあ、どうしたのかしらガブちゃん」


「私がパトカーで事故って吹っ飛ばしちゃったんです!」


「GTR開始三十分以内でNPCをここまでズタボロにするなんて、さすがガブちゃんね」


「ごめんなさい~!!」


「あの……三人で楽しそうにしてるとこ申し訳ないんですけど……助けて……」


 視界がぼやけてきた。このままでは死ぬ! 死ぬはずのない、このアバターが天使のミラクルによって死の一歩手前まで追い込まれてる!


「主よ、この哀れな子羊に救いを……と言うわけで、心臓マッサージを開始しっま~す! せーのっ! 戻ってこい! 戻ってこい!! 戻ってこ~いっ!!!」


「かはっ!? も、もっと優しくぅ……あ、視界が……定まってきた」


 普段はおっとりボイスのシスターアンナマリーのドスの利いた声と力強い心臓マッサージによって瀕死状態から回復した。ちょっと予想とは違う感じだったけど……とにかく助かった。


「あらあら残念ねぇ。あたしも応急処置をしてみたかったのだけれど、元気になってしまったから、また今度かしら?」


「……ちょっと待ってくださいね。今すぐそこの柱の角に頭打ち付けてくるんで、そしたらお願いします」


 分かってる! こんな事しちゃいけないって分かってるんだよぅ!! でもさぁ、あのフェニママに介抱されてみたいじゃん? あの溢れんばかりの母性に癒されてみたいと思うのは男だったら当然でしょう!? 


「何だかあのNPCさん、妙に生き生きしてますね。セシリー先輩もそうですけど、最近のAI技術って凄いですね」


「うーん、AIもそうだけどぉ、何て言うか女性ではなく男性みたいな反応してないかしら? 何か息づかい荒くて怪しくない?」


 やべっ、このままではプレイヤーどころか中身が男だとバレてしまう! 平常心……非常に名残惜しいけど平常心やで。


「警察官さん、警察署……行きましょうか」


「凄い哀愁漂う表情していますけど本当に良いんですか? あ……ちょっと待ってください。連絡が入って……ユニ先輩からだ。はい……はい……えっ、もう完成したんですか!? はい、分かりました。今すぐそっちに行きます!」


 ガブは電話を切ると目をキラキラ輝かせていた。これは一体……。


「どうしたのガブちゃん? 凄く嬉しそうだけれど」


「へへへ、実は警察用のロボットが完成したらしいんですよ。これから受け取りに行く事になったんです」


「こちらのNPCさんはどうするの?」


「一緒に来て貰います。ロボットの受け取り場所にはサリッサ先輩とクロウ先輩も来るので大丈夫です! それじゃ行きましょう」


「警察のロボットのお披露目に一般人が立ち会っていいんですか!?」


「いいんです! おめでたい事なんですから大丈夫ですよ、きっと」


 ホントかよと言いかけたが、警察用ロボット――<パトライバー>を間近で見られるのは楽しみだ。ここは大人しく付いていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る