第108配信 GTR 1日目 ロボでレッツSMプレイ

 合計七機のロボットによる睨み合いの組み合わせは、ガブリエールVSサターナ、サリッサVSルーシーとノーム、クロウVSシャロンとなっている。

 ぶいなろっ!!サーバーが開始されて初めてのロボ戦だ。ワクワクすっぞ。


 ガブの<パトライバー>がジリジリとサターナ機との間合いを詰める。アクションゲームや対戦ゲームに慣れているガブなだけあって無難な動きを見せている。

 

『サターナ先輩、ロボット窃盗と宝石強盗の罪で逮捕します!』


『ニャハハ! 見せて貰おうか、警察の新しいロボットの性能とやらを!!』


 突然サターナ機が飛び出し<パトライバー>にパンチとキックを繰り出す。

 見た目鈍重な機体からは想像出来ない軽快な動きだ。サターナの連続攻撃をガブは紙一重で回避していく。


『くっ、速い……サターナ先輩がここまでロボットの扱いが上手いなんて』


『猫だからロボを扱えないといつから錯覚していた? ニャンコ神拳を受けてみるにゃ。アチョ、アチョ、ホアタァーーーーーーーーー!!』


 正統派な戦いを繰り広げるガブとサターナ。その一方で妙な雰囲気を醸し出しているのはサリッサ、ルーシー、ノームの対戦カードだ。

 <パトライバー>サリッサ機の動きがおかしい。ルーシー機と向かい合ったまま少しずつ移動しノーム機に背中を向けた位置で止まると、そこから動こうとしない。


「これは……」


『あれではわざとノーム様に背後を見せている様なものデスネ』


 わざわざ口に出さないまでも俺とセシリーは理解していた。――あれは確信犯だ!!

 警察だけど確信犯。もうね、あのサリッサというドM警官の考えが手に取るように分かるよ。

 ノームもそれを分かってか敢えてサリッサに近づこうとはしない。ルーシーはその場から動かずサリッサの動向を窺っている。

 膠着状態が暫く続き、我慢しきれなくなった……もとい痺れを切らしたサリッサがルーシーに正面を向けたまま後ろに下がっていった。

 するとどうでしょう。車をバックで駐車場に止めるみたいに<パトライバー>がガッシリ体格ガテン系ロボの腕の中にすっぽり入って拘束されてしまいましたよ。


『し、しまったぁー! わたしとした事が油断したぁ~。いつの間にか後ろを取られていたなんてぇ~。に、逃げられない~!』


『はぁっ!? ちょ、今の何? バックして自分から捕まえられに来たんだけど。余りに自然に収まったから逆に反応出来なかったよ。え……これどうすんの!?』


 サリッサの訳分からん行動に困惑するノーム。真っ直ぐな性格の彼女にとってドMが考える事は理解出来ない。その時近くに居たのは天使のような悪魔の笑みを浮かべる堕天使だった。


『ノーム先輩、サリッサ先輩をしっかり捕まえておいてくださいね。自分からは多分逃げないでしょうけど、形だけでいいので』


『分かった……ルーシー、これからどうする? 何か<パトライバー>から荒々しい呼吸が聞こえてくるんだけど……』


『く、くそぉ~、何てパワーだ。野太い指に捕まって振りほどけない~!』


『嘘吐け! こっちは全然力入れてないんですけど』


 仕方なくノーム機はサリッサの<パトライバー>を後ろから軽く羽交い締めにした。抵抗すれば簡単に逃げ出せる優しい感じの拘束だ。

 それにも関わらずサリッサは逃げ出そうとせず、彼女の前にはルーシー機がゆっくりと近づいてきた。


『本当にしょうが無い先輩ですねぇ』


 言うと同時にルーシー機が<パトライバー>の横っ面を引っぱたいた。


『はぅんっ!』


『ふふっ、嬉しそうな声を出しちゃってぇ。――これが欲しかったんでしょう?』


 それから連続して右、左、右、左と交互に平手打ちをかましていく。

 興奮しているのか次第にルーシーの息遣いも荒くなっていき、二機のロボットから搭乗者のあられもない声が聞こえてくる。


『ハァ、ハァ、ハァ……これでどう!?』


『ふぅ……ふぅ……ふぁぁぁぁぁん! ま、まだだ、わたしはまら……戦えりゅぅぅぅぅぅぅぅん!!』


『……いや、無理だろ。先輩だけど……サリッサ、あんたバカだろ!! 今配信中だからね? ドMなのは分かるけど浸りすぎだからね!? ルーシーもドS止めてぇぇぇぇぇぇ!!』


 ノームの悲痛な叫びが周囲に木霊する。既にノーム機はサリッサ機の拘束を解いていた。俺たちの目の前には膝立ちする<パトライバー>の頬を連続平手打ちするルーシー機というアブノーマルな光景が広がっている。


 信じられるか? 人型ロボットでソフトSMする狂った映像が配信されてるんだぜ? コメント欄でもリスナーはどうコメントしたらいいか分からなくて困ってるよ。

 まさかGTR開始早々にこんなセンシティブなのかセンシティブじゃないのか判定し辛い訳わかんない状況になるとは考えもしなかったよ。俺の予想の斜め上をジェットエンジン噴かして飛んで行く衝撃だよ。


『ワンユウ様、衝撃の事実が発覚シマシタ』


「……なんだい、セシリーさん?」


『GTR開始からまだ一時間も経過していまセン。いやー、好調なスタートデスネ』


「もうバグとか関係無しにあいつら自身の暴走でBANされるんじゃね? VRゲームのせいか普段の配信よりも行動と言動が自由奔放すぎるんだよ!!」


 そう言えばもう一人のドM警官クロウはどうなっているのかと思い恐る恐る彼女の方を見ると意外な事にクロウの<パトライバー>がシャロン機を圧倒していた。

 腕ひしぎ十字固めが見事に決まりシャロンの絶叫が聞こえてくる。


『あいったーーーーーー!! いた、いた、痛いっつーの! このバカバカバカバカクロウ! ドMのクセに生意気ーーーーー!!』


『はいはい、そんな小学生でも言わなそうな罵倒で悶える程わたしは安いドMじゃないのよ。ドMにはドMなりの矜持きょうじってものがあるの。お分かり?』


 クロウ機がシャロン機の腕をグイッと引き寄せると関節部からミシミシと限界レベルの音が聞こえてきた。それに応じてシャロンの絶叫もパワーアップ。

 このゲーム、プレイしていて痛みは感じないので雰囲気痛覚だと思うが迫真の演技だ。ついでに言うとロボットのダメージだから搭乗者は無傷なんだがなあ。


『あだだだだだだだっ!! もげるもげる腕がもげる! ギブギブギブッ!!』


『ふぅ~、今日はこれぐらいにしておいてあげるわ。あんたのなんちゃって罵倒じゃズンッと響かないのよねぇ。それに比べたらさっきの自転車窃盗犯が見せた軽蔑の眼差しとまくし立てる説教は良かったわね~。まるで普段から言い慣れているかのような安定感と攻撃力があったわ』


 クロウVSシャロンの同期対決はクロウの圧勝で終わった。ドMに分からせられたシャロンはぶいなろっ!!メンバーの中でも最弱。


『何気にクロウ様のドM本能を刺激していたみたいですね、ワンユウ様』


「言わんといて――そろそろガブの方も決着が付きそうだな」


 最初はサターナ優勢かと思われたガブVSサターナであったが、早々に状況は一変していた。


『ニャニャニャッ!? うぁぁぁぁぁ、にゃんだか目が回ってきたにゃ……うぷ』


『サターナ先輩大丈夫ですか!? すぐに終わらせますから』


 コックピット酔いでフラつくサターナ機に<パトライバー>の情けの足払いが決まってノックダウン。ギャングの頭は乗り物に弱い事実が発覚した。

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