第29配信 ソレイユ③

コメント

:生ラブラボSUGEEEEEEEEEEEEEEE!!!

:一曲目からこんなに盛り上がってりゅうううううう!!

:ガブちゃん歌うんまあああああああああっっっ!!

:前世のアーカイブの頃よりも更に腕を上げてるぞこれは!

:ASMRじゃないのに耳が蕩けりゅぅぅぅぅぅぅ!!

:これがワンユウナマコメントと言っていたライバーと同一人物だというのか!?

:いやいや、ナマが欲しいと歌っていた時も綺麗な声していたザマス

:これは最早バーチャル武道館ガブリエールライブと言えるのではないでせうか?

:隊長……これは凄いことになってきましたよ!

:ああ、正直ここからどうなるのか予想がつかん。二等兵はどう読む?

:自分にも分かりません。一曲目でラブラボを投入してくるなんて予想していませんでした

:軍人三人組か! いつもならセンシティブ関連でしか出没しないのに歌で出てくるなんて珍しいな

:ラブラボが一曲目に来るのって問題でもあるの?

:前世時代ラブラボはいつも中盤から終盤に投入されていた

:盛り上がってきた重要な局面で歌われていたんです

:だから前世リスナー組からすると、一曲目にラブラボが来るのは異例で先が読めないと

:なるほど。それじゃ二曲目以降は何を歌うのか気になるなぁ



 ガブリエールの歌声が絶賛される中、一曲目のラブラボが終了した。

 そして間髪入れずに次の曲のイントロが流れる。それは前世の彼女の曲リストには無かったものだった。


『二曲目は私のオリジナル曲の『使徒さんと私』です! コメディタッチの歌詞で面白い曲に仕上がってますよ~!!』


 こいつは驚いた。まさかラブラボの次に用意していたのがオリジナル曲だとは思ってもいなかった。

 使徒さんと私はガブリエールとガブリスのドタバタな日常を描いた歌詞で終始明るい曲調で聴いていて楽しい気分にさせてくれるものだった。

 一曲目のラブラボから二曲目も良い感じで繋がり、その後も盛り上がりながら歌配信は進行していった。


 気が付けば俺も夢中になってコメントを打ちまくっていた。ついさっきまでウジウジ考えていたのが嘘のように気分が晴れやかだ。

 3D歌配信のバーチャルライブ会場の作り込みもかなりのもので、ガブリエールの曲に合わせて照明の色や照度が変化し、ライブ会場の仕掛け全てがガブリエールの魅力を引き出すために機能している。

 これだけの歌配信はとても単独で実現できるものじゃない。配信を支えるスタッフの協力があって初めて成立するものだ。


 過去へのわだかまりが無くなった今では素直にガブリエール本人の凄さと、ライバーを支えるぶいなろっ!!スタッフの手腕に驚かされてしまう。

 俺は今、太陽の卒業配信の時に垣間見た幻のステージを現実のものとして観ているんだ。


 歓声のコメントが打ち込まれていく中、曲が終わると照明が全て消えてステージが真っ暗になった。

 しばらくの静寂の後に一つのスポットライトが再びガブリエールを照らすと、いつの間にか衣装が変更されていた。


 リボンで彩られたドレス姿――その姿を見た瞬間、俺は胸が熱くなるのを感じた。

 リボンは太陽のチャームポイントだった。太陽はリボンが好きで彼女が実装していた全ての衣装にリボンが付いていた。

 雑談ではリスナーにリボン好きなのをネタとして弄られる事もあったりした。


 今、ガブリエールのドレスには空野太陽の全衣装を象徴するリボンが一つずつ付けられている。

 衣装の一つ一つは太陽とリスナーが一緒になって考え生み出したもので、リボンの一つ一つにその想い出が詰め込まれている。

 あの頃の想い出全てをまとってガブリエールはこのステージに立っているんだ。


『はぁ……はぁ……ふぅ……、ここまで配信を視聴してくれたリスナーの皆さん、ありがとうございます! 次が最後の曲になります。――この曲は私のオリジナル曲で、私にとって特別な一曲です』


 ここまで言うとガブリエールは目を閉じて微笑んでいた。何か楽しい出来事を思い出しているような、そんな表情をしている。


『……この曲には私が作詞担当として携わらせて頂いています。作詞をするのは初めてだったので大変でしたが、私の想いを全て書き綴りました。実は昨日完成したばかりだったりします。それでは歌います。――曲名は『ソレイユ』』


 ステージは照明の淡い光によって照らされて日の出のような優しい明かりで包まれた。

 ガブリエールは朝日が差し込む舞台の上で穏やかな優しい声色でソレイユを歌い始めた。それはとても……とても優しい歌だった。


 歌詞に込められたのは空野太陽時代に抱いていた彼女の想い。


『最初は不安で仕方が無くて、それでももう少しだけ頑張ってみようと思う日々。その中である日、一人の天使さんと出逢い二人で頑張っていく中で少しずつ、少しずつ仲間が増えていった。誰かが一緒に居てくれる事の喜びと温もりと優しさに感謝し時が流れる。大樹が見守る草原に寝そべりながら皆と一緒に暗くなるまで笑い語り合う。例え別れの時が来たとしても私はこの想い出を忘れない。例え太陽が沈んで夜になったとしても私はこの想い出を忘れない。例え……天使になって姿が変わったとしても私は絶対にこの想い出を忘れない。この大切な想い出を歌詞に綴って私は歌うんだ。想い出を元気に歌って天使の翼で空を翔ぼう。そうしたらきっと……きっと……再び太陽が空に昇る時に、あの天使さんがまた私に気が付いてくれるハズだから。そして一緒に翼を広げて歌いながらこの大空を翔び回るんだ』

 

 ソレイユは終始穏やかで優しいバラード曲だった。ガブリエールが言っていた様に歌詞には彼女の想いが凝縮されていた。

 歌を聴いている時に太陽と出逢ってから別れるまでの想い出が一つ一つ想い出される。最初は中々視聴者数が伸びなくて大変だったけど徐々にリスナーが増えて賑やかになっていった。

 それはきっと今の彼女と比べれば本当に少人数のちょっとした集まりだったかも知れない。でも、それでもくだらない事で怒って笑って、時が流れるのも忘れて語り合った楽しい日々だった。

 最後の別れの時の悲しさも後悔も俺は今も覚えている。でも、この歌はそんな俺の後悔すらも呑み込んで優しく包んでくれる。

 

 彼女の歌から伝わってくる優しさに心が震えて次々に涙が溢れ出てくる。

 俺は勘違いをしていた。この歌配信は鎮魂歌レクイエムなんかじゃ無かった。この曲は……ソレイユは、ガブリエールの過去を肯定し未来へ続く希望の曲だった。

 かつての彼女を幻想ごと引き受け認めて優しい天使の翼で共に翔ぼうという協奏曲コンチェルトだったんだ。

 だからこの曲のタイトルに『ソレイユ』――フランス語で『太陽』の意味を込めたんだ。

 

 ソレイユが終わるとコメント欄は再び絶賛の嵐になり、ちょっとやそっとじゃ落ち着かない状況になっていた。

 俺のスマホにはAINEの着信が入っていて、ガブちゃん愛してるグループの連中がどいつもこいつも泣いていた。

 ガブリエールは休まずに一時間以上歌い続け、さすがに息を切らせていた。それでもとても満足そうに笑っている彼女を見て俺は嬉しくなった。

 あの歌配信が最後なんかじゃない。ガブリエールは前世の想い出もひっくるめて、俺たちリスナーと一緒に翔んでいく。そんな彼女と一緒にこれから見られる光景が今は楽しみで仕方が無い。

 本当に……本当に成長したなぁ、ガブリエール。俺はそれが凄く嬉し――。


『ワンユウさぁーーーーん!! ソレイユ聴いてくれましたかぁ~!? あの出逢った天使さんってワンユウさんの事ですからね~。なのでこれからもよろしくお願いしまぁーーーーす!!』


:「ああ、もう! その最後の台詞でせっかくの良いムードが台無しだよ!! そう言うところは本ッ当に成長しないのな、お前!!!」


 それで最後は結局コメント職人が大騒ぎしてガブリエール初の歌配信は終了となりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る