第30配信 初めまして、私は……①
ガブリエールがデビューしてから一年近くが経過していた。
初配信で即前世バレするポカをやらかしたものの、それからは割と順調に配信をしていった。
デビュー後二週間足らずで収益化となりメンバーシップを開放、ゲーム配信や歌配信の他、ぶいなろっ!!メンバーとのコラボを重ねていき今ではすっかりメンバーの一員として馴染んでいる。
デビューから半年が経過する頃にはチャンネル登録者数は百万人を超え、このまま行けば二年目には登録者数は二百万人に到達する見込みだ。
ガブリエール以外の六期生メンバーも人気に火が付き、デビュー一周年が近づいてきた今では全員がチャンネル登録者数百万人を超えていた。
六期生リーダーのアマテラスは最初こそ清楚な方言お姉さんを売りにしていたが、今ではすっかりぶいなろっ!!の空気に染まり変態性が開花、刀剣に関しての説明配信では擬人化した刀剣
ベルフェは二期生の魔王サターナと契約している公式設定もあってか頻繁にコラボする仲になっている。
一期生のメルア姫も加えて三人でエロゲー談義に花を咲かせている。中々センシティブな内容ではあるが、BANされないギリギリラインを攻めて面白い配信をしている。
特にサターナとは
ルーシーはガブリエールとの初コラボ以降、堕天がどうこうと言った行動はやってはおらず、持ち前のメスガキムーブとセンシティブ発言を駆使しM気質のリスナーを多く従えている。
それとBANを食らったバキュームフェ……ソフトクリームASMRの噂を聞きつけた二期生のセリーヌからちょいエロASMRの手ほどきを受けて進化を遂げた。
六期生が活動を開始してからぶいなろっ!!の人気は益々勢いを増していった。箱推しの俺としては嬉しい限りだ。
そんな感じで今日も今日とて俺は推しのガブリエールの配信を視聴している。
『ワンユウさんは、何か配信して欲しいゲームはありますか?』
:「うーん、そうだねぇ……」
『昔みたいに難易度高めのレトロゲーム配信なんてどうですか?』
:「レトロゲームか。懐かしいな……」
ふとガブリエールの前世である太陽と初めて遭遇したポコボイの謎のゲーム配信を思い出す。あれからもう四年近くが経過しているんだよなぁ。
子供の頃は一年がやたら長く感じたけれど大人になるにつれて時間の流れが早くなっていく様な気がする。
:「レトロゲームも良いとは思うんだけど気になっている作品がありまして。……その、『バニーメイデン』などは如何でしょうか?」
『バニーメイデンですか?』
コメント
:聞きましたか、皆の衆。殿が処女ウサギを所望しましたよ!
:あらあらあら、何てイヤラシイ
:殿もお好きですこと
:確か今、
:ええ、最近多くのライバーが嗜んでいるみたいですことよ
:何でも、かなりエッチな内容なんだとか……
:んまっ! その様なエロいゲームを推しに勧めるだなんて……
:本当にイヤラシイお殿様ですこと
:オホホホホホホホホホホオホホホオホオホォ!
:途中からオホ声になっていますわよ。はしたない
:ごめん遊ばせーーーー!
今日もガブリスは元気にコメント欄で職人活動をしている。
この間、一期生の悪役令嬢ルイーナとコラボしてからお嬢様口調でコメントするのが流行り、巡り巡って女中の会話みたいになっている。
バニーメイデンはメイド喫茶でうさ耳を着けたメイドさん達と恋愛を育む恋愛アドベンチャーゲームだ。
通称処女ウサギで露出度の高い制服を着たメイドさんのパンチラ、ブラチラ、その他にも何かしらのチラリズムを楽しむゲームでもある。
かなりエッチな作品ではあるもののギリ配信できる内容なので先日発売してから多数のVTuberが配信している。
なので俺としても是非ガブリエールにプレイして貰いたいと思った。
決してエッチなゲームをプレイして恥ずかしがっている彼女を観たいという訳では……いや、それが目当てだったりします。ごめんなさい。
『バニーメイデンでしたら近々プレイする予定だったんですよ。それじゃ、次回配信はバニーメイデンにしますね』
:「ホント!? やったー!!」
他のガブリス同志諸君も喜びのコメントを打ちまくる。いやー、これは次回配信が楽しみだぜ。
『それでちょっとお知らせなんですけど、配信環境の改善で引っ越しがありまして一週間ほど配信をお休みさせて頂きます』
ガブリエールは配信頻度が高いことで定評があり、一週間配信が無いのはデビューしてから初めてのことだ。寂しい気持ちはあるが、ガブリエールの引っ越しがつつがなく終わる事を願ってこの日は終了となった。
――その翌日。週末である今日と明日は会社が休みでガブリエールの配信は一週間お休み。ぶっちゃけ暇だ。
趣味の小説投稿は朝起きて頭がシャキッとしているうちに済ませたが、まだ午前中。やることが無い。
「……久しぶりに昼は外で食べるかな」
独り身も長くなると一人外食も苦にならなくなってきた。
焼き肉、ファミレス、回転寿司――周りの目なんて気にせず食べたいものを美味しく食べている。今時、一人で外食に行くなんて普通だ普通。
独り身が寂しいなんて感情はとっくの昔に捨てた。いや、そもそも昔から一匹狼だったんで群れるのは苦手なのですよ、チクショウ!
きっと悲しいのは空腹だからだ。故にお腹を満たせばハッピーになるに違いない。そんな
「あー、今日は天気が良いな。それにちょっと暑い。こんな日は冷たい食べ物が五臓六腑に染み渡るよなぁ。……うん、そうだ。昼は蕎麦にしよう」
マンションから出るとはす向かいの新築一軒家の前から引っ越し業者のトラックが走り出すのが見えた。
そう言えば、この一軒家完成してたな。もしかして今日引っ越してきたのかな?
そんな風に呑気に思っているとトラックが走り去り、一軒家の玄関前にはおびただしい数の段ボールと女性が一人ポツンと佇んでいた。
何だあれは……見るからに途方に暮れている雰囲気が滲み出ている。
女性はしばらく天を仰いでいたが、観念したようにダンボ-ルを家の中に運び始めた。
「えっ……まさか、あの数を一人で運ぶのか? いや、あれは結構大変なんじゃ……」
女性一人で運ぶには段ボールの大きさも数もかなり厳しい状況だ。周囲を見回すがこういう時に限って誰も居ない。彼女に救いの手を差し伸べる善良な人類はいないらしい。
助けたいのは山々だが、このご時世下手に女性に関わると痴漢とかセクハラとか言われポリスメンに捕まってしまう可能性がある。申し訳ないが、ここは見なかった事にして――。
「あ……キャッ!!」
短い悲鳴が聞こえて振り向くと女性が大きな段ボールを持ってフラフラしていた。足元には他の段ボールもあるし、このままじゃ転んで怪我をするかも知れない。
「ああ、もう……!!」
走り込んで女性が持っている段ボールを反対側から持って安定させる。どうやら転倒しなくて済んだみたいだ。
「え……あ」
段ボール越しに女性と目が合うと驚いた表情をしていた。
彼女は亜麻色の長い髪をルーズサイドテールにして眼鏡をかけていた。見た感じだと十代後半から二十代前半といったところだろうか。
新築一戸建ての家に引っ越してきたから若くして結婚した新妻なのだろう。
一目で美人だと分かるし旦那さんが羨ましい。いいなぁ、新婚さん。……本音が出ちゃったよ。
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