第31配信 初めまして、私は……②

 眼鏡美人の女性は驚いた表情をしていた。ここはちゃんと説明をせねば……!


「驚かせて済みません。このままだと転ぶと思って」


「そうだったんですね。ありがとうございます。助かりましたぁ」


 持っていた段ボールを一旦地面に下ろして周囲を見回すと玄関の前は多数の段ボールで埋め尽くされていた。これを一人でやるのはさすがに無茶だ。家族は居ないのだろうか?


「……これを一人で運ぼうとしていたんですか?」


「はい。私しか居ないので……私がやるしか……」


 消え入りそうな小さな声で女性が呟く。少し聞き取りづらかったが綺麗な声だと思う。……いやいや、今はそれどころじゃない。


「つかぬ事を訊きますけど、引っ越し業者は家の中に運んでくれなかったんですか?」


「……荷物は玄関先までと言う契約内容にうっかりチェックを入れていたみたいで。業者さんも今日は分刻みで仕事が入っていて、すぐに次の引っ越し先に向かわなければならないとの事で……こうなってしまいました」


 なるほど、合点がいった。契約ミスでこうなったと。そりゃ一人でこんな状況になったら途方に暮れるわな。


「ご家族はいつ頃戻ってくるんですか? 引っ越し作業を一人にだけ任せるって事はないでしょう?」


「……え? いえ、この家には私一人で住むんですけど……」


「……へ?」


 どう言うことだ? 一人で新築戸建てに住む? どんな経緯でそうなるんだ?


 パターン① 実家が金持ちで可愛い娘の為に一軒家をパパが建ててくれた

 パターン② 金持ちの愛人で一軒家をパパが建ててくれた

 パターン③ ギャンブルで儲かったんでぇ家を建てちゃいましたー!

 パターン④ 女優 家を建てる

 パターン青 人類抹殺しに来た天使

 

 くっ、今のところ思いついたのはこの五択だが……これか!?


「女優さん……ですか?」


「……? 違いますけど」


 違ったか! しかし、素性を色々と訊くのも何だし下手すりゃ痴漢・セクハラ・ポリスメンの逮捕三段活用の流れになりかねない。

 それにしても、援軍が望めないこの状況では俺が手伝うしかないだろう。やるしかない。


「手伝います! この荷物を家の中に運べばいいんですよね?」


「ええっ!? でも、そんな……見ず知らずの人に悪いです。これは私が何とかするので……」


「今日は暑くなりそうですし、そんな環境で一人で作業してたら倒れるかも知れません。それに炎天下に荷物を長時間置いておくのも良くないし……一人よりも二人の方が早く終わります。指示して貰えればそこに運ぶのでやっちゃいましょう!」


「本当に済みません、それにありがとうございます! あ……私、今日この家に引っ越してきた【太田おおた 陽菜ひな】と言います」


「俺は犬飼優です。そこのマンションに住んでます」


「ご近所さんだったんですね。これからよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 太田陽菜さんか、何だか温かみのある優しい名前だ。

 引っ越しの挨拶が済んだ所で荷物を運び始める。太田さんの指示では玄関近くのリビングに運んで貰えれば大丈夫とのことでそこに荷物を運び始める。

 それにしても一人暮らしの割には結構荷物が多い。箱には『機械』と書かれた物がいくつか見受けられる。仕事に関係するものなのだろうか?

 いや、詮索するのは止めよう。知り合ったばかりの人についてあれこれ推測するのは良くない。無心になって荷物を無事に運ぶことだけに集中しよう。


「ありがとうございます。本当に助かります!」


「大丈夫ですから、そんなに気にしないでください。今日は何もする事が無かったので……たまたま通りかかった暇人が気が向いて勝手にやってるだけなので!」


「そんな事ないですよ。例え時間を持て余していても、普通はこんな面倒なことに関わろうとはしないと思います。犬飼さんが優しい人だからですよ」


 優しい人……か。笑顔でそう言われるとくすぐったい感じがする。取りあえず、女性の一人暮らしの家なんだし、あまり長居してはいけない気がする。サクサクやってしまおう。


 気合いを入れて段ボールを運び始めて残り半分になった頃。


「よいしょ……よいしょ……!」


 太田さんが一生懸命に段ボールを抱えて歩いている。その時に俺は見てしまった。


「よいしょ! ……ふぅ……犬飼さんが言った通りに暑くなってきましたねぇ」


 ここに至るまで気が付かなかったがこの人……めっちゃおっぱいが大きい! 段ボールの上に巨大な双丘を乗せて歩いておられる。なん……だ、このサイズ!!

 アカン!! 胸に目がいっている事に気が付かれたらポリスメン召喚になるかもしれない。荷物を運ぶことに集中しなければ……!


 そして作業は進み後半戦に突入。


「あふぅ……汗かいてきちゃったぁ……でも、もう少しで終わる。頑張りましょう!」

 

「そうですね、もうちょっとです。がんば……おおっ!?」


 激励してくれた太田さんに目を向けると、彼女は段ボールを下ろすのに前屈みになっていた。そのため彼女が着ているワンピースの胸元スペースから巨大な胸の上部分と凄まじい谷間、黒いセクシーなブラジャーがガッツリ見えてしまった。

 暑い上に荷物を運んでいるせいか汗をかいていて、それが一層エロティックさを強調している。これは……ヤバい!!


「……? 変な声が聞こえたような……?」


「近所のオジさんがぎっくり腰になった悲鳴じゃないですかね?」


「ふふふ、面白い冗談ですね。でも、本当だったら大変ですねぇ。うふふ……」


 あっぶねぇ、あぶねぇ……もう少し視線を戻すのが遅れていたら、彼女の胸を凝視していたのがばれるところだった。

 それにしてもなんなんだアレは? それにどうして俺はこんなに動揺してるんだ? 女性の巨乳谷間ならガブリエールのものをほぼ毎日見ているじゃないか。

 俺にとって巨大お乳様はお椀に盛られた白米と同じぐらいの頻度で目にする存在のはずだ! ご飯を見てドキドキする成人男性なんていないだろ。それなのに俺は今……めっさ動揺している!


「キャアアアアアアアアッ!!」


「太田さん、どうかしまし……ぬぁぁぁぁぁっ!?」


 悲鳴と一緒に派手に転ぶ音が聞こえたので急いで振り向くと、太田さんは盛大に尻餅をついていた。

 両手を突いて後頭部こそ打たなかったが、脚を思いっきりM字開脚にしてロングスカートがめくれ上がっていたので下着が丸見えになっている。

 しかも、その下着が……布地の少ない、黒のTバック……だと!? そんでもって、じっとり汗ばんだムチムチの太腿とかふくらはぎとか……見放題になっている。あ、ヤバ……頭クラクラしてきた。

 ちなみにこの瞬間の俺のモノローグは時間にして約一秒。思考が同時並行爆速で処理されていた。


「あいたた……」


「大丈夫ですか? 何処か身体痛めていませんか?」


 沸々と煮えたぎる本能を今までの人生で培った理性で何とか抑え、太田さんに手を差し伸べる。

 落ち着けー、落ち着けー、心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却ゥゥゥゥ!


「はい、大丈夫そうです。ありがとうございま……ひゃっ!」


 太田さんを引っ張り起こした拍子に彼女はバランスを崩して前のめりで俺にぶつかってきた。

 それにより俺は押し倒される形になり、今度はこっちが尻餅をつく。


 完全に倒れはしなかったのでホッとしていると顔面にメチャクチャ柔らかくて巨大な何かが押しつけられていた。

 目と鼻と口が塞がれているので五感のうち三つが封じられた状態だ。

 でもその分残った聴覚と触覚がフル稼働する。とにかく柔らかい! それに何だか艶めかしい息づかいも聞こえてくる! 

 でも呼吸が出来ないのですぐに苦しくなってくる。酸素を求めて口をモガモガ動かすと顔を覆っている柔らかいものがフワフワ動く。


「モガァァァァ! モガ、モガ、モガ……!!」


「ひゃんっ! そんな風に口を動かしちゃらめれすぅ!!」


 必死な甘い声で言われて動きを止めると、太田さんは急いで離れて顔を真っ赤にしながら乱れたワンピースを直していた。俺の理性はそんな衣類とは逆にグチャグチャになっている。

 俺……ラッキースケベが標準装備されている世界に転生してないよね?

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