第6配信 ああああああああん!!
太陽を手伝いたいと思ったのは俺が彼女の配信を観たいという気持ちが強いのだが、他にも理由がある。
それは他のリスナーにも空野太陽というVTuberを知って貰いたいと言うものだ。
もの凄い楽しくて元気をくれる配信者が皆に知られずに埋もれていくのはどうしても我慢が出来なかった。
何かにこんなにこだわりを持ったのは久しぶり……いや、もしかしたら初めてかも知れない。
俺のような素人ですら彼女の魅力はすぐに分かったんだ。一度配信を観て貰えればその良さがきっと分かって貰えるハズ。
とにかく空野太陽に一番必要なのは認知して貰うこと。少しでも興味を持って貰えるような配信をして観て貰えれば上手くいくハズだ。
その為に俺と太陽は人気VTuberの配信を研究しつつ、まずはメジャーなゲームの配信から始めた。
最初は中々人が集まらなかったけど、少しずつ視聴者が増えていきチャンネル登録者も増えていった。
登録をしてくれた皆も俺の意見に賛同してくれて、知恵を出し合って人気の出そうな配信内容を考え実行していった。
太陽と知り合ってから既に一年が経過していた。
太陽の最大の強みは綺麗な声だと皆の意見が一致し、歌配信やASMRなどが候補に挙げられた。
ASMRとはざっくり言うと聴覚への刺激によりリラクゼーション効果や安眠導入を促すものだ。
ライバーのささやき声だったり自然界の音などASMRの種類は多種多様。そこで太陽のボイスによるASMRを考えた。考えたのだが……。
『あ……んんんっ! あ……はぁ……んぅ……! あああああああん!』
コメント
:我覚醒せり、繰り返す我覚醒せり!!
:メインシステム戦闘モード起動します
:寝てないのに眠気スッキリ
:トイレ行ってきまーす
:隊長、全裸待機間に合いませんでした!
:遅いぞ軍曹、私は常に全裸待機だ!!
:いけねっ! エロゲつけっぱなし……じゃなかった
:フゥ……どうして世界から争いは消えないのだろうか?
:賢者タイム入るの早すぎwww
:「ぶふっ! ちょ、これじゃ喘ぎ声じゃないか!! ストップ、ストップーーーーーー!!」
目を閉じ太陽の美麗ボイスで癒やされようと思っていたら聞こえてきたのは眠気もぶっ飛ぶ元気になる声だった。
嘘だろ、少し聞いただけなのに俺の俺がマックスに……制御不能になっている。こいつは危険な音声兵器だ。声だけでイカせられる。
コメントではASMRを止めてくれるなとリスナーから不満の声が殺到したが、このままでは動画配信サイトのヨウツベから確実にBANされるので説得した。
:「あのー太陽さん? 今のASMRもとい喘ぎ声はどうしたんでしょうか? 何故にああなった!?」
『今のはぶいなろっ!!のセリーヌさんのASMRを参考にしたんです。誓って欲求不満とかそう言うんじゃありません!』
ぶいなろっ!!二期生魔王軍幹部のセクシー担当、サキュバスのセリーヌ・グレモリー。
赤いウェーブがかったセミロングヘア、背中からコウモリみたいな羽が生えていて尻尾の先端はハートの形をしている。
ナイスバディの外見、声、話し方など多岐にわたって色気が溢れていて幾つもの配信がアーカイブから削除されるセンシティブの塊みたいなVTuberだ。
初配信時の衣装が布地の少ないランジェリー姿であったため、それもアーカイブからBANされると言う伝説を残している。
セリーヌのASMRは耳が蕩けるほど心地よいと定評があるが、ASMRを始めた当初はエロ過ぎるので何度もBANされた。
その経験を生かしセンシティブ過ぎないギリギリを攻めるASMRの境地に彼女は到達したのだ。生半可な実力で真似するのは危険極まりない。
:「よりにもよってアレを参考にしたのか!! あれは教材にしちゃ一番ダメなやつだからね!」
『でもセリーヌさんのASMR凄い心地良いんですよ。骨抜きになっちゃいましたもん』
:「知ってる。俺も聞いた事があるから。あのASMR出来るのはあの人だけだから君はもっと健全な内容にしていこう」
『分かりました。――でも、もう一回だけチャンスをください。教官ッ!!』
:「え……ええ……? しょ、しょうがないなあ」
教官って……何て素敵な響きなんだ。その言葉にほだされて了承すると太陽のギリギリを攻めるASMRが始まった。
『ん……んんんんっ。ふぁ……はぁぁぁぁぁ……。あ……んきゅ……ぁぁぁぁぁぁんむぅ』
:「声を小さくしただけでエロい内容は変わってないでしょうが!! ――あ、ごめん、俺、五分……十分したら戻ってくる! じゃっ!!」
全ッ然ギリギリじゃないスピードオーバーのコーナーアウトASMRだった。
ささやき声になった分、生々しいエロさが強調されて我慢の限界だ。こんな状態じゃ続けられない。一旦態勢を立て直す。
コメント
:隊長、総帥が逃亡しました! 自分も十分でケリをつけてきます!!
:くっ、仕方がない! 全員一旦退避だ!!
:ガタッ!(勢いよく席を立つ音)
:ガタタッ!!(勢いよく席を立つ音)
:自分、射撃練習場で撃ってきます
:ハゲドウ!
:ハゲドウ!!
:ハゲ……うっ!!
:隊長、二等兵の退避が間に合いませんでした!
:二等兵、貴様は括約筋の強化訓練を徹底しておけ!!
――十分後、俺が戻ってくると太陽は泣きながら怒っていた。
『ひっく……酷いじゃないですか! 皆していなくなるなんて。そんなに私のASMRがダメダメだったんですか? ワンユウ教官、私どうすればいいんですかぁ!?』
:「……笑えば良いと思うよ」
『……ワンユウさん、コメント優し……どうしたんですか? まるで波紋一つ無い湖面のように穏やかじゃないですかぁ』
:「人間生きていればそういう時もあるさ……太陽、ASMRは封印しよう。俺たちでは君のセンシティブをコントロール出来ない。ASMRの専門家でなけりゃ無理だ」
『そ、そんなぁ……』
コメント
:……ただいま
:ふぅ……帰って参りました
:こんなに穏やかな気持ちは久しぶりだ。これが明鏡止水……
:隊長、軍曹が戻っていません
:きっと銃弾が詰まって発射に手間取っているんだろう。皆で待ってあげようじゃないか
:射撃練習場の予備の銃弾全部使い切りました
:そうか……放っておけばまた補充されるさ
:アハハ、お花が綺麗
:本当だぁ、四つ葉のクローバーもあるよ
:平和って尊いよね
『皆もどうしたんですか!? 人が変わったみたいに穏やか……居なくなっていた間に一体何があったの……?』
こうして空野太陽のASMRは封印された。その代わりに歌は本人の努力もあり皆が聞き惚れるほどで、これで一気にチャンネル登録者が増えていった。
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