ぶいなろっ!!~デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない!~
第5配信 目指せチャンネル登録者1000人
第5配信 目指せチャンネル登録者1000人
空野太陽の配信から数日が経過し、いよいよ今日の夜が彼女の雑談配信となった。登録チャンネルで時間を確認してその時を待つ。
普段なら何も予定のない日の午前中は惰眠をむさぼり午後から活動を始めるのに今日の俺は午前中から起きて溜まっていた洗濯や部屋の掃除を淡々とこなしている。
昼食にカップ麺を食べようと思い湯を沸かしている時にふと我に返った。
「……俺は一体どうしたんだ。別にこの部屋に誰かが来るわけでもないのに、何故か部屋を綺麗にしておかねばと言う気持ちに駆られている……」
今夜は女性VTuberさんの雑談配信を視聴する。その為に部屋を綺麗にしておかなければならないと言う気持ちに支配されている。
彼女の配信を観て以来身体に活力がみなぎっている感じがする。さて、午前中の間に家事は済ませたし配信時間まで小説を書いてみるか。
そう言えば集中力も増した気がする。以前よりも小説の投稿ペースも上がっているし、何より書いている時が楽しくて仕方がない。
集中して書いているとスマホのアラームが鳴った。時計を確認すると配信まであと三十分になっていた。
小説を書き始めた時は外は明るかったのに、いつの間にか暗くなり始めていた。どうやら数時間没頭していたみたいだ。
「我ながら随分と集中してたんだな。今日はここまでにして軽く夕飯を済ませとこ」
夕飯をとっとと食べてパソコンの前で待つ。配信時間が近づくと何故か緊張してきた。
「いや、だからデートの待ち合わせではないだろうに。……でも緊張するなぁ」
そして配信時間になり彼女の配信が始まった。準備中画面になって少し経つと彼女――空野太陽が現れた。
『今晩は、ワンユウさん。お忙しい中来ていただいてありがとうございます』
:「いやいや、俺は太陽さんの配信を視聴しに来たいちリスナーなんだから気にしないで」
数日ぶりに聞いた太陽さんの声はやっぱり綺麗で聞き心地が最高だった。前回の彼女の配信を聞いてから思ったのだけど、どうやら俺は声フェチらしい。
『今日はワンユウさんとお話をしたいと思ったのと、ちょっと相談もあったので雑談配信にしてみました』
:「相談……?」
『はい。その、ワンユウさんも知っている事なんですが、私のチャンネル登録者さんは現在ワンユウさん一人だけでして、それに配信も観に来てくれる人がほとんどいなくて……その、何が悪いのかよく分からないんです。それで……』
:「なるほど」
確かにその件については俺も話そうと考えていた。この数日、俺はアーカイブに残っている彼女の配信を観てリスナーが定着しない原因の推測がついていた。
:「多分、配信内容がニッチすぎるんだと思う。ほとんどがレトロゲーム配信だったし」
『ニッチ……?』
:「ええと、マニアックって意味かな」
『そ、そんなぁ! 私そんなエッチな配信なんてしてませんよぅ。第一そんなのアーカイブに残らないですし』
:「スケベな話じゃないからね!? もしかして君、結構エッチな思考してるのかな!?」
『そんなんじゃないです!! 普通です、普通。というか、男性とその……そう言う事したことないから……まだ自分にどう言うヘキがあるのか分からない……ですぅ』
「うぐ……」
顔を赤くしてモジモジする彼女を見て甘酸っぱい感じが自分の中で広がっていく。萌え死にそうだ。
何とか説明して彼女に理解をして貰い話を進めていく中で気になっていた事を質問してみた。
:「そう言えば、ポコボイの謎は何処で手に入れたの? あれって結構古いゲームソフトだから簡単には手に入れられないと思うんだけど」
『あれは近所のゲーム屋さんのお勧めだったんです。友達とやったら盛り上がること間違いなしという話だったので買ってみたんです。実際やってみたら凄く難しかったので焦りました』
:「そうか……」
なるほど……そりゃ確かに盛り上がるでしょうよ。
自分も友達も敵に瞬殺されたり自爆して阿鼻叫喚になること間違いなし。共に傷を負った者として友情は深まるだろう。
しかし、あまりにも難し過ぎるので配信には向かないと思う。何より配信者への負担がでかすぎる。裏技を使ったとしても全クリするには相当な労力が求められる。
せめてセーブ機能があれば別の日に続きからプレイ出来たんだろうけどなぁ。
:「差し出がましいかも知れないけど、ゲーム配信はもっと簡単でメジャーなものをやってみた方が良いんじゃないかな?」
『なるほどぉ……』
:「そんなに昔のじゃなくて割と最近のゲームの方が映像綺麗だし視聴者側もとっつきやすいと思う。個性的なゲームはある程度固定の視聴者が増えてきてからの方が盛り上がるかな、と」
『ふんふん、確かにそうかもですね』
こんな感じで雑談枠と言う名の相談が進んでいき、少しずつ今後のゲーム配信のイメージが固まっていった。
ここまで来ると次に気になっていた事を聞いてみたくなる。もっと彼女の根本についてだ。
:「太陽さんは――」
『太陽って呼んでください。その方が私も嬉しいです』
甘酸っぱさで萌え死にそうになり胸を押さえながらコメントを送る。
:「それじゃお言葉に甘えて――太陽はVTuberとして今後どうしていきたいの?」
『VTuberとして……ですか?』
:「うん、俺としては今後も君の配信を観ていきたいと思ってる。でも、現状のままだとそうも言っていられないと思うんだ」
VTuberについて調べてみて分かったのだが、配信をすれば簡単に収益に繋がる訳じゃない。そこまでに行くには色々と条件を満たさなければならない。
収益に繋がらなければ今後もVTuberとしてやっていくのは難しいと思う。そうなるといずれ彼女が配信を辞めてしまう可能性がある。
『そういう風に言って貰えるなんて嬉しいです! 私も……私も配信を続けて行きたいと思ってます。私、ぶいなろっ!!のライバーさん達の配信を観て自分もやってみたいって思ったんです。頑張っていれば、あの人たちみたいに沢山の人を楽しませられるんじゃないかって……そしたらとても素敵だなって』
安心した。何だかんだ言っても、太陽に配信を続けて欲しいと思ったのは俺の我が儘だ。
自分がもっと彼女の配信を観たいばかりに彼女の気持ちをないがしろにして今後の活動を無理強いしたら本末転倒だ。
でも太陽自身もVTuberとしての活動にやる気を見せている。それなら――。
:「俺もできる限り協力するよ。まずは収益化の条件の一つ、チャンネル登録者千人を目指そう!」
『せ、せ、せ、千人ですかぁ!? 出来るかなぁ……』
:「出来るよ。太陽は綺麗な声してるしガッツもある! VTuberとして高い資質を持ってると思う」
『ワンユウさん……。分かりました! まずは目指せ、チャンネル登録者千人ですね!』
SNSの『Z』で相互フォローを済ませ、俺とVTuber空野太陽の二人三脚の配信生活が開始された。
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