第88配信 パリオカートぶいなろっ!!杯⑧

 閃光弾で目を回したルイーナとフェネルを尻目にガブリエールは鍛え上げたドリフト操作でイキナ山の急カーブを難なく進んでいく。

 イキナ山の下りは急傾斜でスピードがかなり出る為、普通は減速して急カーブを曲がるのだがガブはスピードを落とさず絶妙なタイミングで曲がってドリフトを決めていく。

 そして中腹に差し掛かる辺りで遂にアマテラスに追いついた。


『やっぱりガブちゃんが追うてきたね。閃光弾は躱されたみたいじゃね』


『もう少し気づくのが遅かったら当たってた。良い場所に置いてあったよ』


 二人の進行方向にヘアピンカーブが待ち受ける。急カーブが苦手な大型車のアマテラスは僅かに減速し、スピンしないギリギリのドリフトでヘアピンを曲がる。 

 その僅かなスピードダウンの瞬間を逃さずガブは突っ込みアマテラスの内側を曲がるドリフトを決めて追い抜いた。


『ガブリエール選手、このヘアピンカーブで遂にアマテラス選手を抜いて一位に躍り出たーーーーーー!! この先の麓には五連ヘアピンが待っているがそこでも無事にドリフトを決めることが出来るかぁーーーーーー!?』


『ガブちゃんはエルルと同じようにイキナ山の峠で一気に追い抜く作戦みたいねぇ。アイテムが使えず運による逆転は望めないからここで一位に来られたのは勝利への第一歩ね。――あら、言ったそばから峠大好きエルフが追いついて来たみたい』


 アンナマリーが言ったようにガブ達の後方からもの凄いスピードで急カーブを曲がってきたのは素パリオだった。

 ぶいなろっ!!メンバーの中でも一番のゲーマーエルフ、エルル・アンバーが怒濤どとうの勢いで峠を下ってくる。

 ドリフト性能が一番高い素パリオならイキナ山の下りで順位を伸ばして来るとは思ってはいたけど、まさかこんなに早く上位に来るとは予想していなかった。


『エルル先輩……まさかもうここまで上がってくるなんて!』


『エルル先輩は、げにゲームが上手じゃね。でも抜かせんよぅ』


『二人共エルの予想より随分先に進んでいたみたいだね。今回のイベントは思ったよりも楽しめそうで嬉しいよ。――それじゃ、行くよ』


 エルルは急カーブ毎にグングン差を縮めてくる。スピードを落とさずドリフトをする時も大きく膨らまずに最小限の動きでカーブを曲がりきり弾丸みたいな速度でイキナ山の下りを疾走する。

 この決勝戦に備えて猛練習をしてきたガブもドリフトがかなり上達したと思っていたけどエルルのそれは段違いに凄い。

 まるで水の中を泳ぐ魚みたいに滑らかな動きでドリフトを決めてくる。

 まさかこれ程とは……あれ? 何かエルルの後ろに誰かがピッタリくっついているように見えるけど……あの動きに付いて来られるメンバーなんて居るのか?


『エルル選手怒濤の勢いでイキナ山の峠を下りてキターーーーーー!! 素パリオのドリフト性能をフルに発揮して急傾斜と急カーブの高難易度コースを難なく攻めまくるぅ! トップ争いをしているガブリエール選手とアマテラス選手との差を詰めてく――あれ? 見間違いかな? エルルの後ろに何か居るように見えるんだけど……』


『あれは……ユニね。驚いたわぁ、まさかこんな所にまで付いて来るなんて。これがロリコンの執念というものなのかしら?』


 神がかったエルルのドリフトに食らいついてくるロリコン変態の構図。ユニ・ホーリー操るパンティーパリオの変態的ドリフトは観ていて何だか怖い。顔に被ったパンティーの向こうの鋭い眼光はロリの尻を狙い続けていた。


『見える……ユニには見える! 目の前でカーブを曲がる度にプルンと揺れるエルルの尻が見える!! この特等席は誰にも渡さんぞぉぉぉぉぉぉ!!!』



コメント

:もはや言動が不審者のそれなんよ

:ピキィィィィィィィィィィィン!

:見える……そこだ!! エルルの尻が見える!!

:こいつ、動くぞ(エルルの尻が)

:ユニコーーーーーーーーーーーーン!!!

:あのメスユニコーンの角がエルルの尻を狙っている。そう言うことですね

:(尻を)ぶったね……二度もぶった……親父にもぶたれたことないのに!!!

:(お尻を)ぶてませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!

:既にメチャクチャで草

:パンティーパリオは……伊達じゃない!!

:相変わらずユニリスのコメントはカオスだな、訳が分からん

:この元ネタ分かる人は何人いるんだろう?

:ユニリスのニュー〇イプ二人が現れて好き勝手に台詞言っていくからコメントが混乱するのよ



 ユニリスがニュータ〇プな暴走コメントを打っているとロリへの妄執に取り憑かれたユニもまた神がかりな勘を働かせエルルのドリフトをコピーする。

 

『パンティーパリオで素パリオのドリフトに付いて来るなんてユニも凄いね。でもずっと尻がどうとか言われるのは恥ずかしいな』


 恥ずかしいと言いつつもエルルはいつものポーカーフェイスだ。寸分違わぬドリフト捌きでついにガブ達のすぐ後ろに取り付いた。

 

『ガブリエール選手、アマテラス選手、エルル選手、ユニ選手の四人がもつれ合ったまま峠を下ってイクーーーーーーー! そして四人の前にこのコースの最難関、五連ヘアピンカーブが姿を現わしたぁぁぁぁぁぁぁ!! この五連ヘアピンをトップで通過するのは誰なのかーーーーーー!?』


 テンションぶち上げのセリーヌが興奮気味に司会をこなしていると彼女の予想を揺るがす五人目のメンバーが常軌を逸したスピードで峠を下りてきた。

 そいつはカーブとか全無視でコース上を無理矢理乗り越え真っ直ぐ向かってくる。 

 そんなとんでもない動きをしているのはクロウのマッシーだ。ゆるキャラっぽい馬が今では競走馬の如く鬼気迫る勢いで走ってくる。


『速い速い速い速いーーーーーーー!! ちょ、ま……これ本当に速すぎてコントロール出来ないぃぃぃぃぃぃぃん!! あ、トップ四人が見えた……ええい、もう行くしかないわね!!』


『何かもう既にいっぱいいっぱいの状態でカーブガン無視で下りてきたのはクロウ選手だぁぁぁぁぁ! これはアイテムの中でも上級クラスのロケットエンジンを使用した模様。使いこなせれば一発逆転も狙えるが、そうでなければ今のクロウ選手のように破れかぶれの博打運転になってしまう危険なアイテムだーーーーー!!』


『もしかしてクロウはあのまま五連ヘアピンを曲がらずに突っ込むつもりかしら? だとしたら無謀だけど……』


『道をわたしが進むんじゃない……わたしが進んだ後に道ができるんだぁーーーーーー!!』


 ロケットと化したクロウは車のスピードを凌駕しあっという間にガブ達を追い抜くと五連ヘアピンカーブの第一ヘアピンに差し掛かる。――が、こんな状態で急カーブを曲がれるハズも無くクロウはカーブを無視して正面突破を試みた。

 そして勢いよく第一ヘアピンを突っ切った彼女の前には切り立った崖が出現する。


『――え?』


『クロウ選手、マジでそのままヘアピンを曲がらずぶち抜いたーーーーー!! 五連ヘアピンの場所は周囲が崖になっているのでカーブを曲がらなければ崖から落ちるのを彼女は知らなかったようだーーーーーー!!』


『終わりやね』


『落ち……落ち……! 落ちてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! アーーーーーーーイ、キャーーーーーーン、フラーーーーーーーーーーーーイッ!!!』


 ロケットと言っても空を飛んでいる訳ではないのでクロウは猛スピードのまま落下し進行方向の崖に衝突して大爆発を起こした。


『イッキューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!』


『案の定、落下して爆発の大事故発生! イキナ山、五連ヘアピン一人目の昇天ギセイ者……クロウが死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『この人でなしーーーーーーーーーーーー!!』


 とは言ってもコースアウト扱いになっただけなので実際に死亡した訳ではない。落下地点から最寄りのコースに戻されて再スタートする。パリオカートはそんな感じで皆に優しいレースゲームです。

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