第22配信 天使と堕天使のコラボ

 ぶいなろっ!!六期生コラボで起きたユニット内でのバストサイズ問題。

 そこに端を発したベルリスの暴走はガブリスの暴走によって混乱の中終結した。暴走の上塗りによる世紀末みたいな最後だった。

 そのユニットコラボの終盤で堕天使ルーシーからガブリエールとのコラボが提案され、ユニットコラボの翌日に急遽二人のゲームコラボ配信が行われることになった。


 ルーシーが希望したゲームは『学校のXカイ談』――かつて低価格かつ沢山のゲームが量産されたpositiveシリーズの一つだ。

 positiveシリーズは当時、質より量という前向きな感性で作られていたらしく、低クオリティ、バグいっぱいのクソゲーも珍しくはなかったらしい。

 しかし、クソゲーの山の中にはダイヤの原石が混じっている事もあり、学校のX談はその内の一つだ。


 深夜の小学校に潜り込んだ学生たちが校内に閉じ込められ数々の恐怖体験を経験するという内容で結構怖いらしいのでライバーがどんな絶叫を披露してくれるのか楽しみだ。

 ガブリエールは前世ではホラー系ゲームはやっていなかったので、どういう反応をするのか興味津々である。


『こんがぶ~! ぶいなろっ!!六期生、ゴッド&デビルの天使ガブリエール・ソレイユと~~』


『こん堕ち~! 同じく六期生の堕天使ルーシー・ニュイでーす。よろしくお願いしまぁ~す!』


 配信開始時の挨拶で二人が左右に並び、シンメトリカルな立ち位置で翼を羽ばたかせながら挨拶をしてきた。

 画面内には白と黒の羽根が舞い乱れ美しい映像が目を楽しませてくれる。



コメント

:こんがぶー!!

:こん堕ち~!!

:こんがぶー! 天使と堕天使の二人が出迎えてくれてるぅ

:こん堕ちー! ダブル羽ばたき……尊い!

ワンユウ:こんがぶー!! この羽ばたきは最早芸術の域でしょ

:それでは採点をします。10点、10点、9点、10点、9点、10点、10点、10点、9点、10点! ――103点!!

:なんでだよw

:尊さが限界突破してて草

:初っぱなから飛ばすなーーーw

:最初からエンジンフル稼働してる。さすがガブリス

:そんなぁ、ボク達はシャイで人見知りでアンニュイな坊やの集まりですよぅ

:そうよ、そうよ、昨日のユニットコラボでも大人しかったでショ?

:頭のてっぺんから足のつま先までウソだらけで草



『あはは、本当にガブリスさんは面白いねー。ルーの闇堕ち君は皆大人しいから新鮮な感じがするなぁ』


 堕天使ルーシーがクスクス笑いながらガブリスを褒めており、調子に乗ったガブリス達がルーシーを軽く弄る。そんな和やかなムードの中、コラボが始まった。

 ルーシーはぶいなろっ!!公式設定ではガブリエールのライバルに当たり、使徒――つまり俺たちを堕天させて自分の傘下に引き入れるとなっている。

 なかなか物騒な設定ではあるが、ユニットコラボで見せた彼女の場の空気を読んだ立ち振る舞いから六期生の中で一番まともな人物だと思う。


 ガブリエールとアマテラスはド天然だし、ベルフェはちっぱいコンプレックスでテンションのコントロールを失うのでチームとしてのバランスが危うい。

 そこにルーシーの様な空気が読める常識人が加わることでバランスを保つことが出来る。天然なガブリエールの最初の単独コラボ相手として理想的と言えるだろう。

 

『それでは、私とルーちゃんの初コラボはゲーム配信という事でpositiveシリーズのホラーゲーム学校のX談をやっていきたいと思いまーす! 私は配信でホラーゲームをするのは初めてなのでドキドキしてるんだぁ』


『ガブって本当に前世込みで話を進めていくのね。まだデビューして間もないのに、それを自然に受け入れてネタとして扱ってくれるなんて、ガブリスさんとは仲が良いんだね』


『えへへ、そうなんだよ。使徒さんはみーんな良い人ばかりで楽しいんだよ。これから色んな配信をして皆ともっと仲良くなりたいの』


『分かるぅ! ルーもたくさん配信をして皆ともっともーっと仲良くなりたいもの』


 天使と堕天使のフワフワカワイイ会話を聞いていると、心が浄化されていく気がする。これはもうダブル天使と言っても差し支えがない。

 きっと今日の配信は良いものになる。ホラーゲーム中のダブル天使の尊い絶叫が目に浮かぶ。


『それじゃ、ゲーム開始しまーす』


 ガブリエールとルーシーが画面脇に移動するとゲームタイトル画面が表示された。

 全体がピンク色に彩られ女性高生と思われるスカートを履いたキャラのシルエットが映っており、ポップな感じで『学校のY談』とタイトル名が書かれている。

 とてもじゃないがホラーゲームのタイトル画面とは思えない明るい色調を前に俺は何度も瞬きする。


「あれ? おかしいな、画面の見過ぎのせいか? タイトルの『X』が『Y』になっている様に見えるけど……」


 どうもおかしい。目元をマッサージしてもう一度確認してみてもタイトルは学校のY談だ。

 


コメント

:あれ?

:あれ?

:あれれぇ、おかしいぞぉ?

ワンユウ:目が疲れてるのかな? 何度確認しても学校のY談に見えるんだけど

:右に同じ

:オレもYに見える。それにこの感じ、どう考えてもホラーゲームのノリじゃないよね?

:ホラー要素は何処へいった?

:我々は集団幻覚でも見てるのか?


『それが……私にも学校のY談に見えます。ルーちゃん、これって……』


 このゲームはルーシー所有の物なのでガブリエールが焦った様子で彼女に問う。するとルーシーは如何いかにも失敗したという顔をしていた。


『あちゃあ、ごめん……タイトルが似てたから違うのを持ってきちゃった。これもpositiveシリーズの作品で学校のY談っていうゲームなんだけど、ホラーとは全然違くて女子高生の可愛い会話をフルボイスで楽しむゲームだよ』


『女子高生の会話……? それって選択肢が出てきて、選んだ選択肢によって結末が変わるノベルゲームみたいな感じ?』


『そうそう。ルーが昔中古で手に入れたんだけど、中々楽しい内容だったと思うよ。リスナーさんが許してくれたら、このゲームをやりたいんだけど……ダメ?』


 ルーシーが甘えた声で訊ねるとガブリスもルーリスも全員「問題なし」と答え、ガブリエールも女子高生を題材にしたノベルゲームという事で興味津々の様子だ。

 俺もこのゲームは聞いた事もなかったし、positiveシリーズは面白い作品はとことん面白かったりするので心が躍る。


『それでは改めまして、学校のY談をスタートしまぁーす!』


 ルーシーの掛け声でゲームが開始された。コントローラーを操作するのはガブリエールでルーシーはその様子を見守るスタンスでいくらしい。

 ゲームが始まると教室の風景が映る。そこには女子高生三名のシルエットが居た。



A子:あ~、やっと放課後だわ。ダルかったわ~~!

B美:ホントホント、授業はいつも午前中で終わりにして欲しいんですけどォ~

C菜:って言うかぁ、一限で終わりでよくネ?

B美:あははははは! マジウケるんですけどォ、C菜天才かよ~!

A子:そんなだったらガッコ来るのもダルいわぁ~、アタシ絶対ガッコ来ない自信アル~

C菜:キャハハ! A子、それなんの自身だよ~。ウケる



コメント

:なん……だこれ……

:なんかオレ達が思い描いていた女性高生の会話とかけ離れた内容なんだが……

ワンユウ:女子高生のキャッキャウフフな会話を期待していたのにこれは……

:酷い……酷すぎるよぅ……(泣)

:女子校特有のアマゾネスな雰囲気を感じる……

:このゲームが発売された頃の女子高生の会話ってこんなだったっけ?

:理想と現実の差を見せつけられたような気分だぜ。グフッ!

:A子ダルい言い過ぎだろ。どんだけ倦怠感強いんだよw

:C菜の台詞、自信を自身って書き間違えてるし。開発陣のテキストチェックガバガバじゃないか……



 女子高生のキラキラした可愛いトークを楽しめると思っていた俺たちは、ゲームに出てきた女子高生の妙にリアルなトークを聞いて困惑していた。

 同じ女性であるガブリエールの反応はどうだろうと観てみると……。


『あわわわわわ! あわ……あわ……あわわ……!!』


 あわあわ言って震えていた。こんなガブリエールは今まで観たことはない。まるで本物のホラーゲームをしているみたいに動揺している。なんで?


『どうしたの、ガブ? なんかメッチャ動揺しているみたいだけど』


『いや、これ……私が高校生だった頃にこんな感じで話してる陽キャグループがいて……その人たちが当時苦手で……その記憶が蘇ってきちゃ……あわわ……』


 学生の頃陰キャだった故のトラウマ――陽キャの軽いノリと教室に響く笑い声とトークへの苦手意識。

 この場に居る者の多くは大なり小なり陽キャに対するトラウマを抱えており、苦い思い出と共にその感覚が蘇ってくる。

 それでもガブリエールは頑張ってゲームの女子高生トークを先に進めていった。

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