ぶいなろっ！！～デビュー3分で前世バレする伝説を作ったVTuber。そんな推しライバーの俺に対する距離感がバグっている件。俺はいちリスナーであって配信者ではない！～

第85配信 パリオカートぶいなろっ！！杯⑤

　遂にパリオカートぶいなろっ！！杯決勝戦出場者のラスト二名が登場した。最後の出場者は六期生の二名――アマテラスとガブリエールだ。

『こんてらー！　六期生の女神、アマテラス・ソルと――』

『こんがぶー！　同じく六期生、天使のガブリエール・ソレイユで～す』

　五期生以外の先輩たちが同期の中から一名ずつの出場の中、何と六期生は二人同時出場という快挙を遂げていた。

　ゲーマーのガブが出場なのは納得なのだが、そんなにゲームが得意ではないアマテラスが出場したのは意外だった。今回初めて知ったのだが、アマテラスはレースゲームに関しては異常に上手だった。

　切り抜き動画で観たレースゲーム中の彼女はいつもの温厚な彼女ではなかった。普段はおっとり巫女なお姉さんは鳴りを潜め、非常に攻撃的かつアグレッシブなドライバーが映っていた。

　陽菜と月によるとアマテラスはハンドルを握ると性格が豹変する人らしい。それがどうやらレースゲームにも反映されているみたいだ。

　こうしてレース前のお祭り騒ぎが終わり本当の祭りが始まる。決勝出場の八名が一堂に会したところで決勝レースの説明が司会のセリーヌとアンナマリーから伝えられた。

『えー、それでは決勝レースの説明を始めまーす。今回使用するのは一週間前に追加ダウンロードされたばかりの新コース『マーグンエリア』でーす！』

『マーグンエリアはアエギ山とイキナ山という二つの山とそれらを繋ぐ平地によって構成されています。スタート地点は平地でまずはアエギ山を登り下りし、再び平地エリアを通ってイキナ山を登り下りする。この流れを一周として先に三周したプレイヤーが優勝となります』

『つまりぃー、アエいでイッて、アエいでイッて、アエいでイッたら絶（ゴール）頂（イン）になりまーす！』

　酷い説明だ。これは本当にパリオカートのコース説明なのだろうか？　台詞だけ見たら十八禁的なナニかの話にしか思えない。

　これから出場するライバー達は一体どんな思いでこのセンシティブだだ漏れの説明を聴いているんだ？

『あ、あの済みません。確認したい事があるんですけどよろしいでしょうか？』

　ガブリエールが戸惑った様子で挙手する。そうだよ、こんなバカみたいな表現で説明をされたらヨウツベで流せるかどうか不安に思うよな。

　ガブは天然ではあるが、日常生活では割と常識人だ。決勝出場者を代表して真っ当な意見をしてくれるだろう。

『はい、ガブちゃんどうぞ』

『ありがとうございます。つまり、この決勝戦は一番早く三回アエぎイッた人が優勝って事ですよね？』

『ええ、その通りよ。頑張って早くイッてね、ガブちゃん』

『はい、分かりました。頑張ってイッてきます！』

　何でだよっ！！　ガブ、お前何でこんな時に限って天然を爆発させるんだよ！　今の確認する必要あった？　只でさえセンシティブな内容の説明だったのに、明瞭簡潔にしたお陰でセンシティブさが濃縮されてるよ。

　これはレースを頑張るって意味だよね？　別のナニかを頑張る訳じゃないよね？　レース前からこんなんで大丈夫なのか、この事務所？

『ガブちゃん。うち、負けんけぇの。早うイッて見せるけぇ』

『うん、私も負けないよ。お互いベストを尽くそうね、あまちゃん』

　いや、まあ、うん、分かるよ。同期で意気込みを語り合うのは素晴らしい事なのだけれど、会話の内容が内容なだけに素直に応援出来ない自分がいるんだよ。

　そもそもこのコースの山の名前がおかしいんだよ。これ一応家族や友達と一緒にプレイして盛り上がるレースゲームだよね？　二つの山がアエギとイキナってお茶の間が凍りつくでしょうよ。

　コメント欄もずっと混乱していて配信がBANされないかリスナーは本気で心配している。

　今からでも遅くないから司会を変更した方が良いかもしれない。セリーヌとアンナマリーは確実に確信犯だ。二人共ニヤニヤしている。

　だが俺たちリスナーの心配を他所にここからは順調に話が進んでいき決勝出場者が操作するキャラクターが発表された。

　悪役令嬢のルイーナは酒瓶パリオ。このキャラは大型車で走り出しは遅いがトップスピードがかなり速くエンジンのパワーもあるので登り坂に強い。他車とぶつかった際には吹き飛ばすじゃじゃ馬だ。

　暗黒騎士のクロウが操作するのはマッシー。こいつはシリーズの途中から出てきたキャラでデフォルメされた馬の姿をしている。普通車で出だしのスピードが速い。馬が車を運転する様子は見ていて不思議だ。色々と既視感を覚える外見だが決してゆるキャラのぐ〇まちゃんではない。決して……。

　戦士のフェネルは女子高生でレースに臨む。軽自動車で出だしのスピードはトップクラスなのだが最大速度は全車中最低。軽なのに衝撃に強く、ぶつかった相手を弾き飛ばすチート仕様。女子高生チカン許さない絶対。

　エルフのエルルが使用するのは素パリオ――つまり特殊能力も何も無いかつてパリピだったおっさんだ。普通車でスピードも普通。エンジン性能が低く登りに弱い。その代わりにドリフト性能が一番高い。性能を引き出すには高い操作技術が要求される。

　ドラゴンのバハームはスーツパリオを使う。あらゆる性能が普通の普通車で初心者向けのキャラだ。堅実なドライビングテクニックが奇跡を起こすかも。

　ユニはパンティーパリオを使用する。軽自動車で出だしのスピードは速く障害物などにぶつかってもすぐに立て直しが可能だ。ライバーも操作キャラも変態なので変態的なシナジーを生む……かも知れない。

　アマテラスは通常のストーリーならラスボスであるヒャッハーを操作する。性能は酒瓶パリオと同じで迷彩ジープ仕様の大型車。障害物などに当たらなければ高いスピードを維持できエンジンパワーも高く登りコースにも強いため使いこなせれば優勝を狙える。このレースではラスボス的な存在になれるのだろうか？

　ガブリエールが使うのは警察パリオだ。軽自動車で出だしのスピードが速く性能的にはパンティーパリオに近い。変態が乗る車両と警察の車両の性能がほぼ同じなのは皮肉が効いているとしか言えない。

　そしてこの警察パリオはちょっと特殊だ。パリオカートは走行中にアイテムをゲットしその効果を利用して他のキャラの走行を妨害したり自分の能力を底上げしたりする事が可能なのだが、警察パリオはアイテムを使えない。

　それは警察パリオのみが使えるニトロが原因だ。ニトロはロケットブースターみたいなとんでもない加速を生み出す装置でレース開始時からエネルギーをチャージし、溜めたエネルギー量によって使用時間が延びる。このニトロを使うタイミング次第では大逆転も可能だ。

　こうして操作キャラの発表が終わるとコメント欄がざわついた。その内容は優勝最有力候補のエルルが底辺性能の素パリオを選んだという事実についてだった。

コメント

：エルル……無茶だぜ！　エンジン性能が低い素パリオじゃ勝てる訳ないぜ！

：ネタ枠ならともかく、優勝を狙うには素パリオじゃパワー不足だぜ！

：いや……結論を出すにはまだ早いぜ

：それはどう言うことだぜ！？

：マーグンエリアの最大の難所はイキナ山の下りにある五連ヘアピンカーブ……オレもプレイしてみたけど、かなり減速しないとコースアウト必至の激ムズポイントだったぜ

：つまりその五連ヘアピンカーブを制した者がゲームを制するって事なんだぜ？

：――！？　そう言えば素パリオの特徴は……だぜ！

：そうだぜ。素パリオは全キャラの中で一番ドリフト性能が高いんだぜ

：つまり素パリオなら下りの五連ヘアピンカーブにドリフトで対応可能って事か、だぜ

：エルルはきっと五連ヘアピンを制する為に素パリオをチョイスしたんだぜ！

：これは面白い事になってきたぜ！

：イキナ山の峠の展開から目が離せないぜ

　コメント欄の内容がエルルに対する心配から期待に変化する中、決勝出場者八名はコントローラーを持ってゲーム開始の準備に入った。

　他のぶいなろっ！！メンバーは固唾を呑んで見守り、レースクイーンのシャルルとルーシーは『1周目』と書かれたプラカードを掲げていた。