第84配信 パリオカートぶいなろっ!!杯④

 元気に出てきたフェネルの目の前にはレッドカーペットの上で笑い転げるクロウ、泣いているネプーチュ、呆れるノーム、ネプーチュの頭を本気で心配するルイーナという訳の分からない状況が広がっていた。


『……何……このメチャクチャな状況。今日ってパリオカートの配信よね? 飲酒雑談配信とかじゃないわ……よね?』


 フェネルはぶいなろっ!!メンバーの中では割とまともな思考の持ち主なので混乱渦巻く状況の中、常識的な反応をしてくれてリスナー一同安心する。


『全くもう! 皆が揃うといつもこうなるんだから。とにかくこれからレースが始まるんだし、サクサク進めていくわよ!』


 フェネルが暴走する仲間たちをまとめて話を先に進めると決勝戦への意気込みを語り始める。

 この一連の見事な手腕を見ていると彼女の存在はぶいなろっ!!になくてはならないものだと思わされる。


『えーっと、普通に皆でパリオカートをやっていた延長で上位八名で今回の決勝戦をする訳だけど一位を狙うのは当然として最後までライバーもリスナーも楽しめれば良いなと思っています。だからリスナーの皆も応援よろしくねー!』


 ウインクして画面の向こうにいるリスナーに向かって手を振るフェネル。コメント欄の動きが活発になり早速盛り上がり始める。彼女が出てきた事で配信の空気が変わった気がする。

 彼女の登場によって配信が盛り上がりつつ流れが順調になり決勝戦四人目のライバーが登場した。


『ふぅ、もしかしたら出番が一生来ないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ。フェネルのお陰で流れが変わったみたいだね。――と言う訳でエルが優勝を貰うよ。そうすれば四期生も芸人枠だけじゃないって事を証明できるでしょ』


 淡々とした感じで現れたのは四期生のエルル・アンバーだ。彼女はエルフの精霊使いと言う設定でシャルル・アンバーの双子の姉でもある。実際に二人は中の人も双子の姉妹であるらしい。

 見た目は低身長幼児体型で小学生あたりに見える。つまりはロリだ。薄色の金髪をポニーテールにしており瞳の色が琥珀色で幻想的な雰囲気がある。

 彼女は根っからのゲーマーでプレイヤースキルが試されるタイプのゲーム配信を主に行っている。その腕前は確かでeスポーツでも上位入賞するほどだ。

 

 アンバー姉妹は基本的に一緒に配信をしていて、姉のエルルがゲームをプレイし妹のシャルルがその応援をしている。その応援というのが中々クセが強くぶいなろっ!!名物の一つとされている。


『キャアアアアアアアアアア!!! キタキタキタコレェェェェェェェェェ!! エルお姉ちゃんがキタァァァァァァァァァァ!! いやぁん、可愛い! 世界一、いや宇宙一可愛いん!! こんな可愛いお姉ちゃんの妹に産まれてシャルはマジで幸せぇぇぇぇぇぇぇぇ!! いっぱい応援するから頑張ってぇぇぇぇぇぇぇ、エルお姉ちゃああああああああああああん!!!』


 以上、重度シスコンのシャルル・アンバーの姉ラブの雄叫びでした。三度の飯よりも姉が大好きな彼女はいつもこんなテンションで姉のゲーム配信の応援をしている。

 テンションぶち上げの妹に対し姉のテンションは常にフラットだが、一応妹を気に掛けている様子はある。

 またエルルは配信以外の生活能力が破綻しており、そこらへんはシャルルに依存しているのでお互い生きていくために支え合っていると言える。


 こうして四期生はツッコミ役のノーム以外はエルル、シャルル、ネプーチュがボケ倒すためデビュー後間もなくして芸人枠として認知されるようになった。

 同期のボケを丁寧かつ全力で拾っていくノームが居なかったら永遠にボケ続けるのが四期生なのだ。


『ちょっとぉ、シャルルったらいきなり大きい声出さないでよぉ。耳がキーンってなったじゃない、キーンって……ホントマジでキーンって言ってるよぅ』


『ネプ、お前何回キーンって言うんだよ。飛行機かよ』


『あははは、ウケる~! ネプはマーメイドだよぅ。飛行機な訳ないじゃん』


『オレだって本気で飛行機と思って言ってないよ!! お前がやたらキーンって言うからツッコんで……ああ、もういいわ! お前等のボケに一々構ってたらレースが一生始まらないわ』


『お姉ちゃぁぁぁぁぁん! スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ!! だ~いしゅきーーーーーーーーーー!!』


『……そんなにエルはスキだらけかな? 自分としては注意深く生きてるつもりだけど』


『お前のそのスルースキルはどうなってんだよ! 一昔前のラノベ主人公みたいにヒロインの好意に気づかないなぁ』


 近いうちにノームはツッコミ疲労で倒れるかも知れない。


 四期生のコントが一通り終わると五人目と六人目の決勝出場者が現れる。


『こんゆにー! 純血君たち、お待たせー! いやー、箱内コラボとなると可愛いロリがいっぱい居て目の保養になりますなぁ。すぅーーーーふぅーーーーーーー。大気中のロリ成分が美味しいわぁ』


 五期生、ユニコーンのユニ・ホーリーはマジモンのロリコン及びショタコンだ。 

 一見普通に見えても脳内ではぶいなろっ!!メンバーをロリ化して愛でる妄想をしている。一歩間違えば犯罪者になる要注意人物だ。


『ようやく僕の出番が回ってきたね。ユニには悪いけど同期でも手を抜くつもりはないよ』


 ユニと同じ五期生、ドラゴンのバハーム・ウインドは中性的な外見をしているクールな女性でバハムンの愛称で親しまれている。女性VTuberグループのぶいなろっ!!における男装の麗人だ。

 物腰の柔らかさと落ち着いた雰囲気から女性ファンが多く、ぶいなろっ!!メンバー内でも彼女の人気は凄まじい。

 以前、飲酒配信オフコラボでホストに扮して他メンバーをもてなした際には、フェネルがガチ恋して「捨てないでぇー!」とマジ泣きしていた。

 その時アルコールが入っていたとは言え、厄介な客と化したフェネルを優しくもてなした事で女性ファンが爆発的に増えたらしい。


『バハムン、別にユニはこの決勝戦で優勝しようとかは考えてないよ。レースを独自のやり方で楽しんでいたら偶然ここまで残っただけだし』


『独自のやり方……? それってまさか……』


 バハームが珍しく表情を歪ませると対照的にユニは上機嫌で嬉々として話し出した。


『当然ナーシャ先輩のお尻にずっとくっついてレースを楽しんでました。ああー、可愛かったなぁ。障害物にぶつかったりコースアウトした時に叫ぶナーたんの声……あは、あはは、あははははははは! 今回はエルル先輩の後にくっついてレースを楽しむ予定だから優勝とかそういうのはどうでもいいの。ロリはやっぱり最高だぜ!』


『……やっぱりか。そう言えばナーシャ先輩がレース中ずっと後ろにユニが居て怖かったと言っていたよ。コースアウトから戻ってきた時にも何故か君が出待ちしていて、その後も常に後ろにいたから意味が分からず恐怖で泣いてしまったそうだよ。自分の欲求を満たしたい気持ちは分かるけど、相手の気持ちも考えないと敬遠されてしまうよ。気をつけないと』


『――!? な……確かにその通りだね。よし、分かった! 今からナーシャ先輩に謝罪と仲直りの抱擁をしてくりゅ!!』


『そう言うところだよ、ユニ。なにどさくさに紛れて楽しもうとしてるのさ』


 五期生は皆こんな感じでそれぞれが好きな配信を思う存分楽しんでいる。

 フェンは料理、バハームは雑談で癒やしを提供、ユニはロリショタ探求の他にロボットも好きでゲームやプラモデル組み立て、フェニスは溢れる母性を活かしたASMR。

 四人でコントをする四期生とは異なり個人配信が強い印象だが、コラボをしても上手い具合に調和が取れているので五期生は皆が大人で落ち着いている印象だ。ただしユニを除く。

 ちなみに六期生は五期生とは真逆に全然落ち着いておらず、同期が集まれば全員でボケ倒すという危険極まりない連中の集まりだったりする。

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